軍議の争点は銀山と領地とその他色々
織田軍が安芸国に入った事を知らない毛利家は、降伏の条件の為の軍議に入ると、早速、
「織田はやはり、石見銀山を要求してくるじゃろうな」
吉川元春が争点のひとつである、石見銀山について話す。隆景達どころか、輝元もそれは分かっている。
全員一致の本音としては、手放したくない。だが、それは不可能だと分かっていたので、
輝元が
「最悪の場合、石見銀山、いや、石見国そのものを取られても仕方ないと思うしかありませぬ」
そう言うと、隆景は
「殿。石見銀山どころか、石見国を取られた場合、毛利家の税収が、三割近く減るのですよ?それでもよろしいのですか?」
石見国を取られた後の事を話すが、輝虎は、
「あくまで最悪の場合です。それに、織田に公方様を渡せば、多少なりとも目溢ししてもらえる可能性もあるかと」
足利義昭を織田軍に引き渡す事も条件の1つに入れる事を提案する。それには叔父達全員、反対しなかった。どうやら義昭の存在は、面倒くさい存在だった様だ
そんな中、元清が
「しかし、織田は銀山や領地の割譲だけで納得すると思えぬのですが」
そう言うと、輝元は
「四郎叔父上。人質の事ですな?確かに、織田は銀山と領地を自分達の物にしただけでは、毛利家が臣従したとは思わぬでしょうな
その為の人質を何人出せば、織田は納得するのか。母上は自らが人質になっても良いと仰っていたが」
そこまで言うと、輝元含めた全員が言葉に詰まる。その時、
スパーン!
軍議中の大広間の襖が開き、
「父上!私が祖母様の代わりに、織田の元へ行きます!」
安芸乃が人質になると宣言した。それを聞いた輝元は勿論、元春も隆景も
「たわけ!勝手に決めるな!」
「そうじゃぞ安芸乃!それはこれから決める事じゃ!」
「安芸乃。頼むから大人しくしてくれ!」
安芸乃を宥めるが、安芸乃は引かない。何故なら
(お婆ちゃんは史実なら、十四年前に亡くなっているはずなのに生きてる。この歴史のバグは嬉しい事だけど、私の歴史知識が悉く外れている。その原因も調べたいし、
此処で私が信長か信忠の側室にでもなれは、お父さんか、元服した幸鶴丸がありえないやらかしをしない限り、毛利家は安泰のはず!)
心中で、そんな事を考えていたからである。そんな安芸乃に対して、輝元は
「安芸乃。それは、母上の事は勿論、毛利家の事も考えての言葉か?」
安芸乃に問いかける。安芸乃は
「はい。私は、嫁入りで毛利家に協力出来なかったのですから、こんな時こそ、毛利家の為に役立ちたいのです!」
輝元達を見据えて、はっきりと答える。そんな安芸乃に輝元は
「分かった。軍議で決まったら伝えておく。だから部屋に戻れ」
軍議から出て行く様、命令し、
「はい。失礼します」
安芸乃も素直に受け入れて、部屋に戻った。
安芸乃の足音が聞こえなくなると、元春が
「殿。姫の覚悟を受け入れるとは、強くなられましたな」
輝元を労う。隆景も
「流石の織田も、姫を含めた数名を人質に出したなら、納得するはずでしょう」
同じく輝元を労う。2人に労われた輝元は
「叔父上達。忝い。それでは軍議を再開しましょう。拙者の考えとしては、織田が石見銀山や石見国を要求するのであれば、
毛利家の領地は多めに残してもらいたいと思う。それこそ安芸国は当然であり、周防国、長門国、備後国は出来ればくらいですが、問題は出雲国と備中国です」
織田家に絶対に取られたくない国を上げていき、その中で問題ある国も上げる。その理由を
「殿。織田の軍勢の中に居る尼子の残党が気になるのですな?」
隆景が指摘する。指摘された輝元は
「又四郎叔父上。その通りです。もしも、尼子の残党が、毛利家への恨みを持ったままだど、危険な存在になります。なので、織田へ降伏する際の条件として、
尼子を毛利家の領地に近づかせない事を明確に伝えるべきだと、拙者は強く思います」
尼子家への強い拒否反応を示す。それを聞いた元春から
「ならば殿。織田へ渡す国として、石見国、出雲国、伯耆国、因幡国、美作国、備中国。としますか?尼子にこの中の国に領地を持たせない事を条件として交渉したら、
織田は納得するかと思います。この条件を織田が了承したならば、備後国、安芸国、長門国、周防国、隠岐国を保持出来ます」
そう説明される。説明を聞いて輝元より先に隆景が
「希望どおりの国を保持出来たら、およそ九十六万石ぐらい。これに、姫様と他数人を人質として織田へ渡すと同時に、
公方様を織田へ売る。これを降伏の条件として、織田と交渉しましょう。あとは、殿が織田から切腹を命じられない様に、神頼みするしかありませぬ」
軍議をまとめに入ると、輝元は
「では、それをまとめて書いて織田に伝えましょう」
軍議で上がった条件で降伏すると決断した。大広間の全員が、ほっと一息ついて、少しだけ気を緩めた時、
ダダダダ!
と廊下を走る足音が聞こえて来ると、その足音が大広間の前で止まると
「何事じゃ?」
隆景か足音の主の家臣に質問する。家臣は呼吸が乱れながらも
「も、申し上げます!お、織田の軍勢が、安芸国へ入ったとの報告です!吉田郡山城まで、残り十里程の距離に来ておると報告がありました」
織田軍が近づいていると報告する。報告を聞いた輝元は、
「何という進軍速度!軍議があと二日、いや、一日でも遅かったら」
そこまで言うと、背中を冷たい汗が走った。それは、大広間に居る叔父達も同じくだった様で
「早めに決まって良かったと言えるか」
「戦に強いだけでなく、移動も早いとは」
「織田は妖か鬼を大将にしておるのかと疑う速さじゃ!」
と、織田軍の尋常じゃない速さに驚きと恐怖が入り混じっていた。そんな中で隆景が
「殿。拙者が殿の名代として交渉して来ます。よろしいですな?」
と、輝元に確認すると、元春が
「待て又四郎!その交渉に儂も連れて行け!」
自分も交渉に参加すると言って来た。隆景は
「兄上。交渉の場で暴れないと約束出来ますか?」
元春に大人しく出来るかと聞く。元春は
「儂とて五十歳を超えておるのだから、大事な場で大人しくする事くらい出来る!儂が交渉の場に行きたい理由は、山陰で儂の軍勢を敗った、柴田六三郎という大将を務めた若武者に会い、どの様な為人かを知りたいだけじゃ!」
交渉の場に行きたい理由が六三郎である事を伝える。それを聞いた輝元が隆景に
「又四郎叔父上。次郎叔父上も連れて行ってくだされ。大人しくすると言っておられるのですから、大丈夫でしょう」
元春を連れて行く様に頼む。隆景は
「分かりました。それでは、家臣達と共に、織田の元へ行き、この事を伝えて日程の調整を頼んでまいります」
「よろしくお願いします」
こうして、毛利家の降伏条件が決まり、織田軍への交渉役も小早川隆景に決まり、これから戦の落とし所が決まっていく




