見えない物への恐怖
実際の歴史と違う展開ですが、フィクションと言う事で、ご了承ください。
「さて、南蛮の国や、南蛮と日の本の中間に位置する国で起きている「泥かぶれ」ですが、
実は、南蛮の国と南蛮以外の国で、とても恐ろしくも、はっきりと結果の分かる比較をしたのです。それは」
「そ、それは何ですか?」
「泥かぶれの原因と思われている川の水を、一方の者達にはそのまま飲ませ、もう一方の者達には沸騰させて飲ませ、泥かぶれに罹るかどうかを一年程、試したそうですが、その結果、どうなったと思われますか?」
「六三郎殿。それは、そのままの水を飲んだ者達が泥かぶれに罹ったと思うのじゃが」
「仁科様は、そのま飲んだ者達が泥かぶれに罹ったと、他の方々も同じく。と言う事でよろしいですか?」
「やはり、何も手を加えない水の方が」
「泥かぶれの原因になるものが居る様な気が」
「六三郎殿。早く答えを」
「それでは、答えを発表しますが。この比較、どちらも泥かぶれに罹った者は居ない!と言う結果になりました」
「はああ!?」
「ま、誠か六三郎殿!」
「で、では、甲斐国で広がっておる泥かぶれの原因とは?」
うん。皆さん、軽くパニックになっていますね。でも、ここからが本番ですよ
「はい。南蛮の調査にあたった者達も、皆様の様に驚いておられたそうですが、それでも泥かぶれに罹る者は減らなかった事で、
調べた者達は、ひとつの仮説を立てました。その仮説とは、「水の中に居る小さい生物が皮膚を攻撃して、そこから体内に入り込んでいるのではないのか?」と言う仮説です」
「そ、それは誠なのですか」
「しかし、泥かぶれで死んだ者達は、外から見える傷跡など無かった!」
「この仮説が誠であるとしたら」
「ろ、六三郎殿!続きを話してくだされ!」
「はい。南蛮の調査にあたった者達は、泥かぶれに罹った者と、そうでない者の違いは何か?と調べたら、明確な違いがあったそうです。
その違いとは、足の爪先から膝まで水に触れない様にする対策と、腕も指の先から肘まで対策が出来る者、
つまり、比較的裕福な百姓は泥かぶれに罹ってないが、その様な対策の為に、家の中にある衣服を使う事が出来ない、裕福ではない百姓は泥かぶれに罹った者が、とても多かったそうです」
俺の説明に典厩様が、
「それでは、甲斐国の百姓を泥かぶれに罹らない様にするのは不可能じゃ!どうすれば!」
そう言ってるけど、
「典厩様。お気持ちは分かりますが、南蛮や他の国の泥かぶれの調査では、まだまだ先があります」
「ど、どの様な?」
「では話します。南蛮の者達の中には、医術を研鑽する為、泥かぶれに罹った者から、「自分が死んだら、腹を切って、泥かぶれの根絶に役立ててくれ!」と、
とても勇気ある言葉をもらったそうです。その言葉どおり、死体の腹を切ったら」
「き、切ったら、どうなったのじゃ?」
「胃へ繋がる、血管と呼ばれる体内の管の中が食い荒らされていたそうです。そして、その管の中には、
無数の虫が居て、泥かぶれに罹った者が死んだ後も、しばらくは体内で蠢いていたそうです」
俺がそこまで言うと、
「「「「ご、御免!」」」」
と、数人、慌てて席を立って、見えない様に気を使ってくれたんでしょうが、
「オエエエエ!」
とか、
「オロロロロ!」
や、
「うぶっ。ゲエエエエエ!」
とかの吐く声が聞こえてきます。戦経験がそれなりにある人でも、流石にダメだったか。五郎さんも典厩様も青い顔になってるし、戦経験が豊富であればある程、辛そうだな。
虎次郎様が平気な顔をしてるのが、何よりの証拠だし、こりゃ、吐いてる人達が戻って落ち着くまでは、一旦休憩だな
で、しばらく休憩を挟んだのち、吐いてた人達も戻って来て
「六三郎殿。中断させてしまい、申し訳ありませぬ」
「まさか、体内に生きた虫が」
「そこから先は言うな!また吐くではないか!」
と、何とか冷静になりましたので、
「いえ。最初に話を聞いた時、拙者も同じ様になりましたから、お気になさらずに。それでは、続きを話します。
南蛮の者達は、泥かぶれに罹った者が多く出る土地、泥かぶれに罹る者達の共通点を調べあげた結果、「水の流れが無く湖の様になっている場所」、
「水の流れが弱くて、周辺の生物がほぼ動かない場所」の水の中に居る、皮膚を攻撃して体内に侵入する目に見えない大きさの生物が、
そこの水に身体を触れながら、百姓仕事をしないといけない者達を泥かぶれに罹らせている。と言う仮説を立ち上げたのです」
俺の説明に、新之助さんは
「た、確かに!泥かぶれで死んだ者が多い地域は、水の流れが悪く、水不足になるのも、他と比べて多い!」
と、現実のデータを教えてくれるし、他の人も、
「泥かぶれに罹った者の少ない地域では、確かに周辺の川の水がしっかり流れておる!」
「つまりは六三郎殿!」
「そうです!今、皆様がおっしゃっていた「水の流れ」が、泥かぶれを治す薬が無い現状では、最も効果的であると判断しました!実際に、南蛮の方でも、水の流れを早くする事を最優先にしたそうです」
「で、では六三郎殿!どうにかして、水の流れを作り、その流れが早くなれば!」
「はい。泥かぶれに罹る者は間違いなく減るでしょう。ですがそれだけではない、手をつけなくてはいけない部分もあります」
「そ、それは一体?」
「それは、川の側にある植物です。泥かぶれの原因となる小さい生物は、川の側にある植物に卵を産み付けるそうで、その数なんと、1匹が少なくとも千個」
「一匹が千個の卵じゃと!」
「そ、それでは、武田家や協力してくれる織田家と上杉家と徳川家の人間がどれだけ動いても、無くならないではないか!」
「ろ、六三郎殿!南蛮や他の国では、どの様に原因の生物や、その卵を無くして、泥かぶれに罹った者達が居なくなったのじゃ?」
「それは、、、続きは明日にしましょう」
「な、何故ですか?今、話を聞いて明日から動けば」
「皆様、此度の話し合い、暮れ六つから始めて、かれこれ二刻を過ぎております。虎次郎様も流石に眠気に襲われています。まだ幼い虎次郎様にしっかりと睡眠をとっていただく為に、続きは明日にしましょう。仁科様、典厩様。よろしいですか?」
「虎次郎様の健やかな成長の為じゃ。皆、済まぬ」
「だが、対策の基本的な部分が見えて来たのじゃ。皆、明日か明後日には、動けるかもしれぬから、今日のところは虎次郎様と共に休もう」
「「「「ははっ」」」」
こうして、泥かぶれの対策を俺だけじゃなく、皆で考える様に仕掛けた会議は、「虎次郎様が寝ているから」。と言う仕方ない理由で、今日のところはお開きになりました
でも、皆さん。やっぱり生まれ故郷が良くなる為の熱意が凄い!これは、あれの作り方を教えたら、全員で作りまくるかもしれないな。その前にお金の問題が出てくるけど、その時は殿と大殿に頼んでみよう
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