大軍に上杉家はなす術なく
この作品はフィクションです。有り得ない展開も出て来ますが、ご了承ください。
春日山城から上杉家の面々が退避を始めて、次々と城の外へ集まっている。その中の1人は土台部分の雪の中に埋もれている、外の状況を確認しに行っていた家臣を見つけて、その家臣を雪の中から助けると
「何が起きたか説明を!」
と、説明を求めると、助けられた家臣は
「拙者の、家臣が、まだ、雪の、中に、助けて、くだされ」
「分かった!各々方!まだ雪の中に埋もれておる者達がおる!急ぎ助けましょうぞ!」
「「「「おお!」」」」
動ける家臣達は率先して、雪に埋もれている者達を助ける。そんな中、主君の景勝は
「急ぎ火を!!冷えた者達を温めよ!油を多く使っても構わぬ!!」
自身の事よりも、雪崩に巻き込まれた者達を優先して温める様に指示を出す。家臣達の働きもあって、土台部分に埋もれていた陪臣助けられ、
「大殿。誠に、誠に、ありがとうございます!」
「あのまま雪の中で死ぬのかと思いました」
他にも景勝達に礼を言っている陪臣も居たが、兼続は
「それで、どの様な状況になっておったか覚えておるか?些細な事でも構わぬ!」
外に見に行った時の状態を質問する。すると、1人の陪臣が
「見に行った時、信じられないかもしれませぬが、城の土台部分が、三日月の様に抉れていたのです。前日までは何も無かったのに」
そう答える。その話を聞いた兼続は、
「殿!!これは人為的なもの、それこそ織田家の攻撃かもしれませぬ!!急ぎ軍備を!このままでは!」
景勝にそう進言する。その直後、
「殿!城の東側より徳川と武田の軍勢が!最初の揺れで逃げ出した足軽達を討ち取りながら、此方に進軍しております!」
「何!?」
徳川軍と武田軍が進軍している報告が景勝に届く。更に、
「殿!城の西側より織田の軍勢が!信じられぬ速さで進軍しております!」
織田軍が進軍している報告まで届く。続いて、
「殿!山の麓から赤備えの軍勢が!まもなく見える距離に入りまする!」
トドメともダメ押しとも言える六三郎達の赤備えが近づいている報告まで入る。全ての報告を聞いた景勝は
「そ、そ、そんな」
そう言いながら、膝から崩れ落ちた。そんな状態の景勝に兼続は
「殿!!此処は落ち延びましょう!!落ち延びて再起を!」
そう言いながら奮起を促していたが、景勝が立ち直るよりも早く
「上杉家の者達が居たぞおお!!」
「逃すなああ!!」
西側から進軍していた織田軍の中で、一番乗りを争っていた前田家の若武者に見つかる。その声をきっかけに続々と織田家の軍勢が集まっていく
少し遅れて東側の徳川軍と武田軍も到着する。総勢五万に達する軍勢に囲まれた景勝は
「ここまでか。織田家の方々!拙者が上杉家当主の上杉従五位下越後守じゃ。此度の戦の責は、拙者だけに止めていただきたく!なので、家臣達は生かしていただきたい!」
到着した利家、成政、光秀に対して、そう頼み込む。しかし、3人は
「上杉殿。我々だけでは何も決められぬ」
「済まぬが、沙汰がくだせるのは」
「後から来る織田内府様だけなのじゃ。それでも捕縛はさせていただくぞ」
「敗軍の将は何も言えませぬ。ただ従うのみですので、捕縛も受け入れます」
景勝の言葉を聞いてから、織田軍は景勝達に縄をかけ始める。その場に居た全員に縄をかけ終えた、丁度その時、
「到着したあ!」
麓から全力で上り坂ダッシュをしていた赤備えのうち、銀次郎が最初に到着したが、銀次郎は周囲の状況を察した様で、
「遅かったか!!」
と、悔しそうに地面を叩く。その銀次郎に対して、今回出陣していた兄の惣右衛門は
「銀次郎!!これ程に見事な武功を、お主達は挙げたのじゃ!そこから更に一番乗りを欲するなど、強欲過ぎるぞ!」
と嗜める。その話を聞いた景勝と兼続が
「御免!見事な武功と言っておられるが、此度の事は、やはり織田家の策で間違いないのでしょうか?」
「だとしたら、この様な尋常ならざる策を考え、実行した、恐ろしい武将の顔を見せていただきたく」
と、利家達に頼んで来た。利家と成政は
「良かろう。此度の策を考え実行した武将の顔を、しかと見たらよろしい」
「鬼神の如き軍略の才を見せた武将は、見た目はその様な武将に見えぬぞ?」
乗り気で六三郎を見せようとしたが、光秀は
「いやいやお二人共。彼の者の顔を見せて、覚えられたら、上杉家の家臣や陪臣、更には領民から憎しみや殺意を持たれてしまいます!」
六三郎を見せない様に反対意見を出す。しかし、タイミング悪く
「若様!やっと到着しましたぞ!」
赤備え達が到着した。その最後尾から六三郎が到着すると、
「上杉家の面々よ。信じられぬかもしれぬが、あの若武者が此度の策を考え、実行した武将じゃ!」
「誰かしらは聞いた事があるのではないか?「柴田の鬼若子」の二つ名を。それが、あの若武者の事じゃ」
利家と成政は六三郎の事を大々的に紹介する。それを見た光秀は、頭を抱える。
その様子を見ていた六三郎は、
(えっ?何で皆さん俺に注目してるの?明智様は何か頭抱えてるし。縄で縛られているのが上杉家の面々で間違いないと思うけど、
何か俺を見る目に、驚きと憎しみを感じるのですが?これってまさか、俺が今回の作戦の立案と実行者という事をアピールしたのか?)
状況をいまいち分かってない様だった。しかし、あの人物の登場でトドメを刺される
「遅くなったな!皆、よく働いた!そして六三郎!見事な策を考えるだけでなく、危険な場所を受け持ち実行する気概!流石、柴田の鬼若子じゃ!」
信長が到着と同時に六三郎の働きを褒める。その瞬間、六三郎は
(大殿!やめてー!上杉家どころか、越後国の領民達のヘイトが俺に来るじゃないですか!)
と、心中で願っていたが、信長は
「今はそれよりも、上杉家への沙汰を考えなければならぬか。城はあの様な状態じゃから、儂達の本陣へ来てもらおう!」
六三郎の願いが届いたのか、上杉家を本陣に連れていく決定をくだした。信長はどの様な沙汰をくだすのか?