越後国を迷いながらも到着したら
天正十三年(1585年)一月十日
越後国 某所
「若様。越後国に入りましたが」
「うむ。早めに越後国に入れた事はありがたい」
皆さんこんにちは。1週間前に俺と同じ逆行転生者で、織田家が滅ぼした越前朝倉家の遺児でもある高代さんと、逆行転生者じゃない双子の弟達と面会して
上杉との戦が終わったら、召し抱えて働いてもらう事を約束しました柴田六三郎です。いやあ、俺と同じ逆行転生者が、将来的に滅ぼされる家の姫に産まれた事も驚きですが、
その姫が、家が滅ぼされない様に動いていたのに、結局、家の滅亡は免れなかった事実を聞いて、改めて俺も気持ちが引き締まりました
数年遅れの本能寺の変が起きる可能性もあるし、もしかしたら、織田家の天下統一が達成される前に俺と親父が揃って討死する可能性だってある
それを考えると、この時代だと非常識と呼ばれている行動を取ってでも、生き延びる事に集中しようと思います
で、昌幸さんから越後国に入った事を伝えられたのですが、信濃国が温かく感じる程、寒いです!
やっぱり海沿いだからか?冬の海風、しかも日本海だから冷えるのか?まあ、今は早めに親父や大殿が居る本陣に到着する事を優先しよう
大殿が率いる軍勢は九千人なのに、俺が引率する軍勢は一万六千人とか、改めて思うんだけど、家康と五郎さんや典厩さんは顔馴染みなんだから、三郎様と信濃国で合流してから
俺と合流しても良かったんじゃないか?それ以前に、飛騨国経由じゃなくて、中山道経由のルートだったら、もっと早く到着出来たんじゃ?
これって、大殿が俺に何かしらの秘密のミッションを与えているんじゃねえのか?何かそんな気がして来たぞ?これで親父に色々言われるのは、少し納得がいかないけど、そこは諦めよう
何とかして、上杉の城を1つか2つ落として不問にしてもらうか。まあ、今はそれよりも、早く進もう
六三郎がそんな事を考えながら引率しながら達む事、五日、やっと比較的開けた場所に到着する。
天正十三年(1585年)一月十五日
越後国 某所
「六三郎殿。そろそろ義父上の居る本陣に到着したいのじゃが」
「確かに。あまり遅くなるのは」
「三郎様、典厩様。申し訳ありませぬ」
皆さんおはようございます。引率している徳川軍、武田軍の大将2人から、「早く到着したいんだけど?」と遠回しに言われております柴田六三郎です
雪が深い中での進軍は信濃国で慣れたと思っていたのですが、越後国の雪の質と量は、信濃国とは別物でして、かなり進みにくいのです
それでも何とか慣れまして、なんとか、城が見える場所まで来ました。とりあえず安全確認の為に、
「源次郎!赤備えの半分を率いて、城の周囲を確認してまいれ!敵が多数居たら撤退して良いからな?」
「「「ははっ!」」」
源次郎達は元気よく偵察に行ったけど、城側の戦力が分からない上に、撤退しても良いと言ったんだから、
大丈夫だよな?ここ数年、まともに戦ってないからって、
無理に戦わないよな?正直、少し、いや、かなり心配です。
六三郎が源次郎達を心配しながらも、偵察結果を待っていると、昌幸から
「若様。もしもの話ですが、上杉が城に籠った場合、どの様に攻撃しますか?」
「おいおい喜兵衛。父上と大殿が率いる軍勢だけで四万を超える大軍じゃぞ?儂達の出る幕が無い可能性の方が高いのだから、それは」
「「あくまでそうなったら」ですから、若様ならばどの様に攻めるかを聞きたく」
「そうじゃなあ。儂としては、この雪を使うかのう」
「雪を使うとは?」
「そうじゃな。雪が城に雪崩れ込む様に仕向けるかのう」
「それはどの様に?」
昌幸さんが更に踏み込んで聞こうとしたら、
「若様!」
偵察に行っていた源次郎達が帰ってきた。早めに帰って来たから何も無かったのかな?
そう思っていたら、
「我々の反対側、およそ四里程の距離に大殿や内府様達の本陣がありました!」
「誠か?よし、ならばすぐに移動するぞ!三郎様!典厩様!」
「待ち侘びたぞ!」
「早く行きましょう」
親父達の本陣を見つけたらしいので、急いで移動しましょう。「遅くなり申し訳ありませぬ」は、早く伝えたいからな。とにかく急げ!
こうして、六三郎はやっと大軍の引率という大役を終わる事が出来ると、テンションが高かった。勝家の現状を見るまでは
本陣に到着すると六三郎は、
「大殿!到着が遅くなり、申し訳ありませぬ!」
到着と同時に平伏した。スライディング土下座と言っても良い程、早かったが、そんな六三郎に信長は
「遅い!!何処で道草を食っておった!!権六が大変な時に!お主は!お主は!」
涙ながらに六三郎を叱責した。叱責を受けながらも六三郎は信長の言葉に反応する
「大殿!父上が大変とは、どういう事でしょうか?」
「本陣の奥の寝所に来い!!そこに権六が居る!」
信長の言葉を聞いた六三郎は、信長に連れ添われて寝所に入る。そこには
「父上!!!」
寝所で横になったままの勝家が居た。
「年末にいきなり倒れて、中々目を覚まさぬ。じゃが、呼吸もしておるし、心の臓も動いておる。目覚めるのを待つしかない状況じゃ!そんな時にお主は!」
信長は勝家の状態を説明しながら、六三郎を叱責する。そして、
「権六!六三郎が到着したぞ!早く起きぬか!早く起きて、着陣が遅くなった六三郎を叱責せんか!」
と勝家に呼びかけるも、当然、勝家からの反応は無い。周囲には利家、成政、光秀も居て、
「親父殿!六三郎が来ましたぞ!」
「親父殿!逞しくなった六三郎を見てくたされ!」
「柴田殿!目を覚ましてくだされ!」
3人共、信長と同じく、涙なからに勝家に呼びかける。しかし、やはり反応は無い
六三郎も最初は、状況を理解出来なかった様だったが、気持ちを切り替えて、
「大殿、明智様、前田様、佐々様。父上の事をよろしくお願いします」
そう言って立ち上がるが、
「何処へ行くつもりじゃ!!?」
信長が質問して止める。すると六三郎は、
「申し訳ありませぬが、父上ならば、「戦場に来たのならば、儂の事など気にせず、織田家の為に武功を挙げて来い!」と言うでしょう。
だから拙者は、出陣します!それが、父上が最も喜ぶ事ですから!」
そう言い切った。それを聞いた面々のうち、利家が
「六三郎!こんな時ぐらい親父殿の側に」
そう言おうとしたか、信長が止める。そして信長は
「分かった。六三郎よ、権六の事は任せよ!だからお主は、何も気にせず上杉を叩きのめして来い!」
「ははっ!」
こうして六三郎は寝所を出た。六三郎の後ろ姿を見た4人は、
「権六。六三郎は立派に育っておるぞ。その姿を見る為に早く目覚めよ」
「そうですぞ親父殿!とても立派で威風堂々としておりますぞ」
「親父殿。六三郎と共に戦場に立たなくてよいのですか?」
「柴田殿。目覚めてくだされ」
再度、声をかけるが、やはり反応は無い。いつまでも勝家の側に居たら軍勢の士気に関わるので、4人は一度、寝所を出た。
六三郎の上杉攻めを補佐する為、全て見届ける為、それを勝家に伝える為、色々な思いを抱えなから、開戦の時が刻一刻と近づいていく。