越前国は大慌てかと思いきや
天正十三年(1585年)七月十五日
越前国 柴田家屋敷
場面は、安土城で信忠が六三郎に出陣命令を出した10日後の越前国の柴田家屋敷の大広間から始まる
「権六様。右手の具合はどうですか?」
「市。以前よりは指も腕も曲がる様になってきた。市や茶々達が、高代殿から教わった事を実行して、腕を揉んでくれたり、お手玉を手伝ってくれたからじゃ」
「権六様の右手が少しばかり動かなくなったと聞かされた時は、どうしたら良いかと思いましたが、高代の指導で、少しずつでも権六様の右手が動く様になっているのですから、嬉しいかぎりです
ですが権六様。その高代ですが、武家の姫らしく鍛えてくれとの事ですが、かなり時間を要する事になります。兄上も、それは分かっておりますね?」
「まあ、姫であった期間よりも百姓として生きていた期間が長いから、かなり大変だと思っていたが」
「驚きましたよ!茶々達と一緒に赤備え達の訓練用の坂を走って遊んだと思っていたら、道乃と一緒に女中としての務めもこなして、
更につるが六三郎がら教えてもらった料理や甘味をあっという間に覚えて、皆に振る舞う等、あっという間に家中に馴染んだと思ったら、和歌や琴と言った教養は
全く出来ないのですから、茶々や初より手がかかります。こう言ってはなんですが、高代は朝倉家で、姫らしく育てられて来なかったのでしょう。六三郎が女子だったら、高代みたいになっていたでしょうね」
「はっはっは!六三郎が女子だったら、高代みたいか。言い得ておるな!まあ、高代の場合は、家の事情があったから、自ら動くしかなかった事も理由じゃが
それでもやはり、高代も六三郎と同じく、他者の為に動く人間じゃ。その様な人間は貴重じゃから、市、
じっくりと腰を据えて、高代を少しくらい、姫に戻れる様、鍛えてやってくれ」
「それは勿論です。弟達の為に頑張る高代は、良い婿殿の元に嫁がせないといけないと思っております」
「まあ、少しずつ頼むぞ」
「はい」
高代が市の予想以上のガサツについて話をしていると、
ドドドッ!と走る音が聞こえてくる。足音の主は源四郎だった様で、
「源四郎!何事じゃ?」
勝家が質問すると、源四郎は
「内府様!大殿!奥方様!左中将様と殿から文が届きました!早馬で届けられて、直ぐに見ていただきたい!との事です!」
そう答える。勝家は、
「甲斐国に居るはずの六三郎が、何故、殿と同時に文を寄越しておる?まあ良い、源四郎、六三郎からの文をくれ!殿からの文は大殿へお渡しせよ」
「ははっ!」
源四郎は勝家に六三郎の文を、信長に信忠の文を渡す。勝家は信長に
「大殿。拙者から読んでもよろしいでしょうか?」
「そうじゃな。権六、先に読め」
断りを入れて、先に読み出す
「では。「父上へ。この文を越前国で読んでいるのでしたら単刀直入に言います。とある事情で、出陣しないといけない事になりました!ですが、現在、拙者の周りには赤備えの皆しか居ません!つきましては、
一万人程、安土城へ寄越していただきたく!出陣する事情と場所は、左中将様が書いた文の中に書いてありますので、確認をお願いします」と、ありますが、大殿」
「二人でその様に分けて書くとは、余程の事情なのじゃな。どれ、「父上と権六へ。越前国にどちらかは居ると思いますので、文を書いて早馬で届けておりますが、
数日前に、山陽道から毛利を攻めておりました、佐久間摂津の軍勢が備中国の中央付近で、毛利から反撃を喰らい、備前国との境まで押し戻されただけでなく、
総大将の佐久間摂津が動けなくなる程の重傷を負ったとの報告を受けました。通常ならば、佐久間摂津の嫡男の甚九郎を行かせるべきですが、拙者から見ても、
甚九郎は戦では役立たずです。更に、山陰を攻めている羽柴筑前の軍勢を行かせたら、毛利のほぼ全軍を相手にしないといけない状況になります
その様な状況は避けたいので、佐久間摂津を救出に行ける、一万以上の軍勢を指揮出来る人間は五郎左か、此度たまたま甲斐国の土地改善の為、
武田家の者達を連れて来た六三郎の二人のどちらかしか居ないと判断した次第にございます!」と、あるが、権六!六三郎は家督を継いでも、忙しいのう!」
「全くです。何故に、あ奴は静かに過ごせないのか。親ながらに不思議でしかありませぬ。ですが、柴田家当主としての初陣ですので、動ける者を出来るかぎり
集めて、一万と言わずに、一万五千くらいは行かせてやりたく思います」
「はっはっは!六三郎の奴は、実際の初陣、元服後の初陣に続き、当主としての初陣を経験するとは、まだ十回も戦に出陣しておらぬと言うのに、忙しいのう!
じゃが、勘九郎の決断も分からんでもない。勝蔵や玄蕃は先陣を任せられるが、全体を任せられるかと言うと、そうでもない。弟の三七と源三郎は、領地及び周辺を見ないといけない事を考えると、動かせぬ
ならば、五郎左と、たまたま近くに居た六三郎のどちらかになる。尾張国を任せている三十郎でも良いが、
三十郎を動かすと、三介も動かさないとならぬ。三十郎から定期的に届く文に、三介は酒浸りでも色狂いでもないが、無気力に過ごしておるらしいからな
全く、このままでは。いや、今は三介の事よりも、権六!六三郎の元に行かせる軍勢の事じゃが」
「大殿、何かありますでしょうか?」
「うむ。上杉家の者達も行きたいと申す者が居たら、行かせてみぬか?」
「それは、、、分かりました。六三郎にも良い経験になるでしょう」
こうして信長と勝家は、六三郎の元に希望している一万人を超える一万五千人を行かせる決定を下したが、
その中に上杉家を入れると言う、六三郎の知らない所で、無茶振りを決めた。




