危機である事と好機である事を実感する山陰方面軍
天正十三年(1585年)八月一日
伯耆国 某所
場面は越前国で茶々が景勝に嫁入りすると宣言してから半月後、伯耆国で秀吉達が戦っている場面から始まる
「毛利が撤退したぞ!!」
「殿!毛利を追撃なさいますか?」
「いや。深追いするな!儂達も被害は大きい!無理をするな!」
「「ははっ!」」
山陰方面軍として出陣していた秀吉達たったが、一年前に伯耆国へ入って征圧を開始したのに、中々征圧を完了出来ない事に、苛立ちが募る者、不思議に思う者等、
軍勢の空気は少しばかり、まとまりに欠ける状態だった。勿論、秀吉も放置しているわけではなく、
「市兵衛、虎之助、孫六!ここ最近の毛利の攻勢が以前とは桁違いに感じるが、前線で戦うお主らは、どの様に感じた?意見を申してみよ!」
「殿、拙者も殿と同じく、毛利の攻勢が強くなっていると感じます」
「拙者も同じく!それこそ、山陽道を進んでいる佐久間様の軍勢ではなく、我々を叩く為に人数を増やしている様に感じます」
「殿、もしや佐久間様の軍勢が、動けなくなる程の被害を受けたのでは?それで、毛利が我々への人数を増やした可能性も」
「ふむ。やはり、毛利が攻勢を強めていると皆も思うか。しかし、佐久間殿の出陣した時の軍勢は、儂達より多い一万八千だったのだぞ?
もしも、毛利の軍勢が佐久間殿の軍勢に被害を与えたとしても、動けなくなる程の被害を与える事が出来るかのう?」
この時、秀吉の家臣達は勿論、秀吉本人も、総大将の佐久間が動けなくなる程の重症を負っている可能性が思い浮かばない程、疲労困憊だった
秀吉自身も、
「仕方ない。三日は休息にあてるとしよう!毛利が攻めて来ないかぎり、動かずとも良い。しっかりと休む様、皆に伝えよ」
「「「ははっ!」」」
一度、軍勢をリフレッシュさせる為に、毛利が攻めて来なかったら、と言う条件付きで、3日の休みを取る事を決断した
3日後
「皆、休息は充分に取れたか?」
「「「「ははっ!」」」」
秀吉も家臣達も、充分に休養出来た様で、顔色はスッキリしていた。それを確認した秀吉は
「出陣じゃあ!」
「「「おおお!」」」
皆の士気を高めて進軍を再開した。そして、五里程進むと、
「よーし!今日から数日、本陣を此処にする!周囲の警戒を怠るでないぞ!」
「「「ははっ!」」」
秀吉は一時的な本陣の場所を決めて、家臣達に設営させる。設営が終わると、
「よし、見張りの者達も交代しながら飯としよう!」
「「「ははっ!」」」
一部の者達を除いて、食事を開始した。食事中の面々の中の1人である正則が
「殿。こんな時に言っては何ですが、六三郎殿くらい、料理の腕が素晴らしい者が一人くらい、欲しいと思いませぬか?」
思わず本音を出すと、
ブホッ。と秀吉がむせて、
「こ、これ、市兵衛!いきなりその様な事を言うでない!驚いたではないか!」
「申し訳ありませぬ。ですが、若君の長望様がお産まれになった宴で食べました料理があまりにも美味過ぎて」
「確かに!宇治丸があれ程、美味な料理になるとは思わなかった!」
「それに、あの親子丼と名付けた料理も美味であったからなあ」
「他にも、猪の肉にパオンの粉を纏わせた料理も美味で、食べ応えがあったのう」
「殿。戦が終わり、領地に戻りましたら、六三郎殿へ料理を作っていただく事を頼んでもよろしいでしょうか?」
「待て待て待て。それは、流石に儂からでないといかん。それに、六三郎殿の料理を食いたい以上に、長望丸を始めとした子達に会いたくなる!子が居る皆も、
同じ思いだと思うが、家族の元へ帰る為、確実に毛利を倒し、征圧地域を広げていこうぞ!」
「「「ははっ!」」」
狙ったわけではないが、正則の思わぬ一言から、家臣達の士気が上がった。
翌日
「殿!!文が届けられました!」
「助作、小一郎からの文か?それとも寧々からか?」
「いえ!織田左中将様からと、届けてくださいました方が仰っておりました!」
「左中将様?殿か勘九郎様が、新しい官位をいただいたのか?まあ良い、見せてみよ」
秀吉は且元から文を受け取り読み出す
「どれ。「羽柴筑前へ、この文を書いたのは父上ではなく、勘九郎じゃ!山陰方面軍として、征圧地域を広げている事、感謝する!筑前と佐久間摂津で二方面で進軍しているおかげで、毛利と言えど、
手を焼いているであろう。だが、前月の文月に、佐久間摂津の家臣から、備中国の中央まで進んでいたが、
毛利の反撃を喰らい、備前国との境まで押し戻されただけでなく、総大将の佐久間が動けなくなる程の重傷を負ったそうじゃ
このままでは、佐久間摂津率いる山陽方面軍は壊滅するかもしれぬし、毛利が全軍を山陰方面軍にぶつけるかもしれぬ
そこで、儂は家臣の誰かしらを佐久間の援軍に行かせる決断をしたが、その援軍の総大将に柴田六三郎を指名した。だが、儂は六三郎の戦経験の少なさが不安であり、六三郎本人もその事を分かっているのか、
筑前へ文を書いて届けてくれ。と頼まれたので、文を書いた次第じゃ。改めてじゃが、筑前。六三郎は一万くらいの軍勢で出陣する事が決まっておる
もしも、進軍に余裕があるのであれば、六三郎を補佐してやってくれぬか?佐久間の軍勢の被害か分からぬ事、毛利の軍勢の規模が分からぬ事、不安要素は多いからこそ、筑前を頼りにしておるぞ」と、あるな」
秀吉は文を読み終えると、
「くっくっく。やはり、儂と六三郎殿は不思議な縁で結ばれておるな!これは、儂に子を授けてくれて、羽柴家の崩壊を防いでくれた六三郎殿へ恩返しの好機!
皆、聞いていたと思うが、佐久間殿の軍勢が被害が出て、佐久間殿に至っては動けないそうじゃ!その佐久間殿の援軍に六三郎殿が一万程を引き連れて来るそうじゃ!
その事で、儂達に補佐を頼むと、勘九郎様から直々に仰せじゃ!一気に毛利を叩く好機でもあるぞ!
気合いを入れて、六三郎殿達が来るまでの間、出来るかぎり毛利を叩くぞ!」
「「「「おおおお!!!!」」」」
佐久間の軍勢の被害が出たから、自分達に毛利が集中している事を知った秀吉だが、六三郎達が来る事で、一気に毛利を叩く好機でもあると、秀吉は判断した様で、家臣達にもその事を伝えて、更に士気を高めた。