嫡男は戦の話をして、我が子の未来を夢見る
「さて、固い話はここまでとしよう!三郎、上杉との戦、出陣から半年で帰って来たが、それ程までに上杉は織田家からの攻撃で弱体化しておったのか?」
「父上。上杉は足軽も大将も屈強でした。ですが、拙者達が到着する前の時点で、六三郎殿の父の柴田殿を総大将とする軍勢が三万五千と大軍だったので、上杉の居城近くまでは、問題なく進めたそうなのですが」
「居城近くになったら、抵抗が激しくなったのか?」
「はい。その時の上杉はおよそ一万の軍勢でしたが、地の利を生かして、拙者達が到着する前に、織田軍を翻弄していたと」
「ん?三郎よ、念の為に聞くが、お主達はいつ越後国へ到着したのじゃ?」
「年明けから半月頃に到達しました」
「遅い、いや、遅すぎではないか?そのおかげで、上杉からの攻撃を喰らわなかったと言えなくもないが」
「父上、到着が遅い理由なのですが、六三郎殿が拙者達の元に到着したのが原因でして、しかも、その理由が、六三郎殿らしいと言いますか」
「どの様な事があったのじゃ?」
「はい。飛騨国を通った歳、小さい領地を持つ内ヶ島と言う家から、織田家への臣従の為の取次をお願いしたいから、城に来て欲しいと呼ばれたそうなのですが、流石六三郎殿と思うやり取りをしていたのです」
「どの様なやり取りじゃ?」
「内ヶ島家の者に向かって、「城と城の有る山が崩れそうだから、話を聞いて欲しければ本陣まで来い」と言ったそうです。直感の働く六三郎殿ですから、
上杉との戦前に余計な手間を取りたくない、や、謀殺を避ける意味合いが本音だと思いますが、それを断る理由が、城と山が崩れそうだから。とは、話を聞いて、少しばかり笑いました」
「ふむ。まあ、大戦の前に余計な手間を取りたくない気持ちは分からんでもないが」
「ですが父上。此処からが六三郎殿にとても強い神仏の加護があるのでは?と思う事が起きたのです」
「ほう。聞かせてみよ」
「はい。六三郎殿へ断られた翌日、内ヶ島家の者達は、六三郎殿の本陣へ来て、織田家への臣従の取次をお願いしたのですが、
何と、その日の夜、突然の大雨が降り、その影響で山が崩れて、更に城が土砂崩れに巻き込まれたと」
「な、何と」
「そのせいで、内ヶ島家は、最初百五十人を六三郎徳川の軍勢に編入する予定だったのですが、領地獲得の為に、織田家へ本気度を示す為に、三百人に増やしたそうです」
「内ヶ島とやらも、不憫じゃな。ちなみにその三百人は、内ヶ島家が最大限動かせる者が何人の内の三百人なのじゃ?」
「内ヶ島家が最大限動かせるのは千人らしいので、そのうちの三百人、しかも城も領地も無くなった家の三百人ですから、必死と言っても過言ではないかと」
「確かに「死にもの狂い」と言う言葉が当てはまるか。ではその内ヶ島家の者達も合わせて、お主達が到着してから、どれ程の期間で戦は終わったのじゃ?」
「拙者達か到着してから、義父上の沙汰がくだされたのは半月後、でしたが、戦が無くなった、つまり上杉が攻撃する事を諦めたのは、十二日、十三日後でした」
「は?いやいや三郎よ。儂が三郎殿から聞いたのは、六三郎殿が三河国の財政改善が終了した頃と同時期に北陸方面軍は出陣したと聞いておるぞ。つまりは、
およそとは言え、六年前に出陣した戦が、僅か半月で全ての戦が終わるとは、何があったのじゃ?」
「父上。信じられないかもしれませぬが、六三郎殿と家臣の赤備え達の働きが殆どでした」
「また六三郎殿か。まあ、あの若者ならば、何かやってくれるかもしれぬ。と言う期待はあるが、此度はどの様な事をやってのけたのじゃ?」
「はい。父上も見た事、使った事があると思いますが、六三郎殿が開発した爆発する武器を大量に使ったのです」
「上杉の城に大量にぶつけたとか、そう言う事か?それならば、儂の家臣の倅達でも思い浮かぶ策と思うが」
「いえ。六三郎殿は、義父上に了承を得て、二万人を使い、城の周囲に生えている竹や松を徹底的に伐採し、その松や竹を、
柴田殿の家臣に筒の様な形にする様に命令して、完成したら、種子島の中の火薬を筒の中に入れる事、およそ五千。それらを、城の土台部分に設置して、
拙者達や義父上達を遠ざけてから、自らの手勢で、火矢を打つまでをやったのです。火矢は命中して、
城の土台は大きな爆発を起こし、それこそ、拙者達の居る一里程離れた場所まで来る程の振動が起きました」
「ほう。その爆発と振動で、城か崩れて生き残った上杉の者達を討ち取ったり、捕縛したりしたのか。見事」
「父上。六三郎殿の策は爆発と振動の先にある物が狙いだったのです」
「爆発と振動の先?面白い、聞かせよ」
「はい。六三郎殿達は、爆発と振動が終わっても、進軍の狼煙を上げなかったので、待っていたら、まさかの雪崩が上杉の城に文字通り、雪崩れ込んだのです」
「まさか、六三郎殿はわざと雪崩を起こす為に爆発させて振動を?」
「はい。六三郎殿が捕まった上杉の者に対して、「あの様な堅固な城、まともに攻めては、落城させるのに何年かかるか分からぬ!
だからこそ、まともではない策を使っただけのこと!むしろ、その堅固な城に胡座をかいていたから、誰も彼も城が攻撃されないと思っていたのでないのか?
と、言い放っておりました」
「人間が攻撃出来ないのならば、雪に攻撃させるとは、目の付け所や狙い所が見事としか言えぬ。しかし、いくら我が子に武功を積ませたいとはいえ、その様な事を柴田殿が許すとは、しかも三郎殿も居たのだろう?」
「父上、その事なのですが、実は拙者達が織田家の本陣に到着した時、柴田殿は意識が無い状態で寝ていたのです」
「はあ?いやいや待て待て、柴田殿の意識が無いのであれば、普通に考えたら三郎殿が采を振るのが普通ではないか。なのに、何故六三郎殿が?」
「これは義父上から教えていただいたのですが、六三郎殿は寝ている柴田殿を見たあと、織田家の面々が居る中で立ち上がり、
「父上ならばこんな所に居ないで、織田家の為に武功を挙げて来い。と言うでしょう。なので、上杉攻めの準備に取り掛かります」と言って、
その場をあとにしたそうです。その姿を見て義父上は六三郎殿に任せたのでしょう」
「何という覚悟」
「父上。拙者は最初、六三郎殿は親よりも主家を優先する若者だと思っていました。ですが、先程の竹千代と竹二郎を鍛えた理由である、
今川家の話を聞いた今なら、竹千代と竹二郎も六三郎殿の様に、なって欲しいと心より思います」
「竹千代と竹二郎が、六三郎殿程の覚悟を持っていたならば、儂が言わずとも自らを律しておるじゃろうな」
「はい。改めて、拙者の子育ての甘さを感じております。そこでと言ってはなんですが父上。実は、義父上がある事で文を送ると言っておりました」
「ほう。三郎殿が。どの様な内容かのう」
信長が家康に送る文とは?