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武田家は希望が見えて来た頃、徳川家では不穏な空気が

天正十三年(1585年)五月十日

遠江国 某所


場面は少し戻り、六三郎達が泥かぶれの対策を考えていた頃、信濃国の川中島を出立してから、およそ3週間後の徳川軍が、信濃国を抜けたところから


「やっと、遠江国に入ったか。やはり信濃国は広く大きい!平八郎、小平太。父上は信濃国を誰に任せるか、聞いておるか?」


「いえ、殿はまだ具体的な事は」


「恐らく、殿もどなたに託すか決めかねているかと」


「やはり。いや、儂も聞いておきながら、こんな事を言うのもおかしいとは分かっておるが、正直言って、信濃国を治めるのは、生半可な者では出来ぬと思う


二人も分かっているじゃろうが、信濃国そのものが中山道の要衝と言っても過言ではないから、父上か儂が治めた方が良いと思うのじゃが、二人の意見はどうじゃ?」


「拙者としても、殿か三郎様ならば安心ですが」


「平八郎と同じく。殿か三郎様ならば」


「流石に、弟の於義伊にはまだ無理か」


「三郎様。於義伊様は、まだ十二歳ですし、元服前ですぞ?」


「平八郎。六三郎殿は、十二歳の時には初陣どころか、二回目の戦に出陣しておったのだから、於義伊も」


「三郎様。六三郎殿は特殊極まりない存在なのですから。六三郎殿と於義伊様を同じ様に扱っては駄目かと」


「小平太まで。それ程、六三郎殿のやって来た事は、於義伊は勿論として、竹千代にも無理か?」


「はい。三郎様も、六三郎殿が美濃国に居た時にお会いしたと思われますが、六三郎殿を内政で支えております利兵衛殿の存在は勿論ですが、赤備えの全員が、


六三郎殿に心酔しております。その様な者達が居ないと、於義伊様でも竹千代様でも、信濃国の一部ですら、領主としての働きは難しいかと」


「それ程か。儂としては、六三郎殿のお父上の柴田殿が、六三郎殿に家督を譲った場面を見たから、父上が儂に家督を譲るとしたら、


父上から見て於義伊と竹千代が例え小さい領地でも、領主として差配出来ると判断したら、だと思ったのだがなあ」


「三郎様。柴田殿は還暦を超えている事と、お身体の事もあって六三郎殿に家督を譲ったのですから、まだ四十代の殿には、家督を譲る考えは無いかと」


「三郎様。拙者も平八郎と同じく。むしろ、これから殿は、北条家とのやり取りで忙しくなりますので、家督の話はしない方がよろしいでしょう」


「妹のとくが北条家に嫁いだのも、当時、三河国が財政的に苦しく、戦も満足に出来なかったから、万が一、武田との戦になった時に協力してもらう為であったからのう」


「ですが、殿が織田様に、六三郎殿の派遣を要請した結果、三河国の財政は一気に好転しましたな」


「しかも、六三郎殿のおかげで、宇治丸はぶつ切り以外で食える事も知ったからのう」


「小平太の言うとおりじゃ。六三郎殿が宇治丸の新しい料理を作ってくれたおかげで、竹千代もしっかり食べる様になったし、六三郎殿には感謝しかない


それを考えると、北条家ではなく、六三郎殿に督を嫁がせた方が良かったのではないのかと思えて仕方ない」


「三郎様。その事は浜松城の者達の間でも、今でも時折、話題に出る事がありますが、やはり六三郎殿の立場を考えると、反対意見が多いので、あまり言葉にしない方がよろしいかと」


「そうか。岡崎城では、六三郎殿を婿に欲しい!言う者達だらけじゃから、やはり場所か変わると、考えも変わるか。その様な者達は、此度の六三郎殿の上杉との戦を、目の当たりにしたら、考えも変わると思うのだかなあ」


「三郎様。お気持ちは分かります。ですが」


「分かっておる。この話は、ここで終わりにするとしよう。丁度良い頃合で、浜松城が見えて来た。それでは父上に、此度の戦の事を伝えて、託された兵達をお返しして、竹千代を連れて帰るとするか」


「「ははっ!」」


信康達は、竹千代が家康に徹底的に鍛えられている事を知らないので、浜松城に到着すると、


「下りでは歩くなと何度言えば分かる!竹二郎!お主もじゃ!於義伊の様に小走りで下って来い!」


家康が坂道を於義伊、竹千代、竹二郎の3人に走らせている場面に出くわす。その場面を見た信康は、


「ち、父上!何をなされているのですか?」


「三郎ではないか!その様子だと、越後国の戦は終わったのじゃな!丁度良い!三郎に色々問いただしたい事がある!竹千代と竹二郎!今日はもう終わりにする!


しっかり風呂に入って、飯を食べて、ちゃんと眠るのだぞ!良いな!?」


「「はい。ありがとうございました、祖父様」」


竹千代と竹二郎は、家康に礼を言うと2人揃って気を失った。それを見た信康は


「竹千代!竹二郎!」


慌てて2人に駆け寄り、生きている事を確認すると、


「平八郎、小平太!済まぬが、二人を部屋に連れて行ってくれ!」


「「ははっ!」」


忠勝と康政に、2人を託した。そして、残っていた於義伊に


「於義伊、父上は何故、六三郎殿が赤備え達にやらせた訓練を二人にやらせていたのじゃ?」


そう質問するが、於義伊からしたら「兄貴の息子がダラダラしてるから」なんて言えるわけも無いので、


「父上の元に行けば、全て分かります。拙者も共に行きますので、詳しい事は父上から聞いてくだされ」


そう言って、言葉を濁す。それを聞いた信康は


「そうか、分かった」


と、だけ答える。この時の信康の顔は、我が子を痛めつけられた事により、怒りの表情になっていた。

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― 新着の感想 ―
家康さんは絶頂期の今川家の衰退を見ているから危機感覚えるのは分かるのよ。 三郎さんはその頃の肌感がないからなあ
家康の心配や怒りも分かるからなぁ…。 慢心と変な自信だけ肥大してバカボン化したらヤバいしw
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