六三郎の策は尼子家の働き次第
天正十四年(1586年)四月二十七日
周防国 某所
「殿。周防国に入っただけでなく、安芸国へ近づいても、毛利の人間を見ませぬな。何処ぞで待ち構えているのでしょうか?」
皆さんおはようございます。現在、周防国と安芸国の境に近い場所に居ます、柴田六三郎です。
5日前に周防国に入って、警戒しながら少しずつ進軍していたのですが、毛利の軍勢にまったく遭遇しません。源太郎も言っている様に、何処かで待ち伏せでもしているのでしょうか?
こんな時は、戦経験豊富な2人に聞いてみるか
「喜兵衛!敵にまったく遭遇しない状況が続いておるが、これは、敵が待ち構えておると考えた方が良いか?」
「そうですなあ、考えられる事として、敵が我々の進軍方向を分かっていないから、分かった時の為に準備をしている。それか」
昌幸さんが、そこまで言おうとした時、
「毛利の本城付近で、我々を一網打尽にする為、待ち構えている。その可能性が高いと思いますぞ」
官兵衛さんが、そう言ってきた。
「つまり、喜兵衛も官兵衛殿も、毛利は我々に対して、安芸国で待ち構えている可能性が高いと思うわけですな」
「はい」
「かなり高い確率で」
(う〜ん。2人の予想が当たった場合、守りをガチガチに固めている敵にそのままぶつかりに行く事になるからなあ、それだと被害甚大だし、そんな状況は避けたいんだよなあ
それこそ、何処か迂回して、隙だらけな場所から攻撃したりとか。ん?迂回?確か、史実の秀吉がやった中国大返しだと、
備中国から備前国と播磨国まで、ほぼ休み無しで走って、そこから明智光秀との山﨑の戦いになった。それを考えると)
六三郎が思考の海に沈んでいると、赤備えの皆が小さい声で
「殿が何か考えておられるぞ。いつもの癖が出ておる」
「きっと、状況を打破する為だけでなく、戦の勝利に近づく策を考えておられるに違いない」
「間違いなく、前代未聞で無茶苦茶だが、壮大かつ剛毅な策じゃ。いつでも動ける様に準備しておかねば」
赤備え達の動きを見て、官兵衛、景勝、鹿之助、勝久、正則、清正は不思議そうな顔をしていた。6人に対して、昌幸が説明する
「各々方。殿は、重大な考え事をする時、あの姿で考えながら歩いていたりするのです。近い所で言うと、
上杉殿の城を攻撃した策も、あの様に考えながら、出た策です。しばらくの間、殿をそのままにしてやっていただきたく」
「「「「「「分かり申した」」」」」」
昌幸の説明に6人は納得した様で、六三郎を放置した。
そして、六三郎が考え始めて、およそ30分
「これから軍議を開きたいと思います!前回と同じ面々に集まっていただきたい!」
前回の軍議に参加した面々を集めて、
「各々方。集まっていただき、忝い!此度の進軍において、伯耆国で戦って以降、出雲国、石見国、長門国、周防国、いずれも毛利の軍勢に遭遇する事は無かった事は、各々方も承知しておりますな?
その事で、拙者は戦経験豊富な官兵衛殿と喜兵衛に質問しました。何故、毛利の軍勢に遭遇しないのかと?
喜兵衛は、我々の進軍方向を見定めていると言い、官兵衛殿は、我々を一網打尽にする為待ち構えていると言っておりました
2人の言葉をまとめると、毛利は我々に対して、安芸国で待ち構えている可能性が高い事になります。
そして、ここからが拙者がもしや。と思う事なのですが、もしも、毛利の軍勢で、山陽で羽柴様と睨み合いをしている者達以外、
全ての軍勢が安芸国に集結していた場合、その場所は素通り出来るのではないのかと思ったのです」
俺がここまで言うと、官兵衛さんが
「成程、六三郎殿。つまり、安芸国に集結している毛利を出し抜き、山陽の羽柴殿の元へ戻り、羽柴殿と睨み合いをしている毛利を叩く。そう言う事ですな?」
俺の考えている事を当てた。だけど、それは半分だけ当たって、半分外れているんです
「官兵衛殿。その通りです。ですが、その策を実行する場合、1日でも早く動く事が出来たなら、戦の勝利が近づくのです。そこで、尼子殿、山中殿」
「「我々に出来る事は何でしょうか?」」
「はい。石見国、出雲国、伯耆国に居る、尼子家の家臣の方々を総動員していただき、名前を上げた3つの国に、毛利の軍勢が居ないかを調べていただきたく!」
「それは構いませぬが、三つもの国を調べるとなると、かなりの時を要するのですが」
「申し訳ありませぬが、2日で調べあげていただきたい!」
「ふ、二日で?そ、それはあまりにも無茶ですぞ」
山中さんが、俺のリクエストに唖然としている。そんな山中さんに尼子殿が
「鹿之助!やろう!」
「殿?誠ですか!?」
「誠じゃ!六三郎殿は、山陰の表も裏も知っている我々、尼子家に頼んで来たのじゃ!そして、我々がこの戦に参戦させてもらった理由は、毛利を叩き、
大名として尼子家を再興させる為であろう!だが、我々の人数は少ない。それならば、ここで働いてこそ、尼子家の存在価値を示す事が出来るではないか!
だから鹿之助よ!儂は、六三郎殿の頼みを受ける!お主も、軍議に参加していない者達も、覚悟を持ってくれ!」
「殿、、、ははっ!」
「六三郎殿!尼子家を総動員し、三つの国を調べ上げますぞ!」
「忝い!この策は、尼子家が調べた後、我々が出立します。目的地は伯耆国で、伯耆国に全員到着したら、そこから一気に、備中国に居る毛利の軍勢を叩く!
勿論、1日でも早い方が良いですが、遅くとも、7日後には伯耆国へ到着する事を目指します!各々方は勿論、家臣の方々にも、前代未聞の無茶をさせてしまいますが、ご了承いただきたい!」
俺の言葉に、官兵衛さんが
「くっくっく。やはり、これまで何度も常識に囚われない戦をしてきた、柴田の鬼若子と呼ばれる六三郎殿の策は、常識外れじゃが、これ程に心踊る策も、
儂とて出せるか怪しい。六三郎殿、この黒田家、その策にのりましょうぞ!」
了承すると、
「上杉家も同じく!越後国で六三郎殿と戦い、その常識に囚われない策の恐ろしさを身をもって知っているのですから、此度は毛利に体験していただこうではありませぬか!」
上杉殿も了承してくれた。それじゃあ、
「それでは尼子殿、山中殿。各地の家臣を動かしてくだされ!」
「「ははっ!」」
さて、俺のやる策は、小規模な中国大返しだけど、これが成功するには、3つの国が安全である事が条件だ。まともな戦が無かった石見国と出雲国さえ抜けたら、きっと大丈夫のはず!