四国が安心な理由とは
夏バテで投稿出来ない日もありましたが、500話に到達しました。
天正十三年(1585年)十一月十日
讃岐国 高松城
4日前に信忠からの出陣命令を受けた長宗我部家は、当主の元親を始めとした、主だった面々で、信房の前に来ていた
「源三郎様!これより我々長宗我部家、総勢二万八千のうち、二万五千を率いて伊予国へ攻め込み、征圧後に備中国に上陸し、羽柴筑前殿と柴田六三郎殿の援軍として毛利を叩きのめして参ります!」
「わざわざ挨拶に来ていただき、忝い。兵糧や弾薬が必要になったら、送ります。なので、遠慮なく申してくだされ」
「ご配慮、誠にありがたき!それでは出陣します!」
「ご武運を祈ります」
「ははっ!では、失礼します」
元親は、信房との面会を終えると、急いで城の外で待つ家臣達の元に行き、
「皆!伊予国へ出陣じゃあ!伊予国を征圧したら、毛利との戦が待っておるぞ!気合いを入れて、一日も早く、伊予国を征圧するぞ!!」
「「「「「おおおおお!」」」」」
一気に士気を高めてから出陣した。そして、地理的に伊予国に進軍しやすい、讃岐国から攻め込んだ長宗我部家は、すぐに国境を超えて伊予国へ入ると
天正十三年(1585年)十二月十五日
伊予国 某所
「皆!遂に!遂に!伊予国全土を征圧したぞお!!!鬨の声を上げよ!えいえいおお!」
「えいえいおお!」
「えいえいおお!」
長宗我部家は、僅か1か月と少しで伊予国を征圧した。しかし、長宗我部家の面々は何か腑に落ちない様で
「弥五郎と弥七郎。お主達も気づいていると思うが」
「兄上の仰るとおりです。抵抗が殆ど無かったですな」
「兄上達!これは、羽柴様と柴田六三郎殿の文に書いていた様に、河野は毛利の援軍に行っているのでは?」
「どうやら、その可能性が高い様じゃな!この事を源三郎様に伝える文を書いて届ける!」
元親はそう言うと、本陣に戻って信房への文を書いた。そして、家臣に渡して信房の元へ走らせた
天正十三年(1585年)十二月二十日
讃岐国 高松城
「殿!伊予国を攻めている父上からの文でございます!」
元親からの文を親和が受け取り、信房の元へ持って来た。信房は文を受け取り読み出す
「どれ。「源三郎様へ、高松城から出陣してから四十日程で、伊予国を征圧出来ましたが、あまりに抵抗が少なすぎた為、伊予国で最大勢力の河野家は、毛利の援軍として出陣したと見て間違いないと思います
文が届いている頃、我々は羽柴筑前殿の援軍として伊予国を出立しているでしょう。そこで、我々の軍勢の殆どが居なくなると、十河を始めとした、讃岐国の
反抗勢力が動き出すかもしれませぬ。なので、お気をつけくだされ」と、あるな。とりあえず伊予国を征圧出来た事は流石じゃな。
しかし、左近殿、十河を始めとした反抗勢力は表立って動いておらぬから、攻撃する大義名分が無いはずでしたな。どの様に対応すべきですかな?」
信房に質問された一益は、
「源三郎様。十河を始めとした者達の件、我々にお任せいただきたく」
「よろしいのですか?」
「たまには、この年寄りも働かないと、大殿と殿に叱責されますからな」
「では、左近殿、お頼みします」
「ははっ!」
信房から任された一益に対して、親和は
「滝川様。それならば拙者も」
自分も参加すると言って来たが、一益は
「香川殿。香川殿は、源三郎様を近くで支えて、長宗我部家との橋渡し役に専念してくだされ」
「し、しかし」
「よろしいですな?」
「は、はい」
食い下がる親和を、歴戦の武将が持つ凄みで無理矢理納得させる。親和が納得したのを確認してから、
「それでは源三郎様。準備に取り掛かりますので、失礼します」
大広間を出て行った。そして、その日の夜、高松城からおよそ五里離れた場所にて
「皆、人数は揃えて来たな?」
「十河殿。伊予国の河野家の一部、阿波国の篠原家の一部、その他小勢も合わせて、三千は着陣しておる」
「三千か、これだけ居たら長宗我部の居ない四国なんぞ、簡単に征圧出来るはずじゃ。毛利からも、長宗我部が四国から出ていったら、
暴れ回ってくれと事前に言われておる。今が暴れ回る好機じゃ!夜襲で、織田の四男坊を殺して、城もろとも焼き尽くしてしまえ」
「「「おお!」」」
長宗我部元親の予想通り、十河一存を筆頭に反織田の勢力が集まっていた。そして、その十河達を隠れて見ていたのは
「滝川様。長宗我部殿の想定通りになりましたな」
「甲斐野殿、やはり長宗我部殿は、四国の表も裏も知り尽くしている大名ですから、この様な事も想定出来たのでしょう」
信房から十河達を任された滝川一益、そして、勝姫が甲斐国から連れて来た忍の頭領だった。その事を勝姫が信房に讃岐国に入る時に伝えると、
「名前が無いのは、呼びにくいから、「甲斐国から来た忍」と言う事と、自分の諱の一字を付けて「甲斐野任三郎景房と、
言う名前を付けたい!そして所領は先ず千石で良いか?」と、勝姫を通じて聞くと、翌日には
本人が信房の前に出て来て、涙を流しながら、感謝を示した。その事で、讃岐織田家の忍びとして甲斐野家が始まった。この件で甲斐野は
「滝川様。源三郎様は心の優しいお方ですから、この事は知らせたくないですな」
「甲斐野殿。それは拙者も同じく。源三郎様は清廉潔白な為政者として讃岐国は勿論、長宗我部殿と共に、四国を発展させる事に、
集中していただきたいですからな。この様な人に言えぬ役割は、我々が請け負いましょう」
「そうですな。そろそろ動きますか」
「動きましょう」
2人はそう言いながら、部下達を連れて、十河達の周りを音も無く取り囲む。そして、
「いかん!取り囲まれ」
そう言い切る前に、十河は殺され、その他に集まっていた者達も、あっという間に殺された。そして、一益と甲斐野は証拠隠滅の為に、三千の死体に油をかけて
全てを焼いた。その事を翌々日に信房にこの様に伝えた
「十河達は、同士討ちをしたのか全員死んでおりました。こう言う事もあるのですな」
偽の報告を聞いた信房は
「そうですか。まあ、これで四国の情勢が不安にならないのであれば、良しとしましょう」
と、納得した。この信房を見た一益と、見えない場所で護衛の任務に就いている甲斐野は、やっぱり真相は伝えない。という結論に至った
これが四国が安心である理由だと、信房だけが知らない。しかし、誰もが信房に伝えてはならないと判断した。
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