祖母は孫から我が子の事を聞き
「安芸乃と幸鶴丸。父上の事で何が気になっているのですか?」
「祖母様。父上は織田との戦において、自らの行ないで、敗れた事を分かっているからこそ、何とか挽回しようと躍起になって、叔父上達の話を聞かないのです
このままだと、織田が安芸国へ入り総攻撃を仕掛けて来ます!そんな事が起きたら、安芸国の民は、毛利家は」
「祖母様!父上を説得していただけないでしょうか!」
安芸乃と幸鶴丸は、あややに再度、頭を下げた。そんな2人にあややは
「織田はそれ程までに、強大なのですか?」
織田軍の強さと毛利家の現状を聞くと、2人は
「はい。山陰で次郎叔父上の軍勢が敗れ、山陽で又四郎叔父上の軍勢が敗れた事により、周囲の国人領主や地侍達も織田の味方になり、毛利家を見限りました」
「このままだと、どれ程叔父上達が戦上手であろうとも、最悪の事態は免れません!」
はっきりと毛利家の最悪の未来を口にした。それを聞いたあややは
「二人共、分かりました。私に任せてください。父上に、織田に下る様に話をしましょう」
「「申し訳ありませぬ」」
「良いのです。あなた達の祖父である殿が、死んでしまった時、私は何も出来なかったのですから。今度こそ、毛利家の役に立たないでどうしますか!」
あややはそう言うと立ち上がって、部屋を出る。その足で、輝元の部屋へ向かい、
「太郎!入りますよ」
輝元の言葉も聞かずに、部屋に入ると輝元は
「母上。何が用ですか?」
不機嫌そうな対応をするが、あややは
「太郎。あなたも分かっているでしょうから、目的の話をしますが、織田に下るのは、そんなに嫌ですか?」
与太話などせずに話をする。すると輝元は
「母上まで。拙者は毛利家の当主ですぞ?簡単に織田に下るなど」
拒否の姿勢を見せる。しかしあややは
「太郎。それは、あなたの本心ですか?」
輝元に本心なのかと問いかける。輝元は
「いえ。亡き祖父元就公の遺言の「毛利家は天下を望まず」を守っているだけです。天下を望まずとも、毛利の敵に立ち向かわないといけないと思ったからこそ、戦う覚悟なのです」
祖父の毛利元就の遺言を守っているだけだと言う。しかし、あややは
「太郎。それは亡き義父上の遺言であって、あなたの本心ではないのでしょう?あなたの本心を話してください」
輝元の本心を求めた。母の言葉に輝元は
「分かりました。拙者の本心としては、織田の軍勢の中に尼子の残党が居る事が恐ろしいのです。祖父様や叔父上達が、死力を尽くして、やっと臣従させた尼子が、
当時の恨みを拙者だけでなく、安芸乃や幸鶴丸にぶつけたらと考えると、拙者は、拙者は」
涙ながらに本心を明かす。輝元の本心を聞いたあややは、
「太郎。それならば、織田に下る際の交渉でどうにか出来るでしょう。それに、織田が征圧した国で悪辣な事をしている等の情報は無いのでしょう?
あったら、次郎殿や又四郎殿が軍議を開く余裕があるわけが無いはずです。ならば、交渉に臨んでも良いではありませぬか」
現状から織田軍の行動を推測して、交渉の余地がある事を提案する。母の言葉に輝元は
「織田の者達と交渉を」
呆気に取られた顔になるが、あややは
「次郎殿や又四郎殿と条件を決めて、それを織田に伝えなさい!そこから、毛利家に残せる領地と失う領地を、天秤にかけて、
是が非でも残さないといけない領地を含めた色々なものを、織田と交渉して来なさい!」
輝元に発破をかける。輝元は、
「母上。目の前が開けた気がします。この事で叔父上達と話して来ます」
背中を押された様だった。そんな輝元にあややは、
「太郎。私は毛利家の為ならば、織田の人質になっても構いませんからね!その事を叔父上達に伝えなさい!」
「ははっ!」
自らが人質になってでも、毛利家を守る気概を見せる。輝元も母の気持ちを尊重して、返事だけして、大広間へ向かう
大広間には、既に元春達が勢揃いしていた。輝元が入ると平伏する。それに対し輝元は
「叔父上達!頭を上げてくだされ!」
以前と違う、覇気のある声で元春達に呼びかける。元春達は驚いているが、そんな元春達をよそに
「叔父上達!悩みに悩んだが、拙者は、いや、毛利家は織田に降伏すると決めましたぞ!」
高らかに降伏を宣言する。その様子に元春は
「御決断なされたのですね」
と、優しく話し、隆景は
「殿の御決断に従います」
と、輝元を支える言葉を伝えると
「拙者も同じく!」
「拙者も!」
「同じく!」
他の兄弟達も、輝元と隆景の言葉に従う。大広間の全員の言葉を確認した輝元は
「うむ。それでは叔父上達。織田に降伏する事に際して、無条件での降伏は良くない事は、儂含めて全員一致しておるじゃろう。なので、その条件についての軍議を行なう!」
「「「「ははっ!」」」」
こうして、輝元の子供達の懇願により、輝元の母が動いて説得した結果、毛利家は降伏する事になった
これから、その軍議を開くが、軍議には「織田軍が吉田郡山城へ到着するまでに」という制限時間がある為、急ピッチで決めないといけない事になる
毛利家がそんな状況だと知らない織田軍は
天正十四年(1586年)六月十五日
安芸国 某所
「遂に安芸国へ入ったぞ!長宗我部殿、六三郎殿。疲れておらぬか?」
「我々、長宗我部家、まだまだ余裕ですぞ」
「柴田家は、何人かは疲れておりますが、戦には支障ありませぬ」
遂に安芸国へ入って来た。毛利家の降伏条件を決める軍議は、間に合うのか?




