到着して完成品を作って見せたら
天正十三年(1585年)六月三十日
近江国 安土城
「六三郎!武田家の面々を連れて来た事、大義である!」
「ははっ!」
「さて、先ずは虎次郎!前年よりも大きくなっておるな!しっかりと飯を食べ、学び、ちゃんと寝ている様で安心じゃ!」
「左中将様!ありがたきお言葉にございます!五郎叔父上と典厩叔父上を始めとした、武田家中の皆様に鍛えられております」
「うむ。これからも励むと良い!そして、五郎殿!これからの武田家の象徴である虎次郎を甘やかさず、しっかりと養育しておる事、誠に感謝しかない!」
「左中将様、亡き四郎兄上の忘れ形見である、虎次郎様を立派な主君にする事こそが、拙者が兄上に託された遺命にございますので、これからも役目に励む所存にございます」
皆さんおはようございます。何とか、水無月の内に安土城へ到着出来て、安心しております柴田六三郎です
水無月と言うと、梅雨のイメージがありましたので、今月中に着くかな?なんて、思っていたのですが、
大雨どころか、小雨も降らない晴天だったので、快適に進めましたら、現在、安土城の大広間で殿に平伏しております。そんな俺に殿から、
「さて、六三郎!前月に父上と権六から、家督相続の話を聞いたが、承認したぞ!これからはお主が柴田家当主じゃ。お主のこれからの行動ひとつひとつには、
家臣達は勿論、家臣達の家族の生活も関わってくるのじゃ!気をつけて、行動することを肝に銘じておけ」
「ははっ!」
(うん。やっぱり立場は人を成長させますね。前年の今頃は、大殿に家督を譲る事を言われて、焦っていたのに、今では威風堂々という言葉が似合っています)
「さて、固い話はここ迄にしよう!六三郎、お主が五郎左に渡した、人の手で作れる岩の様な物の手順書じゃが、
儂も家臣達に手順書のとおりに作らせたが、いまいち上手くいかん。だから、一度作って完成品を見せてみよ」
「ははっ!」
と、言うわけで、安土城の中庭の端っこに移動しましたら、既に材料が準備されておりましたので、
長浜城で一緒に作業した金之助達と共に、長浜城でやった工程で、型枠に流してならす所まで見せましたら、
「ここ迄は、家臣達も出来た。問題はこの先なのじゃ」
殿が、そう言って来たので、
「殿。ここから先の工程は、乾かすだけですが、家臣の皆様はどの様な事をしていたのですか?」
質問したら
「うむ。早く乾かしたいと思って、天道に当てながら、家臣達に団扇であおがせていたのじゃが、形が歪だったり、少し割れ目が出来たりしていたのじゃ」
ああ、無理矢理乾かそうとしたのか。それは、出来ない事はないけど、この時代だと品質が安定しないからなあ
「殿。それに関しましては、拙者達は1つを作る為に乾かす日数は5日使いました。それこそ、蔵の様な風通しの良い場所で乾かしたのです。
天道に当てながら乾かす事は問題ないと思いますが、団扇で扇ぐ等々。急激に乾かすと品質が不安ですので、安定した品質の為、じっくりと乾かしておりました」
「そうであったか!六三郎達が来る前に、長浜城へ行って、物を触って来たが、あれは時間をかけて乾かしていたのか。それでか」
「はい。勿論、大きさや天候次第では、乾かす時間は長くなりますが、良い硬さを出す為には、急激に乾かす事は、よろしくないかと」
「分かった。とりあえず六三郎!五日後に、その完成した物を見せてもらおう!」
「ははっ!」
で、約束の5日後になりましたら、
天正十三年(1585年)七月五日
近江国 安土城
「さて、六三郎!あれから五日じゃが、完成品を見せてみよ」
皆さんおはようございます。朝から殿に、完成した戦国時代版コンクリートを見せてみろ。と言われております柴田六三郎です。
まあ、見せる事は構わないけど、物が物だけに
「ははっ。殿、申し訳ありませぬが、物が大きく重たいので、中庭にてお見せしたいのですが、よろしいでしょうか?」
「良かろう!期待しておるぞ!」
と、言う事で、中庭に移動しまして、
「源次郎!銀次郎!皆も、持って来てくれ!」
「「「「ははっ!」」」」
銀次郎達に完成品を持ってきてもらい、殿の前に見せると、
「おおお!長浜城で見た物と見た目は全く一緒じゃ!どれ、硬さは」
めっちゃテンション上がってまして、更にコンクリートを軽く叩くと
コンコン。と、しっかり中まで詰まったスイカみたいな音が聞こえて来ます。その音に満足したのか、殿は
「六三郎!これが、お主が言っておった、安定した品質ということじゃな?」
「はい。こちらを甲斐国で大量生産したいのですが、とある事情で甲斐国では材料が確保出来ないのです」
「その、とある事情は、大広間で聞くとしよう。皆、大広間に移動じゃ」
「「「ははっ!」」」
と、言う事で大広間に移動しまして、
「さて、虎次郎!五郎殿!そして六三郎!甲斐国で材料が確保出来ない理由を、話してみよ」
と、俺以外の2人にも質問して来ました。これはどう説明しようかを考えていたら、神様のお助けとも、悪魔の誘惑とも言える急報が入って来ました
殿が俺達に質問して、間もなく、
ドドド!と、人が走ってくる足音が聞こえて来まして、足音の主が大広間に到着すると、
「殿!丹羽様!た、大変です!」
と、息を切らしていた。それを見た殿は、
「何か起きたのか?」
「は、はい。山陽を攻めております、佐久間摂津守様の軍勢が備中国の中央付近で、毛利から反撃を喰らい、備前国との境まで押し戻されたとの事、
更に総大将の摂津守様は、動けない程の重傷を負ったとの事で、援軍をお願いしたい。との事です」
「佐久間摂津が重傷とは。あ奴は無理な戦はしない男なのじゃが、毛利の中に知将が居る様じゃな
しかし、援軍となると、距離的には山陰を攻めている羽柴筑前を行かせた方が速いが、それだと筑前の軍勢に毛利のほぼ全軍が、襲いかかることになる。
五郎左!今、織田家中で一万以上の軍勢を動かせる、もしくは指揮出来る者、は、」
殿はそこまで言うと、何故か俺を見る。待ってください!とてつもなく嫌な予感しかしないのですが?
※六三郎の嫌な予感は(ry
「六三郎!!」
殿がとても大きな声で俺を呼ぶ。そして、
「六三郎!お主、今から実家に居るであろう権六に、一万の軍勢を寄越せと文を書け!家臣に早馬で届けさせる!具体的な事情は、儂が書いた文を付ける!
だから六三郎よ!軍勢が到着次第、山陽道を進んで、佐久間摂津達を救出しながら、毛利を征圧して来い!羽柴筑前と協力しても良い!」
「殿、それは、佐久間様の武功を奪ってしまうのでは?それに、この場合は佐久間様の嫡男の方に行かせた方が良いと思うのですが」
「佐久間摂津の嫡男は、戦においては役立たずじゃ!通常の武士ならば、嫡男に武功を挙げさせる為に、親が共に出陣させるはずじゃが、
佐久間摂津はそれをしておらぬ!つまり、親父か期待もしておらぬと言う事じゃ!実際に佐久間摂津の嫡男の甚九郎は、居城で留守居役を務めておる。
ならば六三郎!佐久間摂津を救出に行けるのは、お主か五郎左しか居ない!そうであろう?」
「そこまで言われると」
「それに、此度出陣して、見事毛利を降伏させたら、甲斐国の泥かぶれ対策の費用を全て織田家から貸し出してやる!
支払い期限は五十年で、無利息で良いぞ?そして、お主の甲斐国の滞在期間も短くしても良い!虎次郎、五郎殿!それでも良いか?」
「左中将様が御決断なされたのならば、武田家は従います!」
「多く軍勢を連れて来ていたら、拙者達も参戦出来たのに!」
うん。2人共、申し訳なさそうな顔をしているな。これは出陣するしかないか
「殿!承知しました!父上に文を書きます。ですが、1つお願いがございます」
「何じゃ?申してみよ」
「はい。拙者が出陣する事を父上だけでなく、羽柴様にも早馬で伝えていただきたく」
「分かった!任せよ!それでは、急いで文を書け!」
「ははっ!」
チクショー!嫌な予感が当たった!しかし、佐久間さんの軍勢は確か、一万八千で出陣したはず。討ち死にした人が三千くらい居たとしても、一万五千だぞ?
その大軍を押し返すって、どれだけ戦上手と対峙してたんだ?
まあいい、とりあえずさっさと文を書いて、親父に一万人は寄越してもらおう!
少しでも面白いと思えましたら、ブックマーク登録お願いします。




