急襲する六三郎達
天正十四年(1586年)五月十一日
備中国 某所
六三郎達が伯耆国から備中国を目指し出陣した2日後、毛利側の実質的総大将の小早川隆景は、秀吉との睨み合いを続けていた
「殿。織田の軍勢は種子島や弓で攻撃をして来ますが、微々たる攻撃に留めております」
「うむ。牽制しておるのじゃろう。儂達も、同じ事しか出来ぬ。次郎兄上達も、吉田郡山城で耐えておるはずじゃ!ここで、儂達が崩されるわけにはいかぬが、織田を混乱させたり、動揺させる何かが無いか!」
一方、秀吉も
「ううむ。牽制も兼ねて、小さい攻撃をしても反応せんのう!一筋縄では行かぬにも、程がある。何か、何かきっかけか欲しい!毛利が混乱したり、動揺したりする、何かが!」
隆景と同じく、睨み合いを壊すきっかけが欲しいと思っていた。しかし、互いに名将だからこそ、自分から動く事は悪手だと分かっている為、自分以外が、
何かきっかけになる事を起こす様に願っていた
そんな睨み合いも、遂に均衡が崩れる時が来る。秀吉が、陣幕内で床机に腰掛けて、休んでいる所に
「と、と、殿!」
片桐且元が慌てて飛び込んで来た。秀吉は、
「何事じゃ!?」
慌てて立ち上がる。且元は、
「も、毛利が」
「毛利が攻撃して来たのか?」
「いえ!毛利が攻撃を受けております!」
「誠か!何処の軍勢、」
秀吉はそこまで言いそうになると
「六三郎殿か!!」
顔が笑顔になる!そこに、
「殿!柴田様の家臣の吉田と名乗る方が、文を持って参りました!」
吉田が六三郎からの文を秀吉に渡しに来ると
「直ぐに儂の元へ案内せい!」
連れて来る様、命令した。そして、吉田が到着すると
「六三郎殿の家臣の者じゃな!前置きは要らぬ!文を渡しなされ!」
直ぐに文を受け取り、読み出す
「どれ!「羽柴様へ。この文を読んでいる頃、我々は毛利の横っ面を叩いている頃でしょう!拙者の家臣の到着が先か、毛利と戦っているかは分かりませぬが、
何もしないのでしたら、毛利を我々だけで叩きのめしますぞ?」と、あるが。くっくっく!やはり、六三郎殿は、家柄が良いだけの若武者ではないな!
何故、山陽に居るかは戦が終わってから聞くとしよう!吉田殿!働きに感謝致す!早く六三郎殿の元へ戻りなされ!」
「ははっ!それでは失礼します」
吉田が去って直ぐに秀吉は、家臣に
「全員突撃じゃあ!六三郎殿達が毛利を崩したぞ!暴れてまいれ!」
「「「「おおお!」」」」
と、命令し、元親には
「長宗我部殿!毛利への恨み!今こそ晴らしなされ!」
「ははっ!皆!憎き毛利を叩くぞ!突撃じゃあ!」
「「「「おおおお!」」」」
こうして、六三郎の軍勢に、羽柴家、長宗我部家、そして佐久間家を合わせた六万が、毛利の一万九千に襲いかかる
場面は少し戻り、六三郎達に急襲された毛利内部。家臣が隆景に伝えるところから
「殿!美作国方面から、敵襲にございます!旗印は、織田にございます!!」
「何!睨み合いをしている織田は動いておらぬ。と言う事は、山陰を攻めていた織田か!慌てるでない!数は我々の方が多い!落ち着いて対処を」
隆景が言い切る前に
「殿!正面の織田も動きました!此方に向かっております!」
「殿!織田と共に長宗我部も向かっております!」
全ての軍勢が突撃している事を伝えると、
「くそっ!これでは、我々の方が数で負ける!こうなっては、仕方ない!藤四郎!」
「は、はい!」
隆景に藤四郎と呼ばれたのは、毛利家の兄弟で末っ子の小早川藤四郎元総、
史実の小早川秀包であるが、この世界線では、秀包に改名する前の元総のままである
そんな元総は兄の隆景の養子になり、嫡男として、今回の戦に参戦している。そんな元総に隆景は
「お主!殿を連れて、城へ戻れ!」
「な、何故ですか!拙者も戦います!「
「ばかたれ!毛利にとって、最悪なのは殿が討死する事じゃ!それを避ける為にも、お主は護衛として、殿を吉田郡山城へ連れて行け!」
「ははっ!」
元総は、言葉と感情を押し殺して、輝元の元へ向かう。そんな元総を見送った隆景は
「皆!儂が不甲斐ないばかりに、負け戦になってしまって、済まぬ!逃げたい者は逃げて良いぞ!」
残った家臣に、詫びて、逃げても良いと伝える。しかし、家臣達は
「殿!何を仰いますか!我々の事よりも、殿がお逃げくだされ!」
「そうですぞ!殿と吉川様、毛利両川が揃ってこそ、毛利家は強大な武家なのですから!」
「殿!お逃げくだされ!」
「殿!」
「殿!」
「殿!!」
逆に隆景に逃げろと進めてくる。それを聞いた隆景は、
「皆!済まぬ!」
馬に乗り、家臣達に詫びて、戦場を離れた。残された家臣達は
「皆!織田も長宗我部も、死んでも此処を通すな!気合いを入れよ!」
「「「「おおお!」」」」
輝元と隆景を逃す為の壁となり、織田と長宗我部の軍勢に襲いかかる
一方、その頃、吉川元春達は、六三郎達が伯耆国に現れたと聞いてから、出立して1日過ぎたが、まだ備後国を抜けておらす
「皆、急げ!儂達全員合わせても二万。もしも、又四郎の軍勢が囲まれたら、又四郎と藤四郎はおろか、太郎まで討死してしまう!それだけは避けねばならぬ!」
元春は危機感溢れる顔で、そう叫んでいた。しかし、弟の元清に、
「次郎兄上!気持ちは分かりますが、馬が限界です!新しい馬に変えましょう!」
と、止められてしまう。元春も馬の限界は仕方ないと分かっていた様で、
「急ぎ、新しい馬を!急げ!」
「ははっ!」
家臣に新しい馬を連れて来る様、命令する。家臣が馬を連れて来て、
「出立じゃあ!」
夜通し走って、やっと備中国へ入ると、
「次郎兄上!あれは!」
元清が。前方から来る何かに気づく。それは、
「あれは、、藤四郎と太郎!他にも!次郎兄上!」
「遅かったか!くそ!仕方ない!太郎と藤四郎達を回収して、城へ戻り籠城の準備じゃ!」
「「「ははっ!」」」
こうして、六三郎達の奇襲から始まった戦は、織田軍の勝利に終わり、毛利軍は籠城戦の準備に取り掛かった。




