父と大殿か意志の確認を行なっていたら
六三郎と信忠からの文を読んだ勝家と信長だが、先ず勝家が家臣は当然として、百姓へ高札を出す。3日の期限を設けて、
六三郎の当主としての初陣を大々的に宣伝しつつ、出来るかぎり多くの兵を集めて勝ち戦にする意志を示していた
一方の信長はと言うと、自室に景勝を呼び出していた
「越後守よ、いきなり呼び出して済まぬな」
呼び出された景勝は、
「いえ。内府様のお呼びですので、それで、どの様な用件で呼ばれたのでしょうか?」
呼ばれた理由を質問すると、信長は
「うむ。実はな、権六の倅の六三郎の事じゃ。此度、たまたま近江国の安土城へ寄っていたのじゃが」
「何か起きたのですか?」
「そうじゃ、織田家家臣の佐久間摂津守が一万八千の大軍で、中国地方の毛利相手に山陽道から攻めておったのじゃが、
播磨国から進軍を開始して備前国までは順調に進んでおったのじゃが、備中国で反撃にあってしまった
更には、総大将の佐久間が動けなくなる程の重症を負った報告があってな」
「それは大変な事ですが、それと拙者が呼ばれた事とどの様な関係があるのですか?」
「越後守よ、薄々勘づいているであろう?それでも腹芸をやるとは。まあ良い、単刀直入に言うが、お主達上杉家も、毛利との戦に出陣せぬか?無理強いはしたくないから、意志の確認として呼び出したのじゃ」
「内府様。越後国へ戻れる日が一日でも早くなると確約していただけるのであれば、出陣する事は構いませぬ」
「それに関しては、織田家当主の勘九郎次第じゃが、進言はしよう!」
「内府様、そのお言葉信じますぞ?」
「うむ。それでは越後守よ」
「はい。我々上杉家五百人全員、中国地方へ出陣します」
「誠に感謝する!権六が三日かけて家臣以外に百姓を集めておる。なので、出陣は四日後か五日後に出立するかもしれぬから、準備しておいてくれ!」
「ははっ!ちなみにですが、内府様。此度、中国地方へ出陣する軍勢の総大将は内府様が務めるのですか?それとも、越前守殿ですか?」
「越後守よ、此度の軍勢の総大将は、儂でも権六でもない」
「では、まさかの左中将様が、当主自ら出陣なさるのですか?」
「いや、勘九郎でもない」
「では、どなたが総大将を?」
「権六の倅の六三郎じゃ」
「鬼若子殿か総大将ですか!こう言っては何ですが、随分とお若い鬼若子殿は、戦経験が豊富な様には見えなかったのですが、大丈夫なのですか?」
六三郎が総大将を務める事に、景勝は不安を訴える
「まあ、戦経験に関しては確かに少ない!元服前の出陣を合わせても、十回も無いだろうからな」
信長も景勝の不安に理解を示す
「その様な若武者に、総大将という重大な役目を任せてよろしいのですか?」
「越後守よ。確かに不安になる気持ちは分からんでもない。だがな、お主達は身をもって経験したであろう?六三郎は勝利の為ならば、まともとは言い難い
戦を行なう。それは全て、織田家の為であり、味方の被害を出来るかぎり少なくする為じゃ。それが、どれだけ難しい事か、越後守は分かるであろう」
「それは、、、はい」
「だからこそじゃ。まともとは言い難い戦に是非をつけるのであれば、勝ち戦か負け戦でつけるしかない。
それにな、六三郎は自らの戦経験の不足を自覚しておる。だからこそ、家臣であろうと与力であろうと、
関係なく意見を聞く。その様な若武者は見た事があるか?」
「いえ、ありませぬ。普通の若武者は、自らの考えに固執して、痛い目に遭ってから、考えが柔軟になっていくものです」
「そうじゃな。それか普通の若武者じゃ。六三郎は普通の部分も、微々たる程度にはあるが、基本的には普通の人間ではない!断言出来る!
だからこそ越後守よ、これも一つの経験として、六三郎が総大将の軍勢でも我慢して出陣してくれ」
「分かりました。これも一つの経験として、改めて出陣致します」
「うむ。こちらこそ、改めてよろしく頼むぞ」
「ははっ!」
話がまとまって、信長が立ちあがろうとした時、
「茶々!待たぬか!」
「茶々!止まりなさい!」
勝家と市が茶々を呼ぶ声が聞こえてくる。呼ばれている茶々は、
「嫌です!初が許されたのですから、私も同じ事をします!」
そう言って、信長の自室に飛び込んで来たと同時に、
「喜平次様!茶々を嫁にもらってください!」
と、逆プロポーズをして来た。突然の出来事に景勝は固まっていたが、信長は
「はっはっは!茶々よ、上杉越後守、いや、喜平次に嫁にしてくれとは。それ程喜平次は良い男か?」
笑いながら質問すると、
「はい!初めてお会いして、少しばかりお話しした時から、寡黙ですが、とても芯が強い、素晴らしい殿方と思いました!だからこそ、喜平次様の元へ嫁ぎたいのです!叔父上、父上と母上を説得していただけませぬか?」
茶々ははっきりと答える。茶々が答え終わると、勝家と市が到着して、
「大殿、もしや」
「兄上!茶々は」
「喜平次の嫁になると宣言したぞ!」
「やっぱり!茶々、喜平次殿は六三郎より歳上なのですよ!」
「そ、そうじゃぞ。茶々、お主と歳の近い男でも良いではないか。それに、越後守殿は、いつかは越後国へ戻るのだから」
「母上!歳の事を言うのであれは、父上も叔父上より歳上ではありませぬか!それに父上!母上が初の婿殿の弥三郎殿には、
武功を挙げたら初を嫁にして良いと言って、父上もそれを了承したのですから、私か初と同じ事をしても良いではありませぬか!私もそろそろ良き殿方と、
人生を歩みたいのです!それこそ、道乃と兄上の様に、互いが互いを支え合って生きていける殿方と!」
茶々の言葉に、勝家も市も反論出来なかった。その状況に信長は、
「まあ、茶々の言い分も分からんでもない。初は良くて、自分は駄目なのか?と言われたらな。権六と市、
とりあえずは、喜平次の気持ちを確認しよう。喜平次よ、お主は、権六と市の長女で、六三郎の妹でもある、儂の姪の茶々を嫁に迎えたいか?」
「それは、拙者の立場的に」
「立場の事など考えるな!一人の男として、茶々を嫁に迎えたいかを聞いておる!」
「それは、、、はい!茶々様を嫁に迎えたいです!」
景勝の言葉を聞いた信長が
「ならば、決まり」
と、言おうとした時、市から
「お待ち下さい兄上!確かに喜平次殿は、茶々を嫁に迎えたいと気持ちを言ってくださいましたが、だからと言って、そのまま嫁に行かせるなど、今度は初と弥三郎の立場が無くなります」
「では、どうするのじゃ?」
「簡単な事です!喜平次殿も弥三郎と同じく、武功を挙げたら、茶々を嫁がせます!茶々!初と扱いが違う事に対して、色々と言っていましたが、同じ扱いならば、文句はありませんね?」
「勿論!喜平次様ならば、家臣の方々と共に、武功を挙げてくださるに決まっております!それに兄上が総大将を務める軍勢に参加するのですから、間違いありません!」
「よろしいでしょう。喜平次殿、今しがた茶々が言ったとおりです。茶々を嫁に、それこそ正室に迎える覚悟があるならば、武功を一つでも挙げて来なさい、よろしいですね?」
「ははっ!」
「権六様、兄上。そう言う事で、話はまとまったので、六三郎にしっかりと伝えてくださいね」
「う、うむ。分かった」
「とりあえず、喜平次よ。準備に取り掛かるが良い」
「ははっ!」
こうして、六三郎は再び、妹か惚れた男と共に出陣する事か決まった。