主人公が無自覚で煽ると
織田軍と徳川軍に挟まれる形て捕虜となった上杉家の面々、およそ四千が本陣に向かっている。その中で景勝は立場を考慮して、馬に乗せてもらっている
しばらく移動を続けていると、やがて本陣に到着する。上杉家全員が上座の正面に正座の形で地面に座り、光秀、利家、成政、そして勝家の代理として六三郎が下座の椅子に座り、上座に信長が座ると
「さて、自己紹介と行こう。儂は織田家の先代当主の織田内府じゃ!上杉家の者達よ。前年の年末の奇襲、誠に見事であった。地の利を生かして、
数に勝る織田軍相手に優位に戦っていたのにも関わらず、援軍が来たら即座に撤退する決断力!それらを含めた全てが見事であった!」
信長は前年の年末の戦の手腕を褒め称えた。その言葉を聞いた上杉家の者達は警戒心を強めた。その中で、
「内府様!発言をお許しいただきたく存じます」
直江兼続が発言の許可を求めた。それに対し信長は
「良かろう!それで、お主の名は何と申す?」
「直江平八兼続と申します!」
「直江平八じゃな。どの様な事を聞きたい?」
「此度、春日山城を攻撃した「柴田の鬼若子」と呼ばれる若武者殿に、何故あの様な策を考え、実行出来たのかを聞きたく!」
兼続が六三郎に対して何か思うところがあるのか、「何であんな作戦を考えて実行したのか教えてくれ!」と質問して来た。それを聞いた信長は
「ほう。直江よ、余程此度の城攻めに思うところがある様じゃな。そこまで聞いてやる。話してみよ!」
不満があるなら話してみろ!と兼続を煽ると兼続は
「ならば!あの様に城の中に居る者達だけでなく、城の周辺に住まう者達も巻き込む策を、
人として有り得ぬ策を実行する事に躊躇は無かったのかを聞きたく!まともな戦で戦わずに、勝ちを掴んで恥ずかしくないのかと答えていただきたく!」
と、六三郎に対して、怒りをぶつけて来た。兼続の言葉を聞いた信長は
「六三郎!そこまで聞かれたのじゃ!しっかりと答えよ!」
六三郎に答える様に促す。促された六三郎はと言うと
(いやいやいや大殿!!直江さんめっちゃブチ切れじゃないですか!こんなん、俺の答え次第では、捕虜になってない上杉家の人達全員が、
俺にヘイトどころか殺意を向けるじゃないですか!出来るかぎり、言葉を選ばないとダメだろうなあ。仕方ない!!頑張って答えよう!)
そんな事を考えていた。覚悟が決まった様で
「では、大殿。直江殿にお答えします。先ず直江殿。人として有り得ぬ策を実行する事の躊躇に関しまして、一切ありませぬな!」
「貴様!鬼か!」
「鬼ですか。まあ、拙者の父は鬼柴田と呼ばれている柴田越前守なのですから、人によっては拙者の事を鬼の子と呼びますな。おっと、それは今は関係ない話でしたな
話を本筋に戻しますが、「まともな戦で戦わずに」と仰っていましたが、上杉家の居城である、あの城。まともに戦っては、城を落とすのに何年かかりましょうか?
だからこそ拙者は、どれ程の悪名をつけられようとも、まともではない戦で、あの堅固極まりない城を落としたのです」
俺がそこまで言うと、直江さんは静かになった。でも、顔は何か言いたそうだったので
「少しばかり、話はそれますが、此度、拙者が飛騨国を進軍した際、国人領主の内ヶ島家が織田家に臣従したいからと、拙者に取次を頼んで来ました
その時、内ヶ島家から「居城に来て欲しい」と言われましたが、その居城は、上杉家の城の様に高く険しい山に建っていました」
「その城も落としたと言う自慢話なら」
「自慢話ではありませぬ。まだ続きがありますので、聞いてくだされ。その城は勿論、山ですら崩れ落ちそうだから断り、内ヶ島家の面々を拙者の本陣に呼び、
こう伝えました。「これまで一度も起きなかった事が、今日明日に起きないわけではない。あれ程の山が崩れたら、城どころか城下町まで飲み込まれる」と、
実際に、交渉がまとまった日の夜に大雨が降った結果、山も城も崩れ、内ヶ島家は領地の全てを失い、此度の戦に領地獲得の為に、拙者の軍勢に組み込んでおります」
「何を言いたいのじゃ?」
「分かりませぬか?これまで一度も攻撃される事が起きなかった城が、今日明日に起きないと思っていたから、そして、城の堅固さに胡座をかいていた結果が、
あの様な結果になったと思わないのですか?それこそ、上杉家の中で「城が落とされるかもしれぬ」と考える人は居なかったのでしょうか?」
俺がそこまで言うと
「貴様!!上杉家を馬鹿にしおって!!」
直江さんのブチ切れがマックスになった。しまった、言葉を選んだつもりだったのだが
六三郎が軽くパニックになっていたら
「平八!やめんか!」
景勝が兼続を嗜める
「殿!しかし!」
「平八!あちらの柴田六三郎殿の言うとおりじゃ!儂達は、春日山城の堅固さに自信を持っていた。だが、それは、時が経つにつれ、驕りになり、最終的に胡座をかいた!それが、あの結果じゃ!
改めて申すが平八よ!儂達は戦に敗れた敗軍の将じゃ!何を言っても負け惜しみじゃ!だから平八よ!何も言わずに内府様の沙汰を待て!そして、儂達の驕りを見破った柴田六三郎殿に頭を下げよ!」
「殿!ははっ!柴田六三郎殿。申し訳ない」
景勝の言葉に兼続が頭を下げる。それを見た六三郎は
「いえ。拙者こそ口か過ぎました」
と、頭を下げた。場が落ち着いた事を確認した信長は
「ふっ。上杉越後守よ。直江平八の傀儡かと疑っておったのじゃが、流石、軍神と呼ばれた上杉謙信の後継者。越後という大国を領有するに相応しい気概を持っておるな!」
景勝の気概を気に入った様だった
「それでは、上杉家の者達よ!沙汰を伝える!」
信長はどの様な沙汰をくだすのか?