大殿の予想外な反応
「実は、また訳ありの者達に召し抱えてくれ!と懇願されました!」
「ほう。此度はどの様な訳ありじゃ?没落した公家の嫁と子供か?それとも、かつては一国の守護大名だったのに、下剋上により国を追われた元守護大名の家族か?」
(何で近い答えを出すんですか!もう、殆ど当たっているんですよ!仕方ない!改めて!)
「大殿、後者が近いです」
「ほう。六三郎よ、その者達の父親の名前も知っておる様じゃな。包み隠さず話せ!」
「はい。その者達は、朝倉左衛門督の遺児達です!」
「はあっ!朝倉じゃと!?」
「六三郎!それは誠なのか?」
「何処で見つけたのじゃ?」
「その者達は何歳くらいなのですかな?」
親父、前田様、佐々様、明智様の順で驚いているけど、大殿はあまり驚いてない。何故だ?
俺がそう考えていたら、大殿から
「六三郎!その者達の年齢や人数構成を覚えておるな?申せ!」
「はい!今年18歳の姉と、15歳になる男児の双子です!その姉弟は、それぞれ母親が違いますが、15年前、双子が産まれた事で、前年に嫡男を産んだ側室が
左衛門督を唆し、双子を殺そうとした時に姉や母達と共に信濃国へ落ち延びたそうです!そして、それぞれの母親は既に亡くなっておりまして、今は3人で暮らしております」
「ほう。その姉弟を支える家臣は居ないのか?」
「はい。人並みな大きさの家に住んでおりますし、周りには地侍達ばかりでしたので、その様な者達は居なかったと思われます」
「そうか。何とも不思議な縁じゃな。それで、その姉弟は、織田家に恨みを抱いていなかったのか?」
「それが、姉曰く、「自分が産まれる前に長男で嫡男だった兄が亡くなって以降、内政にも軍事にも以前ほどの気概が無くなって、1日中同じ場所に居る日がある程、無気力な父親の記憶しか無いから、
織田家に滅ぼされたのも仕方ない。と、言っておりましたし、双子は父親の顔も知らないから、特に思う事も無いと」
「どうやら姉の方が多少なりとも、朝倉左衛門督の記憶がある様じゃな。よし!決めたぞ!六三郎、越後国の戦後処理が終わったら、その姉弟に会いに儂も信濃国へ行く!」
(マジで?また俺の仕事が増えるじゃないか!ただ、大殿のこの感じは、本当に高代さんに会いたいだけかもしれないな。まあ、とりあえず引率だけだし、いいか)
「ははっ!」
こうして、六三郎の予想とは真逆の反応を示した信長は、朝倉姉弟に会いに信濃国へ行く事が決まった。そして、
「六三郎よ。儂が叱責しない事に驚いておる様じゃな?」
「えっ。は、はい。父上から昔、織田家と朝倉家は修復不可能な程の関係だと聞きましたので」
「はっはっは。確かに儂も、儂の親父も、更に祖父も、織田家が越前国の神職から始まった事を聞かされていて、
その事で朝倉家が当主どころか、家臣、更には陪臣にいたるまで、織田家を馬鹿にしておったからな
それで朝倉家に憎しみを持っていたが、今では朝倉家の血筋の者で生きているのは、その姉弟だけじゃから、憎しみよりも、興味が勝っておる」
「そ、そうでしたか」
「まあ、そう言う事じゃから、楽にせよ。そもそも、織田家に恨みを持っておるのならば、六三郎が殺されておる可能性は高いが、そうではないのじゃ
恐らく、姉の方が、とても頭の良い娘なのじゃろうな。十五年もの長きに渡り、正体を隠して生きてきたのじゃ。どれ程の女傑か興味がある!」
「そうなのですね」
「そう言う事じゃから権六!露天風呂に入るのは、少し遅くなるぞ!」
「大殿が御決断なされたのですから、拙者は従うのみです。拙者も、信濃国へ同行します」
(ええ〜?親父まで引率しないといけないのはちょっと)
と、思っていたら大殿の悪ノリが出ました
「権六。もしかしたら、姉は来年か再来年には六三郎の側室になっているかもしれぬから、顔をよく見ておけ!」
「ははっ!」
「まあ、顔を見て、少しばかり話したら、直ぐに近江国へ出立するから長居はしない様にしように気をつけよう!
そうと決まれば、儂の軍勢の半分を十兵衛に託した方が、復興も移動も早くなるじゃろう。十兵衛!儂の軍勢の四千五百人を置いていくから、与力として存分に使ってよいぞ!」
「ははっ!ありがたき!」
「よし!そうと決まれば、婿殿と典厩を呼べ!これからの予定を伝えておく!」
「ははっ!」
大殿が三郎様と典厩様を呼び出して、
「二人共!いきなり呼び出して済まぬな!徳川家と武田家、両家の活躍もあって、北陸地方は征圧出来た!誠に感謝する!」
「義父上」
「内府様!ありがたきお言葉です」
「うむ。それでじゃが、両家は軍勢を整えたら帰国の途についてもらって構わぬ。そして、婿殿。此度の働きにおいて領地に関しては、
二郎三郎に事前に伝えておるし、勘九郎にも伝えておくが、北陸の小さい場所になるが、それで良いか?」
「はい。現在のところ、徳川家は三河国、遠江国、駿河国、信濃国を領有しておりますが、更に大きな領地を手にしても、拙者は勿論、父上も誰に任せるか悩みますでしょうし」
「そう言ってくれて助かる。そして典厩、武田家に関しては、此度は金銭の支給で働きに報いる形で良いか?」
「はい。先程、三河守様が仰っていた事は、武田家にも当てはまりますし、現在の武田家が優先すべきは、
甲斐国の復興と、その為の土地改善ですので、その為の金銭と思えば、とてもありがたいものです」
「そう言ってくれて助かる。それでは、これで話は終わりじゃ。準備が整ったら、順次帰国して良いぞ」
「「ははっ!それでは失礼します」」
こうして2人は帰国準備の為に、その場をあとにした。そして大殿は
「それでは、我々も移動の準備に取り掛かろうぞ!十兵衛!しばらく越後国に詰める事になるが、任せたぞ!」
「ははっ!越後国の復興を出来るかぎり早く終わる様に気張ります」
「うむ。よろしく頼む!では、準備に取り掛かろう!」
明智様にあとの事を任せて、移動準備を始めました。高代さん達は驚くだろうけど、まあ、頑張ってくれと願っておこう。