父親達は見ていた!
この作品はフィクションです。史実と違いますので、その点、ご理解ご了承ください。
俺達が村人達と共に退治した猪の解体を終えて、屋敷への帰路の途中
「吉六郎!!」
聞き慣れたデカイ声が聞こえた。間違いない親父だ。
こんな場面では急いで挨拶に行かないと拳骨をくらうから、急いで走った。すると、
「父上。遅くなって•••前田様?木下様?それに殿まで。戦が近いのですか?」
そう、親父だけでなく、犬千代殿の親父の前田様、市松と夜叉丸の主君の木下様。他にも清洲で話し合いをしていた筈の面々が目の前にいた。そんな中、親父の主君の殿こと、織田信長が喋りだした
「権六の倅の吉六郎よ。途中からであったが見ておったぞ!形は小さいながらも、五尺程の大きな猪に対して先陣を切る姿、
戦の時の権六に瓜二つじゃ。それに犬の倅も!吉六郎と共に先陣を切り、走る姿は昔の犬を思い出す。そして猿の小姓の二人!
猿より武芸を習い始めたと聞いておる。模擬槍の扱いはまだまだではあるが、先陣から遅れまいと走り続け、先の二人と共に猪を攻撃しながら追い立てた事、将来が楽しみである。四人共、更に励め!!」
「ははっっっっ!!!!」
土の上だけど、この場は膝をついて頭を下げないと失礼になるからね。て、いうか。そんな事よりも!
「あの、宜しいでしょうか?」
「うむ。許す!話してみよ」
「皆様は清洲にて話し合いを行なっていた筈では?何故、こちらへ?」
「うむ。清洲での話し合いは早い段階で終わった。飯を喰う事になったが、権六の屋敷のつる殿が作る飯が美味いと皆が言うのでな、是非とも喰いたいと思い、ここまで来たのじゃ」
「そうだったのですか」
「しかしじゃ!」
殿の声が大きくなったけど、屋敷で何かあったのか?
「権六の屋敷に着いたら、つる殿から「米はありますが、主菜が無くて申し訳ありませぬ」と言われて、何故かと聞いたら、急な来客に出して無くなったと。それで吉六郎が飯を喰った「急な来客」を連れて猪退治に向かったと聞いてな」
あー。そう言う事か。つるさんの飯を食べに来たらオカズが無い事を知って、オカズを取りに行った俺達が気になったから来た訳か
「お主らの行先に来てみれば、面白き物を見る事が出来た。して、退治した猪はいつ喰える?」
「あの、殿。猪ですが、協力していただいた村の方々と半分に分ける事になっておりますので」
「吉六郎!殿が食すのだぞ?」
あー、もう。親父よ、この場面だけは我が儘言ったらダメなんだよ
「父上!!村人の方々とは、この猪を退治する前から半分に分けると約定を交わしております。この約定を違えたなら今後、何も協力してもらえませぬぞ?それに、奇妙様の共の方々と小一郎殿を含めて三十人足らずで、この猪を退治出来るとお思いか?」
「何を言う!小童の癖に生意気な事を申すな!」
俺の正論に親父がキレる。一瞬静寂が来たけど、直ぐに静寂は消えた。理由は
「はっはっは!」
殿の大笑いだった
「いや吉六郎よ。其方の申すとおりじゃ。確かにこの猪は村人の協力無しでは退治出来ぬ大きさじゃな。しかも半分に分ける約定をしたなら違える事など、あってはならぬ。村の者達よ。要らぬ心配をさせてすまぬ。猪の半分は其方達の物じゃ安心せい」
声は出てないけど、村の方々の安堵感が感じ取れる
「しかし吉六郎よ。其方の親父は敵からは「鬼柴田」と呼ばれる程の武将ぞ。その父に対して一歩も引かぬ胆力、見事としか言いようがない」
「殿!倅が調子に乗ってしまいますので、過度なお褒めは」
「分かっておる。だからこそ、吉六郎」
「は、はい」
「権六は儂に対する忠義故、あの様な行動に出たのじゃ。許してやってくれぬか?」
「は、ははっ」
「権六も吉六郎を責めるでないぞ。儂からの命じゃ」
「ははっ」
「それでは、権六の屋敷で待っておるぞ。半分となった猪を早う持って参り喰わせよ」
「はは!!!!」
こうして殿達は先に屋敷に帰った
〜〜場面は変わって信長達〜〜
「権六よ!其方の倅は誠に面白いな」
「倅が生意気な口を聞いて申し訳ありませぬ!」
「何を言うかと思えば、儂や犬の若い頃に比べたら大したことないではないか!普段は武芸の修練も手習も欠かさずやっておるのだろう?」
「それは、はい」
「それに儂に対して村人との約定を守らないのは駄目だと言えるのも、胆力が無いと出来ぬ事ぞ?」
「礼儀知らずで申し訳ありませぬ」
「権六よ。吉六郎は人の上に立つ為に必要な物を幼いながらに持っている良き倅ぞ!胸を張れ!」
「ありがたきお言葉にございます。ですが、まだまだ世間知らずの小童にございますので」
「世間はこれから知れば良い。しかし若者が健やかに育ちながら武芸に励むは良い事じゃ!!これからの織田家が楽しみじゃ!」
そう言いながら信長達は屋敷に着いた