転生女子は天下人を唸らせる
大殿達と一緒に朝倉姉弟の家に到着する。俺は3ヶ月前に、一度来たから慣れたけど、大殿は
「これは、確かに大きくはない家じゃな」
と言っていた。それを聞いた高代さんは
「織田様。そして、皆様方。大きくないだけでなく古い家ですが、どうぞお入りください」
そう言ってきたので、俺達5人は中に入る。そして、中を見た大殿は
「中も至って普通の百姓の家じゃな」
「はい。上座や下座なんて、大層な場所はありません。なので、皆様で適当に座ってください」
「う、うむ。それでは、そうさせてもらおう」
俺は3ヶ月前に経験してるけど、高代さんの遠慮せずに話す感じに大殿達は戸惑っているのが分かる。まあ、普段、数百人、数千人から敬われている立場の人達だから、こんなのは初体験なんだろうな
で、囲炉裏を囲みながら、簡単な上座と下座を作った大殿達に高代さんは、
「見てのとおり、おもてなしすら出来ない家ですので、茶のひとつも出せません。申し訳ありません」
と、平伏しながら謝っていました。家の現状を見ているだけに、大殿も
「いや、気にするでない。三人で住んでいる家に、五人も客人が来るなど、そうそう無いから仕方あるまい。それでは、少しばかりお主達姉弟の話を聞きたいから、正直に答えてもらいたい」
「はい。出来るかぎりお答えします」
「うむ。では、名を教えてもらおうか」
「はい。朝倉高代です」
「朝倉宗次郎高景にございます」
「朝倉宗次郎盛景にございます」
「お主達は、朝倉左衛門督の遺児で間違いないのじゃな?」
「「「はい」」」
「六三郎から大体の事は聞いたが、高代。宗太郎と宗次郎は、父である左衛門督の顔も知らぬとは誠か?」
「はい。二人は産まれて半年どころか、首がやっと座ってきた三ヶ月頃に、越前国から私や母達と共に落ち延びました。ですので、弟達は父の事を知らないのです」
「どうやら、誠であると見て良いか。では、次に、十五年もの長きに渡り、朝倉左衛門督の子である事をどの様に隠しておった?」
「簡単な事です。家名を名乗らなかっただけです。それこそ、弟達にも、二年前に伝えた程、徹底して隠しておりました。言葉だけでは信じられないと思いますので、こちらを」
そう言って高代さんは、家の中の神棚の下に置いている箱を大殿の前に差し出した。それを見た大殿は
「ほう。朝倉の家紋入りの化粧箱か。開けて良いのか?」
「はい。私達が朝倉家に連なる者だと分かる証になる物が入っております。お開けください」
高代さんに促されて、大殿は化粧箱を開けると、
「ほう。短刀が二本入っていて、鞘と柄に朝倉の家紋が入っておるな。高代、この短刀の説明をしてくれぬか?」
「はい。この短刀は、私の父が幼い頃、父の父、つまり祖父が亡くなった頃に、幼い父の代わりに朝倉家の内政と軍事を一手に引き受けていた、朝倉宗滴公が、
父を支える者達が多く産まれる事を祈願して、作らせた、十本の短刀のうちの二本です」
「何と!朝倉家が諸国に恐れられていた時代に、その名を轟かせた宗滴公が作らせたとな!」
「はい。私の母方の祖父が宗滴公に仕えていて、共に戦場を駆け巡っている頃に、朝倉家の将来を憂いた事から願掛けの為に作らせた。と、母から教えてもらいました」
「ほう。言わば、朝倉家当主を支える者達の証とも言える短刀じゃな。しかし高代、お主達は朝倉家から追放されたのに、何故、この短刀を手に入れる事が出来たのじゃ?」
「それは、父が怠惰で、時勢を読めなかったから、いえ、読む気も無かったから。とでも言えば良いでしょう」
「どう言う意味じゃ?」
「父は越前国と言う、米が豊富で、人も多い国に胡座をかいていたと思われます。それこそ「朝倉家は食糧も人間も多いから、他家が攻めて来ても返り討ちに出来る」と、思っていたのでしょう
だから、その短刀を与える様な武将、それこそ宗滴公の様な家臣が一族から産まれたら、二人が産まれる前年に産まれた弟の愛王丸との家督争いが起きてしまうと思ったのでしょう
私の母は、父に対して、「子達を連れて、朝倉家を去る事は構いません!ですが、朝倉家の人間である事を示す証をいただきたく!」と伝えた結果、いただいたのが、短刀と化粧箱なのです」
高代さんが、短刀の由来を含めた色々を説明し終えると、大殿は
「お主達の親の事を悪く言いたくないが、左衛門督は、それ程、一人の女と、その女との間の子に入れ込んでおる、愚か者に成り下がったのに、周りの家臣は見て見ぬふりをしておったのか?」
「逆です。むしろ、何度も諫言を口に出しておりました。それこそ私も含めて!ですが、父はその様な家臣達を遠ざけ、甘い言葉だけを口に出す家臣を重用し、
愛王丸の母の一族も重用した結果が、織田様との戦に敗れ、私達以外の全員が死んだ事です」
「改めて聞くが、織田家に恨みは無いのか?」
「ありません。朝倉家が時勢を読めなかった結果ですから。今はそれよりも、弟達を六三郎様に仕えさせていただいて、将来的に、二人合わせて二万石と少しくらいの領地をいただける様に頑張ってもらうだけです」
「成程、中々に強い女子じゃな!あの左衛門督の娘とは思えぬ程じゃ。十二年前の戦の時、高代が男で家督を継いでいたならば、朝倉家は手強い相手であっただろうな」
「織田様。勿体なきお言葉にございます。ですが、私としましては、先ずは弟達か生きていく事に困らない様、六三郎様の元で鍛えていただきたく!」
「だ、そうじゃが六三郎?」
「拙者としては構いませぬが、しばらくの間、学ぶ場所と働く場所は、甲斐国になりますので、典厩様。拙者と共に土地改善に参加する者達だけでも。
千人は居ますので、その者達が寝泊まり出来る広さの建物を建てられる土地の余裕はありますか?勿論、幾つかの建物に人間を分けても良いのですが」
「六三郎殿。無い事は無いのですが。その土地は手付かずな状態ですので」
「それならばとりあえず、その土地に行ってから決めましょう。高代殿、宗太郎殿、宗次郎殿。とりあえずは、そう言う事に決まりましたので、いつでも動ける様に、準備しておいてくだされ」
「「「はい!」」」
「うむ。これで話はまとまった様じゃな。では、儂と権六は近江国へ向かうとしよう!」
「あ、あの!」
おや?高代さんがいきなり呼び止めたけど、何か言い忘れでもあったのかな?