伐採して加工したら軍議で伝える
天正十三年(1585年)一月二十日
越後国 春日山城近く
「若様!此方の範囲の伐採は終わりました!」
「六三郎殿!此方も終わったぞ!」
「柴田様!此方も終わりました!」
「皆様ありがとうございます!それでは、加工する為に細かくしてくだされ!」
皆さんおはようございます。朝から越後国、しかも敵の本拠地近くで伐採作業の監督をしております柴田六三郎です。二万人も使ってやる事が伐採って、
お前、何考えてんの?と、突っ込まれそうですが。これも、これから春日山城を落とす為の下準備なんですよ。
特に必要なのが、松と竹でして、その2つは周囲から無くなるまで伐採してもらいました
二万人の皆さんに伐採をやってもらった結果、大小合わせて七千本くらいの松と竹が集まりました
「皆様!誠にありがとうございます!それでは、これから、この松と竹を筒状に加工していきます」
俺がそう言って、加工に取りかかろうとすると、
「若様。その作業、我々に任せていただけませぬか?」
親父と一緒に出陣していた、吉田のおっちゃん達が、自分達に加工作業をやらせてくれと頼んで来た
「いやいや吉田殿?吉田殿達は、父上と共に出陣しているのですから疲労困憊でしょう。これは我々が」
「いえ、若様達はこれから上杉の城を落とす為の軍議を織田様達と開いてくだされ!我々は、我々は、殿があの様な状態ですし、若様と共に戦場を駆け巡りたくとも、
この老体では、それも叶わぬ願いです、なので、せめて、これくらいはお役に立ちたいのです!何卒!」
吉田のおっちゃんを筆頭に、皆泣いていた。例え老体でも、俺の産まれる前から柴田家に仕えてくれたんだから無碍には出来ないよなあ
「分かりました。吉田殿、今から伝える長さと太さに松と竹を加工してくだされ!長さは刀の柄二つ分、太さは刀の柄ぐらい。
それを出来るかぎり多く作ってくだされ、そして、それが完成したら、種子島の火薬と油を詰めてくだされ!それを出来るかぎり作ってくだされ!この五日のうちに」
「ははっ!若様の働きで殿が目覚めます様、精魂込めて作ります!」
「よろしくお願いいたす」
こうして、吉田のおっちゃん達に松と竹の加工と、簡易ダイナマイト製作を任せて、俺は大殿を始めとした面々、まあ、大殿以外だと、明智様、前田様、佐々様、三郎様、典厩様
そして、俺の家臣で前線指揮を任せる源太郎と昌幸さんだ。この面々に今から伝える作戦は、
「山崩れを人為的に起こす?どう言う事じゃ六三郎?」
そうです。今から十三年前と十年前に使った簡易ダイナマイトの廉価版として、竹に火薬と油を詰めて、春日山城の土台を中心に設置する作戦です
「大殿。十年前の武田との戦で、武田の砦を破壊した、あの武器を使うのです」
「いや、六三郎。十年前の武田の砦は、上杉の城よりも低い位置にあったから、件の武器でも壊せたのだぞ?しかしながら、上杉の城は」
「大殿。壊すのは城そのものではありませぬ」
「では、何処を壊すのじゃ?」
「此処です」
俺は地面を叩く。当然、皆さん不思議な顔をしますが、こんな時、やっぱり勘が鋭いのは昌幸さんです
「若様。そう言う事ですな?」
「喜兵衛。分かったのか?分かったのならば、大殿達に説明出来るな?」
「お任せを。皆様、若様は件の武器を大量に生産する為に、松や竹を大量に伐採し、武器の生産が完了しましたら、城の土台部分に武器を設置して、
城を落とす為に、山崩れを人為的に起こすつもりなのです。そして、数日前に若様が仰っていた、雪を使う。と言うのは、この事だったのですね?」
「喜兵衛。流石じゃ。大殿、そして皆様方、この策は予想以上の効果が出る可能性が高いですが、予想以上の被害が出る可能性も高い策です
なので、この五日間で城を囲む役以外の方々は、最低でも半里は、城から遠ざかっていただきたく!!」
俺がそう言うと、軍議の場に静寂が流れた。しかし、
「これ!六三郎、その様な豪胆な策を、遠くで見ていろとは随分と立派になったのう!」
大殿は笑いながら、場の空気を変えると、
「ふむ。六三郎の策を少しばかり手直しするとなると、先ずは権六と権六の護衛達は急いで移動させた方が良いのう。それから、婿殿と典厩」
「ははっ!何でしょうか義父上」
「内府様。我々にどの様なお役目を」
「お主達の軍勢は一里程離れた場所で待機せよ」
「な、何故ですか義父上」
「内府様!我々は半里の距離に居ては駄目なのですか?」
「勘違いするでない!もしも、六三郎達が山崩れを起こした時、お主達まで巻き込まれては、戦にならぬ
だからこそ、万が一を考えて、一里程の距離に居て、生き残った上杉の者を殲滅したり、六三郎達の救助にあたって欲しいのじゃ」
「義父上」
「内府様。そこまでお考えでしたか」
「うむ。理解してくれたなら」
信長か軍議を締めようとした時、六三郎が
「大殿、拙者からお頼みしたい事が」
「何じゃ?」
「此度の戦に出陣している長宗我部家と丹羽家の軍勢も一里程の距離に置いていただきたく」
「何故じゃ?弥三郎は初の婿として認めてもらう為、五郎左の倅は初陣を経験する為に、お主の側に居るのじゃぞ?」
「先程も言いましたが、山崩れの被害が我々にも来る可能性があるからです。若造なれど、妹である初に惚れた男を失う辛さなど味わって欲しくないのです
それに、五郎左衛門殿は、江の婿に推挙したい程の出来た若武者です。そんな2人なので、火付け役である拙者や赤備え達の近くに居るのではなく、
三郎様や典厩様と同じく一里程の距離に居て、山崩れが起きてから、ちゃんとした戦で武功を挙げて欲しいのです」
「そう言う事か。妹の婿殿と、婿殿に推挙したい二人を守る為と申すか。そこまで申すならは、火付け役は六三郎、お主と赤備え達だけで良いのだな?」
「はいっ!」
「良かろう!上杉はおよそ一万、対する六三郎率いる赤備え達はおよそ二百五十。普通に考えたら、まともな戦になるとは思えぬが、
六三郎!いや、柴田の鬼若子よ、その鬼神の如き軍略の才で、上杉家を攻略、もしくは混乱させてみよ」
「ははっ!」
「それでは六三郎!策を始める時は、前日に伝えよ!儂達は移動を開始するからな。それでは、此度の軍議は終了とする!」
「「「「ははっ!」」」」
こうして軍議は終了して、全員解散したが、六三郎は昌幸と源太郎と共に赤備え達の詰所に向かった
そして、軍議の内容を伝えると、
「若様!上杉軍一万に対して、我々赤備え達二百五十程で先陣を切るなんて、とても誇らしいではありませぬか!」
「しかも、状況次第では我々が上杉の城に一番乗りを果たせる可能性もあるとなると」
「楽しみ過ぎて興奮するではないか!」
「父上!これは誠に城内に雪崩れ込める可能性も!」
「これ程の壮大かつ豪気な策を使う戦に関われるとは!」
全員、美味しいポジションに居る事、一番乗りや一番槍の可能性に興奮していた。それを見た昌幸は
「はっはっは!若様!赤備えの皆がこれ程までに戦を恐れておらぬのは、間違いなく若様という絶対的な存在が居るからこそ!
ですな。ならば、この真田喜兵衛昌幸!源太郎殿と共に託された前線指揮官のお役目、全身全霊で努めまする!」
「喜兵衛殿!拙者も全身全霊で努めますぞ!」
「源太郎も喜兵衛も、そして皆も当日はよろしく頼むぞ」
「「「「「ははっ!」」」」」
皆の士気は充分だな!あとは、吉田のおっちゃん達がどれだけ早く加工と製作を終えるかだな!