大内家は毛利家も驚く日の本一の名家だった
「柴田殿。その者が迎えたい客人なのか?」
「見た所、普通の百姓にしか見えないのですが」
まあ、そうですよね。俺だって、初めて会った時に証拠の文と小刀を見るまでは、半信半疑でしたから、ただ、この現状だと、目立って仕方ないな
「亀次郎殿。此方のお二人の紹介も兼ねて、亀次郎殿の家にお邪魔してもよろしいですかな?」
「狭い家なので、あまり大人数は勘弁して欲しいのですが」
亀次郎さんが、「人数少ないなら良いよ」と言ってくれましたので、
「ならば、儂達は儂と藤四郎の二人でお邪魔するとしよう。それで良いかな、亀次郎殿」
「は、はい。柴田様は」
「儂達は儂と喜兵衛でお邪魔するとしよう。良いかな亀次郎殿」
「それくらいならば、問題ありませぬ」
と亀次郎さんが言ったので、大内家の自宅に行きましたら
「柴田様!お久しぶりです」
「誠に迎えに来ていただき、ありがとうございます」
「見てください。亀童丸も大きくなりました」
大内家の皆さん、俺をフレンドリーに対応しても大丈夫な人と思ってくれた様で、気さくに話しかけてくれます。そんな皆さんが毛利家の2人に気づいた様で
「柴田様、父上。こちらのお二人は」
「柴田様から説明するそうじゃ。柴田様、お願いします」
俺に紹介しろと言っておりますので、
「では。こちらのお二人は毛利家の家臣の吉川次郎殿と、小早川藤四郎殿です。現在、織田家と毛利家は停戦中ですので、敵意ある行動は取りませぬ。先程の野盗退治を見てもらえたら分かりますでしょう」
「も、毛利家の方ですか。ま、まあ、先程の野盗退治と柴田様の言葉に嘘偽りは無いでしょうから、信じます」
何とか変な空気は無くなりました。
「亀次郎殿。お二人に自己紹介を。吉川殿、藤四郎殿。間違いなく驚くでしょうが、出来るかぎり大声を出さない様にお願いします」
「柴田殿。柴田殿の無茶苦茶な行動のあとでは、流石に驚く事も殆ど無いでしょう。ですが、期待しておりますぞ」
ナイスな前フリありがとうございます。それじゃあ
「では。亀次郎殿」
「はい。それでは。吉川様。小早川様。我々家族、実は、三十五年前に家臣の謀反で滅亡した、大内周防介義隆の子孫なのです」
亀次郎さんの自己紹介を受けた2人のうち吉川元春は、しばらくフリーズして、フリーズが直ったら
「は、はああああ!?」
やっぱり大声で驚いておりました。なので、
「吉川殿」
少しばかり、落ち着かせる。時間を置いたら、
「お、お、大内家の子孫とは、誠なのですか?」
吉川元春、面倒だから吉川さんが質問して来た。質問に対して亀次郎さんは
「こちらの化粧箱の中を見ていただけたら、納得していただけるかと」
例の化粧箱を見せる。吉川さんは
「こ、これは大内菱!では、誠に。中を見させてもらいますぞ」
大内家の家紋を見て、驚きつつも、箱の中を見る。そして、亀次郎さんの父の大内義隆の文を見つけて
「読んでもよろしいですかな?」
亀次郎さんに聞くと、
「どうぞ」
亀次郎さんは許可を出す。そこから吉川さんは読み出すと
「誠に、大内周防介義隆公の四男なのですな」
信じてくれた様で、亀次郎さんも
「信じていただき、ありがたき」
そんな2人の会話についていけてない藤四郎くんは
「次郎兄上。その、拙者は大内家の事を全く分からないので、簡潔に説明していただきたいのですが」
大内家の説明を吉川さんに求める。吉川さんは
「儂も父上から聞いた話でしか説明出来ぬが、先ず、大内家は歴史がとても古い。先祖は源平の争いよりも昔、天平の時代には既に朝廷で官位をいただきながら、働いていたそうじゃ
そこから武家になり、室町幕府設立に貢献し、南北朝の戦、観応の擾乱、そして応仁の乱でも働き、日の本の西国の殆どを領地としておった
つまり、毛利家も織田家も相手にならぬ程、歴史ある名家、源氏と平家の嫡流無き今、日の本で最も歴史ある武家なのじゃ」
簡単に説明したんですが、藤四郎くんは
「それ程の歴史ある名家の方が、何故、農作業を?三十五年前に、お父上が謀反により討たれたとて、それ程の広大な領地を持つ名家ならば、多くの兵が居たのでは?」
何で反撃しなかったのか?と質問して来た。亀次郎さんは
「小早川様。その疑問に関しましてですが、拙者も母上から教えてもらった話としては、父上が長門国と周防国を京風の雅な街にする為に、税を重くしたり、
軍事を担う家臣と理財を担う家臣で、軍事を担う家臣を軽んじた結果、謀反が起こり、拙者の兄達も、父上と共に討たれた。との事です。そして、父上に味方する家臣も殆ど居なかったそうです」
お袋さんから教えてもらった大内家滅亡の内情を話す。それを聞いた藤四郎くんは
「辛い事を話していただき、申し訳ない」
と、頭を下げた。そこで吉川さんが、
「亀次郎殿。柴田殿に召し抱えてもらう目的は何でしょうか?」
俺に召し抱えられたい理由を教えてくれと言って来た。その質問に亀次郎さんは
「吉川様。もしも、中国地方で大内家が再興したと広まろうものなら、良からぬ事を考える輩が出て来て、日の本がまた戦だらけの世になってしまいます
なので、拙者としましては、孫が元服した時に、別の地方で一万石くらいの領地を持つ大名になってくれたら、それで良いのです。
その時、拙者は死んでいる可能性が高いですが、戦無き世に子達と孫が幸せに生きている。それが拙者が柴田様に召し抱えてもらいたい理由です」
そこまで言うと、吉川さんに平伏した。それを見た吉川さんは、
「そこまで考えておられたとは。軽々しく聞いて申し訳ない」
と、頭を下げた。このままじゃ、話が終わらないので、
「吉川殿、藤四郎殿。そして亀次郎殿。今日はもう遅いですし、野盗の心配もありますので、集落全体の護衛も兼ねて、出立は3日後にしたいと思います。よろしいですかな?」
「「「構いませぬ」」」
皆さん納得したので、とりあえず2日はゆっくりする事が決まりました。




