前世の仕事と8年ぶりの無期限出張の始まり
天正十三年(1585年)四月十八日
信濃国 川中島
「それでは婿殿、父の二郎三郎へ此度の事、しっかりと伝えておいてくれ!」
「ははっ!義父上も、お元気で!」
「うむ。そして、典厩と六三郎!どれ程の時がかかるか分からぬが、甲斐国の土地改善を成し遂げられると期待しておるぞ!」
「「ははっ!」」
「それでは出立じゃ!!」
「「「ははっ!」」」
皆さんおはようございます。朝倉姉弟の住む信濃国の川中島から、出立する大殿達を見送っております柴田六三郎です。
本来なら、朝倉姉弟の姉の高代さんの話を聞いたら出立の予定だったのですが、親父の麻痺した右手のリハビリ方法を高代さんが、お袋さんの実体験と共に
話した事で、親父が高代さんへの感謝として、元服したけど、武士の作法等を全く知らない弟達を鍛える事、そして、高代さんを武家の姫として、
お袋に鍛えさせる事を決めていたら、あっという間に夜になって、もう遅いから移動せずに川中島に本陣と寝所を作ったら、周囲の地侍さん達が、
「今から戦に出陣するのか?」と、問い合わせしてきて、それを俺や典厩様や三郎様か対処して、気がついたら朝になって、今度は内ヶ島家の皆さんから、
「臣従の取次と領地の話はどうなりましたか?」と言われまして、それは大殿が「臣従は認めてやる!とりあえず自分と一緒に、近江国へ着いて来い!」と、
力技で黙らせました。その対応をしていたら、川中島滞在が3日目に突入する事が決まって、流石に大殿も、
「あまり長居するのは良くない!だから、明日の朝、出立するぞ!」
と、決断しました。その3日目の夜に、高代さんに親父のリハビリの提案をした事を聞きたくて、2人だけになってから、聞いてみたら、高代さん曰く
「前世で朝9時から夕方17時まで働いて、その間に寝てから夜22時から朝5時まで働いて、そこからまた朝9時前まで寝てから働くという、超ブラックな病院で看護師をしていた」
との事で、ある程度、それこそ手術と薬の調合以外は、この時代でも何とか出来るとの事で、しかも、前世で主に手伝っていたのは、リハビリのサポートだったと。
そこで、親父の症状の事を聞いたら、年齢的に死んでいてもおかしくなかった。と言われまして、背筋が冷えました。
それこそ、どれだけ筋肉を鍛えても、内臓は年相応に衰えていくから、細かく気をつけないといけない!と釘を刺されました。なので、
「医療に関しては、高代さんしか頼れないのでお願いします」
と、お願いしまして、今日に至るわけです。まあ、これで高代さんと宗太郎と宗次郎の身の安全は心配なくなるけど、
しばらくは高代さんが親父に付きっきりになるから、それを見たお袋が
「六三郎か権六様の側室になる為に、媚びを売っているのか!」とブチギレそうな予感が少しだけ、あるんだよなあ
まあ、こればかりは親父と高代さんに何とかしてもらうしかないか。俺はこれから甲斐国で無期限出張の始まりだから、遠い越前国の事は何も出来ません!
そんな事を考えていたら、近江国へ出立した大殿達が見えなくなりました。なので、
「では、三郎様。典厩様と拙者達は甲斐国へ行きますので、此処で」
「うむ。六三郎殿、典厩殿。拙者の戦経験で最も壮大な戦であり、山あり谷ありで面白い戦でもあったぞ!
また、共に出陣する時はよろしく頼む!それでは!」
そう言って三郎様は遠江国へ向けて、出立した。三郎様達の姿も見えなくなったので、
「では、典厩様。我々も」
「うむ。それでは甲斐国へ帰るぞおお!」
「「「おおお!」」」
俺達も甲斐国へ出立です。越後国へ行く時と違い、ゆっくり進んでも心配ないので、とても心が落ち着いております
天正十三年(1585年)五月十日
甲斐国 躑躅ヶ崎館
「虎次郎様!典厩信豊!越後国での戦から、戻ってまいりました!」
「典厩叔父上。よくぞ、ご無事で戻られた!五郎叔父上と共に心配しておりましたぞ!」
「申し訳ありませぬ。ですが、戦は見事過ぎる程、織田徳川軍の勝利でした。そうであったな六三郎殿!」
皆さんこんにちは。今日の午前中に、躑躅ヶ崎館に到着して、少し休憩してから、虎次郎様へ色々な報告をする典厩様に同行しております柴田六三郎です
およそ4か月見ない間に、虎次郎様が大きくなっている事に、とても驚いております。で、俺に典厩様が上杉との戦の話をふって来ましたが、
「はい。皆様の見事な働きのおかげで、勝利しました」
そんな感じで、お茶を濁しましたが、典厩様は逃がしてくれません
「いやいや六三郎殿!殆ど六三郎殿の手勢の働きに近かったではないですか!一里程離れた場所に居ても分かる程の衝撃でしたぞ!」
「六三郎殿!典厩叔父上の興奮度合いから見て、とてつもない策を実行したのですな?教えてくだされ!」
「六三郎殿!虎次郎様も、そう仰っておりますので、是非とも!」
と、虎次郎様と五郎さんから圧をかけられて、言うしかなくなったので、出来るかぎり、簡単に説明しますと
「何と!六三郎殿は、雪も武器として扱うのですか!」
「あえて雪崩を起こして、攻略の難しい城を攻撃させる。その為に種子島の火薬を大量に使うとは。幾重もの搦手を考える六三郎殿の軍略の才は、正しく鬼神の如きですな」
いえ、皆さん。それは過大評価です。まあ、ここで謙遜し過ぎも、嫌味ったらしいし、話が進まないから
「何とか、勝ち戦で終える事が出来ました。ですが、拙者ひとりの力ではありませぬ。そこはお分かりくだされ」
「誠に謙虚ですな」
「虎次郎様。六三郎殿の、この姿勢が家臣や領民に慕われる理由のひとつですから、見習ってくだされ」
何とか、話題が変わったぞ。それじゃあ、
「それでは、改めて。虎次郎様、仁科様、典厩様。甲斐国の奇病の泥かぶれにかからない為の土地改善について、皆様の意見もお聞きしたいので、よろしいでしょうか?」
「うむ。それこそが、六三郎殿達が甲斐国に居る最たる理由ですからな」
「では、いよいよ」
「我々も働きますぞ!」
さて、甲斐国のどんな所が、どう言う状況なのか、大丈夫な場所がチ躑躅ヶ崎館周辺しかありません。なんて事はないよな?




