大殿は息子と家臣を驚かせる
信長の命令により、景勝、高代、宗太郎、宗次郎の面々が長可によって信忠の前に連れてこられた。4人を見た信忠は、
「父上。この四人の中で最年長と思しき、此方の武士が上杉越後守なのですな?」
「ああ、そうじゃ。沙汰は既に下しておる。だが、織田家当主である勘九郎に紹介したくてな。ほれ、越後守。簡単で良いから挨拶せよ」
「ははっ。左中将様、先程内府様のご紹介に預かりました、上杉越後守喜平次景勝にございます!此度の戦の敗軍の総大将なのにも関わらず、
斬首も流刑も無いという、温情溢れる沙汰を内府様より賜りました事、織田家に臣従して、これからの働きで返していきまする!」
景勝は、挨拶と同時に、命を奪われなかった事への感謝を述べた。信忠も
「越後守がそう言ってくれるのであれば、儂としても気が楽じゃ。そして、これからは、織田家家臣として、戦無き日の本を作る事を共に頑張ってくれるな?」
「ははっ!粉骨砕身の働きをする所存にございます!」
「うむ。儂と歳も近い様じゃから、これから色々と頼むぞ」
「ははっ!」
「うむ。越後守、少しずつ織田家に馴染むと良い。さて、父上?越後守と共に来た、この三人はどの様な者達なのですか?」
信忠の質問に信長は、
「勘九郎、この三人は姉弟じゃ。答えに近づく為に少しばかり教えてやろう。この姉弟は六三郎が見つけて拾ったのじゃ」
「また六三郎ですか!と、言う事は、昔存在していた、何処ぞの大名家の遺児達と言う事ですか?」
「六三郎の行動に慣れて来たのか、直ぐに当てたな勘九郎よ。そうじゃ、この姉弟は、ある大名の遺児達じゃ。自己紹介せよ」
「姉の朝倉高代と申します」
「弟の朝倉宗太郎高景と申します」
「同じく弟の朝倉宗次郎盛景と申します」
3人の自己紹介に信忠は、
「あ、あ、朝倉!?ち、父上!織田家はかなり昔から朝倉家とは険悪だったはず!!この様な近くに置いてよろしいのですか?」
大声で驚いていた。しかし、信長は
「はっはっは!勘九郎よ、やはり驚いたか!だが、安心せい!この姉弟、織田家に対して憎しみなど一切持っておらぬ!その証拠に高代、お主達が信濃国へ住み着いた理由を話してやれ!」
「は、はい。それでは」
信長に促された高代は、これまでの経緯を信忠に話す。それを聞いた信忠は、
「成程、嫡男を失ってからは無気力で、一人の女子に骨抜きにされた父しか知らぬと。そして、その父と女子との間に出来た新たな嫡男の家督相続の為に邪魔であると、家どころか国を追い出されたと」
「はい。だからこそ、織田家が朝倉家を滅ぼした事も、私からしたら父が時勢を読めなかった結果としか思えませんし、父の顔すら知らない弟達には、遠い国の出来事としか思えません」
「ふむ。まあ、六三郎が問題無いと思ったから、父上や権六に正直に話したのだろうな。ならば、特に問題無いと見てよいか。それで、高代。何故、お主は父上達と共に行動しておるのじゃ?」
「はい。それは、柴田様の右手を少しでも、以前の様に動く様に指導する事の礼として、柴田様が、弟達に武士としての作法を含めた色々を教えてくださり、
私には、御正室の方に武家の娘として鍛えてくださると仰ってくださいまして、お言葉に甘えたのてす」
「ほう。権六が。権六、今までのお主ならば、その様な事をしなかったのにどういう風の吹き回しじゃ?」
「殿。この姉弟、いえ、姉の高代殿は弟達の為に、朝倉家の姫である事を捨てて、これまで生きておりましたが、織田家に憎しみも無い事、そして何の見返りも求めず、
拙者の右手を動く様に指導してくれるので、その礼として、高代殿には武家の姫として、弟達は武士として、鍛えてやりたい。と言う恩返しの気持ちからです」
「そうか、それ程の恩義を感じておるのか。それならば納得も出来るか。それで、権六、そして父上。宗太郎と宗次郎が、武士として作法を完璧に覚えた場合、
如何なさるおつもりですかな?まさか、何処かの国を与えるなど考えておりませぬな?」
「勘九郎、安心せい!宗太郎も宗次郎も、六三郎の家臣になりたいと言っておるし、領地に関しても、二人合わせて二万石と少しで充分とも言っておる」
「まあ、それくらいなら六三郎の家臣として貰っても問題は無いですな」
「そう警戒するな。今年で高代は十八歳、宗太郎と宗次郎は十五歳じゃが、二年前まで家名を隠して百姓をやっておったのじゃが、
誠に質素な暮らしをしておったから、一国が欲しいと言う欲は無いはずじゃ。そうじゃな高代?」
「はい。弟達には常に分相応であれ。と言っております。なので、その様な過ぎた欲は無いでしょう」
「そう言う事じゃ勘九郎。それに、これから儂達は長浜城に行って露天風呂に入ってから、越前国へ向かうのじゃ、だから気にせずに権六に任せておけ」
「分かりました。それでは権六、三人の事、頼むぞ?」
「ははっ!」
話もまとまって、お開きになりそうになった時、信長が、ある事を思い出す
「そうじゃ、ひとつ思い出し!権六と五郎左、これはお主達に関係ある事じゃ、よく聞け」
「「どの様な事でしょうか?」」
「うむ。権六が寝ている時の軍議で六三郎が、五郎左の倅を「江の婿に推挙したい」と言っておった」
この信長の発言に丹羽長秀は、
「え、え、えええっ!?」
驚いて、思わず声が大きくなる。勝家は、
「あ奴は、何故、勝手に江の嫁ぎ先を決めておる!!」
と、怒り心頭だった。二人の様子を見て信長は、
「五郎左も権六も、あくまで「推挙したい」じゃ。決定ではないのだから、お、落ち着け」
宥める言葉を言ったが、顔は少しだけ笑っていた。