東西南北全ての対応は無理と言う事で
佐久間様に安静に過ごしてもらう為、俺と秀吉は寝所を後にして、秀吉の本陣に移動した。
そこで、軍議を開始した。秀吉側から、市兵衛、虎之助、孫六、助作さんの4名、俺側からは源太郎、昌幸さんはいつもどおりだけど、今回は尼子家から山中さん、そして上杉さんと黒田家から官兵衛さんに参加してもらう
それに対して官兵衛さんは
「六三郎殿。拙者も軍議に参加してよろしいのですか?」
と不思議に思っているようだけど、
「官兵衛殿。拙者の直感ですが、官兵衛殿は、家臣の真田喜兵衛に勝るとも劣らない知恵者だと思っております。それに、播州という統一されてない国で、
黒田家が勢力を保持しているのは、お父上の甚四郎殿だけでなく、官兵衛殿も見事な軍略の才を持ち、猛者揃いの播州武士達を率いているからこそ、独立すると決めたのでしょう?
ならば、その軍略と戦経験を、毛利征伐にてきっかけでも構いませぬので、何か良き提案をしていただきたく!」
俺がそこまで言うと、官兵衛さんは
「はっはっは!柴田の鬼若子と呼ばれる六三郎殿にそこまで言われては、今年で四十二歳になる、この老骨も気張らないといけませぬな!」
と、大笑いしていた。でも秀吉から
「おいおい黒田殿。儂より十歳も若い黒田殿が老骨ならば、儂は棺桶に片足を突っ込んでいる様なものではないか。
それにじゃ、六三郎殿の父の親父殿は、還暦前で、六三郎殿の弟をもうけたのじゃ。まだまだ老いたとは言えぬぞ?」
そうツッコまれると、官兵衛さんは
「なんと!六三郎殿のお父上は、還暦前で子が生まれたのですか!拙者の父上も頑張らせてみたいですなあ!」
親父さんに今から頑張らせてみようと考えだした。話が進まないので、
「お二人共!その話はとりあえず、置いておきましょう。改めてですが、羽柴様と拙者が先程、佐久間様に会って色々聞いて来ました。
その中で、拙者は「備中高松城を囲んでいたら、毛利と城側の両方から挟撃された」と言っていた事に注目しました。羽柴様は、何か気になる事はありましたか?」
「儂としては、六三郎殿と同じく挟撃された事に加えて、毛利の軍勢が増えているかもしれぬ。と言っていた事が気になっておる。
それこそ、今だけとは言え、九州の大友が毛利と手を組んだのであれば、儂達の軍勢は一気に敗れてしまうぞ。六三郎殿、儂の軍勢は生き残っておる者達が一万一千じゃ、六三郎殿の軍勢は確か」
「一万五千です。両方合わせて二万六千です。それに佐久間様の軍勢を合わせて、三万八千程になりますが」
「中国地方の殆どが毛利の領地じゃ。備中国から西側は征圧出来てない。儂達が征圧していた北側の山陰地方も、
伯耆国、出雲国、石見国を征圧出来てない。そこから毛利への援軍が来たら、更に厳しい事になる」
秀吉が不安点をあげていたら、官兵衛さんも
「羽柴様。更に東側の播磨国を始めとした山陽道の国の者達ですら、佐久間様の征圧状況次第では、我々を攻撃してくる可能性もあります」
不安点をあげている。それを聞いた秀吉は
「これで、南側の四国からも攻められようものならば、完全に囲まれる。そうなっては」
少しばかり、言葉が重くなる。でも、この時俺は思い出しました!長宗我部家も、尼子家に負けてない「毛利絶対殺すマン」である事を!
長宗我部家嫡男であり、俺の義弟の信親は甲斐国で留守番してるし、今から備中国まで呼び出して、そこから土佐国へ行かせるのは、時間がかかり過ぎる
じゃあ、親父の元親さんへ直接、「援軍に来てください!」って文を出すか?でも、殿を通さないでそれをやると、面倒な事になる
それを考えると、
俺がそこまで考えていると、
「殿!何か良い策が思い浮かんでいるのですな?」
源太郎から質問される。さらには昌幸さんからも、
「殿。いつもの考える癖が出ておりましたぞ!何かしらの妙案を思い浮かばれているのですな?」
俺が考え事をしている癖が出ている事を教えて来た。また、1人の世界に入って、更に癖が出ていたらしい。まあ、ある程度の策は出たけど、戦に直接関わる事じゃないけど、重要な事だから、伝えておきましょう
「源太郎、喜兵衛。確かに、ある策は出た。だが、それは今のところ、戦に直接関わる内容ではないが、それでも皆様に伝えておくべき内容なので、伝えます」
「六三郎殿。どの様な内容じゃ?」
「はい。先ず、先程、東西南北の全てが不安だと羽柴様も官兵衛殿も仰っておりましたが、その中のひとつ、南側の四国の安全を確認する為に、安土城の殿へ羽柴様の名で文を書いていただきたく」
「どの様な内容じゃ?」
「はい。四国に長宗我部家と言う、土佐国を本拠地とし、土佐国と阿波国を領有している、1年前に織田家に臣従した家があります。その長宗我部家は、織田家に臣従する直前まで四国を統一目前だったそうです
つまり、四国の表も裏も知り尽くしているからこそ、四国が安全である事を確認してもらい、我々の援軍に来てもらうには最適な家なのです。
それに、拙者の妹の1人か長宗我部家嫡男に嫁入りする事が決まっておりますので、羽柴様が殿へ文を届けて、拙者が長宗我部家へ文を届けて、準備してもらい、
殿からの命令で長宗我部家が出陣したら、出来るかぎり早くに我々に合流出来ると判断しました」
俺の説明に秀吉は、
「ふむ。それならば、儂と六三郎殿の連名で文を書いた方が説得力が上がるな」
納得した様だけど、
「六三郎殿。文を書く事は良い。南側も最悪、長宗我部家に任せても良いと思うが、残りの三方向はどうするのじゃ?そのまま放置していては」
秀吉は、残りの東側、西側、北側の事を聞いて来た。それに対して、
「羽柴様。柴田様。その北側、山陰道に関しましては、我々尼子家に任せていただきたく」
尼子家の山中さんが、「自分達に対処させてくれ」と立候補して来た。それに対して秀吉は、
「山中殿。尼子家再興の思いは尊重するが、今のところ、尼子家の軍勢は少ないではないか」
と、人数の少なさを指摘する。山中さんは、
「羽柴様。出雲国と石見国は尼子家の庭も同然です。それぞれの国に、武士を辞めたふりをして、毛利へ復讐する機会を狙っている、
旧尼子家臣達が潜んでいます。その者達と共に、北側の憂いを無くして来ます!なので、どうか!」
そう言いながら、秀吉に平伏した。それを見た官兵衛さんが、
「羽柴様。尼子家の人数が不安ならば、この様な策はどうでしょうか?佐久間家も含めて、一万を編成して、北側を征圧して来てもらうと言うのは?
長宗我部家が到着するまで、何もしないと言うのは、悪手だと思いますし、山中殿の言う北側の憂いを早めに無くしておけば、気をつける方向が東側と西側の二方向と減りますから」
と、折衷案を出して、秀吉を説得し始める。官兵衛さんの言葉に秀吉はしばらく考えて
「分かった!黒田殿の提案を聞こう」
と決断した。そして、
「六三郎殿!伯耆国、出雲国、石見国を征圧する軍勢の大将を受けてくれるな?」
俺にそう聞いて来た。まあ、やるしかないよな。
「勿論です!ですが、羽柴様。拙者の戦経験の少なさを補佐する為の人材として、官兵衛殿を連れて行きたいのですが、よろしいですか?」
「それは仕方ないからな。良かろう!黒田殿、六三郎殿を補佐してやってくれ」
「ははっ!」
「それでは六三郎殿!先ずは、殿へ文を書くぞ!次に長宗我部家への文を書いて、山陰道への軍勢を編成して、休む暇は無いぞ!」
「ははっ!」
秀吉のエネルギーが増えたみたいだ。やっぱり史実で天下人になった人間は、こうと決まれば一直線なんだな。さて、それじゃあ、10年ぶりの別働隊として頑張りますか!