赤備え達の話に毛利家は涙する
亀次郎達の案内で山に入った赤備えの面々は、既に全員集合していたが、直ぐには動けなかった。理由は
「兄上。毛利家の方々、遅いですな」
毛利家の面々がまだ到着してなかったからだが、待っている間に源太郎は
「仕方あるまい。あの動きは、儂達も最初は苦しんでおったからな。それに、源次郎を始め、皆も分かっておるじゃろう。
百里を走り抜けた後、我々以外で問題なく動けた人間は少なかった事を。それはつまり、儂達がやっている訓練は異常という事じゃ。あの訓練をほぼ毎日やっておったら
生半可な事では、疲れも無いからのう。それに、儂達の速さで移動しておった上杉家、黒田家、尼子家の方々も、疲れておったが動けておった。
これは柴田家と共に訓練を行えば、それだけ精強な軍勢が増えるという事じゃ。それはひいては、殿が仰っていた、内府様の考えの「南蛮に負けない国作り」
の軍事の部分に必要な事だと、儂は思う。儂達が動けるうちに、日の本が統一されて南蛮や明との戦になった時、何としても参加したいのう」
天下統一後の動きとして、戦になった場合の事を考えていた。源太郎がそんな事を考えていたら、やっと
「赤備えの皆様、遅くなり申し訳ない」
藤四郎達が到着した。しかし、足が震えていたので、
「小早川様、そして皆様。その様に歩くのもやっとな状態では、万が一にも大怪我を負う可能性もありますので、あまり無理をしないでくだされ」
やんわりと「走るな」と言っておいた。そして、藤四郎達も、
「申し訳ない。次郎兄上の手前、何とか山の中までは来ましたが、槍や刀を杖代わりにしないと、立つのもやっとなのです。なので、猪や鹿退治をお頼みします」
自分達が動けない事を赤備えに伝えて、狩りを頼んだ。頼まれた源太郎は
「分かり申した。それでは、亀次郎殿。案内をお願いします。喜兵衛殿。万が一の為に連絡役として待機しておいてくだされ」
「うむ。皆も気をつけてな」
「それでは亀次郎殿」
「はい。こちらです」
「皆!静かに早く!いつものやり方を忘れるな」
「「「おう」」」
小さい声で返事をした赤備え達は、亀次郎の案内で山中の深くに入っていった
残された藤四郎達は、昌幸に対して
「真田殿。飯富殿達は、どの様な経緯で柴田殿に仕える様になったのですか?教えていただきたいのですが」
源太郎達が仕えた理由を聞いて来た。昌幸は
「小早川様。実は源太郎殿達は、殿の初陣の敵だったのです。吉川様が話しておられた十四年前の美濃国での戦の際、武田家の足軽だったのが源太郎殿達だったのです」
簡単に説明した。すると藤四郎は
「敵だったのに、何故、仕えておるのですか?」
細かい部分まで聞いて来たので、昌幸は
「それはですな、殿が源太郎殿の心を動かした。とでも言えばよろしいですかな。戦の後、捕虜となっていた源太郎殿は、殿に対して、
「自分の首で源次郎達を解放して欲しい」と懇願しておりました所、殿からある提案をされたのです
その提案とは、源太郎殿達の所属していた軍勢の本陣代わりの城に戻った時、源太郎殿に対して大将達が労いの言葉をかけたのであれば、源太郎殿の首で源次郎殿達を解放しよう。
ただし、労いの言葉が無ければ、解放する話は無しだ。と、約束したのですが、その大将は事もあろうに、その時から数年前に、武田家が割れない為に
自害した、源太郎殿と源次郎殿のお父上の事を愚弄したのです。そこで、源太郎殿は武田家を出奔したのですが、
その城から戻って来た源太郎殿を、殿は家老の利兵衛時と共に、待っていたのです。それこそ、日が昇る前から。そして、戻って来た源太郎殿に対して、
「自分の命と引き換えに家族や仲間を守ろうとする者は信用出来る」と言った事で、源太郎殿は殿に命尽きるまで仕える事を決めて、源次郎殿達も、
そんな源太郎殿に説得されて仕えて、そこからは、十年以上、平時でも戦場でも、常に側に居るのです」
細かい部分まで話すと、藤四郎達は
「な、何と、素晴らしい主従関係ですか」
「例え敵であっても、それ程の信頼を持って接するとは。しかも、それが八歳の時なのが」
「やはり、大将の器とは、何歳であろうとも関係ないのですな」
泣きながら聞いていた。そして昌幸は
「小早川様。この話には続きがありまして、拙者も着けている、この赤備えの甲冑ですが、実は武田家で源太郎殿と源次郎殿のお父上が創設したのですが、
源太郎殿達が仕え始めた初日に、二百人分の赤備えの甲冑を贈呈したのです」
「何と粋な事を!」
「それを八歳の童が実行したとは!」
仕えた初日の事も話すと、藤四郎達は更に驚いていた。そんな藤四郎に昌幸は
「小早川様もいずれは当主になるとはいえ、殿のやって来た事は、あまり参考にならないかと思いますが、
それでも、真似出来る所は真似をしても良いと思いますぞ」
話をまとめた。そして、話を終えた頃、源太郎達が戻って来て、
「喜兵衛殿!猪も鹿も雉も三匹ずつ捕獲出来ましたぞ!久しぶりに殿の料理をいただける好機なので。張り切りました」
「それは良き事ですぞ!それでは、戻りましょう!」
獲物を持って来たので、そのまま村に戻って行った。ちなみに、赤備え達が全く疲れてない様子に藤四郎達は、軽く引いていた。




