織田家の動きと毛利家の秘密
「よし!安土城へ届ける文は完成した!急ぎ、殿へお渡しして来い!」
「ははっ!」
「拙者も長宗我部家への文が完成しました!吉田!土佐国へ急いでくれ!」
「ははっ!」
六三郎と秀吉は、互いに連名の文を書き終えて、それぞれの文を届けさせる為に家臣を走らせた。念の為、護衛も付けて、出発させたが、2人共、
「六三郎殿、播磨国に入るまでは不安じゃな」
「はい。もしも、備前国の国人領主達に、毛利が織田家を押し戻した事を知られたら、備前国が一気に危険地帯になります。それは避けたいところです」
「出来るかぎり早く、長宗我部家の援軍が来て欲しいのう」
「羽柴様。文に関しては祈るしかありません。今は、山陰へ攻める別働隊の編成を急ぎましょう」
「うむ。そうじゃな」
秀吉と六三郎は、一先ず、山陰を攻める別働隊の編成を優先した
一方その頃、毛利の軍勢は備中国の中央で陣取っていた。その軍勢の中心の小早川又四郎隆景は、毛利家を中国地方の覇者とした、毛利元就の三男であり、毛利本家を支える為、
本拠地である安芸国の小早川家の養子になり、兄で吉川家の養子になった、吉川次郎元春と共に、「毛利両川」と呼ばれる働きを見せている
今回、織田家の毛利征伐において、小早川隆景は山陽道、吉川元春は山陰道の守りに就いていた。両者共、優れた名将であるが、僅かな差で小早川隆景の方が、
軍略に優れている。そんな小早川隆景率いる山陽道の守備隊は、今回、備中高松城の城主、清水長左衛門宗治と連携して、
佐久間信盛の軍勢に大きな被害を与えた事で、兵達はとても盛り上がっていた
「織田の兵達も大した事無かったのう!」
「まったくじゃ!清水様の守る備中高松城に集中した結果、後ろの我々に気づかなかったのじゃからなあ」
「武田と上杉は、どれ程弱体化したから、この様な織田家に敗れたのかのう?」
「知れた事、毛利家よりも弱い織田家よりも更に弱かっただけの事じゃ」
「違いない!」
「「「「「わっはっは」」」」」
家臣達は盛り上がっていたが、守備隊の総大将である小早川隆景の顔に明るさは無かった。その理由は織田家との戦が続いている事が、最たる理由だったが、
他の理由が軍勢の中にあった。その理由とは、
「のう、安芸乃、織田家は備前国との境まで押し戻したのじゃ。ここから先は儂達で対応する。だから、お主は吉田郡山城へ戻って」
「いいえ、又四郎叔父上!私は、毛利従五位下安芸守の娘です!病身の父と幼い弟に代わり、出陣してこそ、家臣の皆の信頼を得られるというものです!
それに、今年で十八歳の私が、嫁入りで毛利家に貢献出来ないのであれは、せめて戦場で皆の士気を上げる事で、貢献したいのです!」
隆景と元春の兄、毛利隆元の子で、現在の毛利家当主である甥の輝元の長女、安芸乃姫が参陣している事である。実子は居ない隆景と言えど、
子供、それも本家の姫が、当主の代理を形だけでも務める事は流石に良くない事であると考えていた。しかし、安芸乃姫の提案する策が見事に当たっている事で、
軍勢の士気も高いので、ここら辺でそろそろ姫として、本城である吉田郡山城に戻って欲しいと思っていたが、そんな叔父に心配されている安芸乃姫には
誰にも言えない秘密があった。それは
(おかしい!確か毛利征伐は、史実では三年前のはず!しかも軍勢を率いる総大将が秀吉じゃなくて、佐久間信盛とか、色々変わってる!それに、隆景叔父さんが、織田家は軍勢を山陽と山陰に分けている
と言ってたけど、これも史実と違う!それに、元春叔父さんからの文には、山陰を攻めている織田家の旗印は五三の桐紋が多数とあった。これは恐らく、山陰の軍勢の総大将が秀吉である証拠と見て間違いない
今の時点で、秀吉が織田家の一家臣と言う事は、本能寺の変が起きてないという事だ!これじゃあ、史実の備中高松城の水攻めを阻止した事が無意味になる
しかも、武田どころか上杉までも敗ったと言っていた。全てが史実と違う!つまりこれは、織田家にも私と同じ逆行転生者、それも、戦国時代を知っている
逆行転生者が居ると見て間違いない!もしも、その逆行転生者が武将として、軍勢を率いていた場合、
私が隆景叔父さんにそれとなく教えている歴史知識も意味が無くなる。それに、史実の備中高松城の水攻めみたいな極悪非道な策を実行出来る人だったら!
そんな極悪非道な策を吉田郡山城周辺で実行されたら、お父さんも弟の幸鶴丸も、
そんなのは私が阻止する!絶対にさせない!〕
六三郎と朝倉家の高代と同じ、逆行転生者である事だった。高代と同じく、武家の長女として生まれたが、朝倉家と違い、家中は安定して周囲に敵も居ない毛利家で自由に暮らしていたが、織田家の毛利征伐が始まると、
父の輝元が病で倒れて、弟の幸鶴丸は未だ元服前だったので、叔父二人に頼み込み、男装した上で、形式上の総大将を務めていた。そんな状況でも安芸乃は毛利家の為に、恐怖心を無理矢理抑えて戦場に立っていた。




