落ち着いた移動の織田と敗走の毛利
天正十四年(1586年)五月十七日
備後国 某所
「遂に、備後国へ入ったのう。六三郎殿」
「はい。備後国に関して、尼子殿と山中殿が教えてくれましたが、出雲国との境にあたる北部は当時の尼子家との戦の為に堅固にしているそうですが、残りの東と西と南は、そうでもないそうです」
皆さんおはようございます。毛利輝元と小早川隆景率いる、毛利軍との戦から6日過ぎて、遂に備中国を抜ける事が出来て、安心しております柴田六三郎です
毛利との戦の前に、中国超大返しをやった事もあって、秀吉から、「ゆっくりとした移動でも良かろう」と言ってもらえたので、戦後処理の殆どを秀吉と佐久間様に任せて、休みを挟みながら、
働いておりました。そして、俺と秀吉と長宗我部さんは、備後国へ進むけど、佐久間様はどうしますか?
となった時、佐久間様から「自分達の軍勢は足手まといになるから、備中高松城を囲みながら、安土城へ定期的に報告の文を送る」と言ってくれましたので、
「じゃあ、それで」となりました。話がまとまった際、秀吉から佐久間様に、「これから梅雨入りだから、備中高松城の周囲に壁を作って、水攻めしてやれ」と、
ここで史実の備中高松城の水攻めをやる事が、決定しました。まあ、秀吉は最初から、水攻めを提案していたので、今更感はありますが、それでも佐久間様の軍勢への負担が減るなら、やってもらいましょう
小早川隆景が、どれだけ名将でも、流石に同じ手で佐久間様を攻撃する事は、不可能なはずですし
まあ、そんな感じで備中国は佐久間様に任せました。
そんなこんながありまして、備後国に入ったわけです。今のところ、備後国と備中国の境から少しずつ離れているのですが、心の余裕があるからなのが、
思わず、前世で見た実際に起きた事件を元に書いた小説で、映画化されたりしたミステリー作品の「八◯◯村」の事が頭の中に出て来ました
あの作品は確か、戦国時代に毛利家に戦で敗れた尼子家の武士の八名が、備中国の中でも辺鄙な村に落ち延びて、そこで尼子家再興の為に身を隠して働いていたけど、
隠し持っていた黄金三千両が村人に見つかってしまい、村人達の夜襲で殺された八名の武士の祟りや怨念のせいにして、約400年後の同じ土地で起きた隠された黄金三千両を奪う為の殺人事件連発な作品だったな
まあ、今の俺達がそうなる可能性は、無い。はずだよな?俺達は四万五千の大軍だし、対する毛利は推定だけど、恐らく三万前後だろう。その三万前後が、
安芸国で俺達を迎え撃つ為に、あちこちに配置されていたら各個撃破に手間取る可能性も出てくるから、
しんどいんだよなあ。1番良いのは、毛利がさっさと降伏してくれる事なんだけど、毛利輝元って、史実でのイメージだと、
ここ一番って時に2択を外すというか、ヘタレるというか、頼りにならないんだよな。本来なら毛利家当主だから、輝元が「降伏する」と決断したら良いのに、
周りの叔父達が、止めたりするだろうな。毛利両川が居る時は、しっかりしてる風だったのに両方亡くなると、一気にはっちゃけた結果が、史実のアレだもんな
俺の場合は、子供がいつ生まれるか分からないけど、毛利輝元の親父さんの、毛利隆元みたいに、ポックリ早死にしない様に気をつけよう
俺が子供が出来たあとに早死にしたら、身体に少しとはいえ障がいがある親父が70歳超えて孫の世話をしないといけなくなる。うん、そうならない様に気をつけよう
六三郎が呑気にそんな事を考えながら、備後国を西へ移動している頃、安芸国では
「次郎兄上!お待ちください!」
「四郎!離さんか!!」
吉田郡山城内で、元春が隆景を探しに行くと言っているが、元清がそれを止めている状況になっていた
「離しませぬ!ここで、次郎兄上が又四郎兄上を助けに行って、そこで織田の軍勢に見つかってしまったら!」
「その時は戦うだけじゃ!」
「あまりにも無謀です!織田の軍勢は援軍に来た長宗我部を合わせると、四万を超えて五万、いや、六万に届いている可能性もあるのですぞ!」
「戦は数だけでは決まらぬ!」
「次郎兄上!その言葉は、敵の軍勢が二倍くらいの差であれば、拙者も納得します!ですが!」
「厳島での戦の時は、二倍以上の敵に勝利したのじゃ!此度も出来ぬ事は無い!又四郎の軍略の才があれば!」
「又四郎兄上に、父上の分も併せて二人分の働きを求める事が間違っているのです!それを何故、分からないのですか!」
元清の言葉に、元春はハッとした。そして、
「では、又四郎を見捨てろと申すのか?」
「そうは言っておりませぬ。我々も又四郎兄上を探しに行くから、一人で行かないでくれと言っているだけです」
元清の言葉に冷静さを取り戻した元春は、
「済まぬ。焦りから周りが見えてなかった。だが、お主達も又四郎を探しに行くのであれば、早く準備せい!」
「ははっ!」
落ち着いた口調で、弟達に準備を促す。そんな中、末の弟の元総に
「藤四郎。お主は殿の側に居て、万が一に備えて織田家様に」
と、伝え、元総も
「ははっ!」
と、返事だけを返した。そして、
「次郎兄上!全員、準備出来ましたぞ!」
「それでは又四郎を探しに行くぞ!」
「「「「おおお!」」」」
全員の準備が整ったので、吉田郡山城を出る。総勢約二万人による小早川隆景の捜索は、安芸国の東側、備後国方面から始まる
兄弟達が自分を探している事を知らない隆景は、備後国の、やや西寄りを馬に乗り脇目も振らずに、走っていた
頭の中では
(これで儂が織田に見つかって、殺されたり、捕獲されたら、次郎兄上は勿論じゃが四郎達も敵討の為に
終わらぬ泥沼の戦に突入してしまう!それでは、戦の引き際や落とし所が分からなくなり、最悪の場合、毛利家が全滅してしまう!悔しいが、織田との戦は、
最終的に毛利の負けじゃ!毛利家の全滅だけは何としても避けねば!その為にも、早く吉田郡山城へ!〕
戦で敗れた悔しさを抑えて、この戦の引き際や落とし所を含めて、どうにかして毛利家を存続させる事を冷静に考えながら、隆景は吉田郡山城を目指す。