やっぱりそう言う展開ですよね
高代さんからの指名で家の中に入った俺達4人に対して、弟2人が
「姉上!誠に大丈夫なのですか?」
「これでもしもの事になったら」
と、不安そうな言葉が出ています。でも、姉の高代さんは堂々としています。肝が太いって、こういう人の事を言うんだろうな
まあ、言いたい事は何となく予想出来るから、俺から話を切り出すか
「さて、前置きなど要らぬから、本題に入りましょうか。3人は、かつて越前国を治めていた朝倉左衛門督殿の遺児、で間違いありませぬな?」
俺の言葉に、高代さんと昌幸さん以外の面々が驚く。そんな中、高代さんが
「やはり、気づいておりましたか」
「ええ。高代殿が名を言った時、「もしや」くらいの疑念でしたが、宗太郎殿と宗次郎殿の名を聞いた時に確信に変わりました。喜兵衛、お主は驚いてなかったが、薄々気づいておったのか?」
「はい。もしかしたら、ぐらいの疑念でしたが、若様と同じく宗太郎殿と宗次郎殿の名を聞いて」
「やはりか。まあ、喜兵衛は武田家に居た時から、そう言う事に関わっていたのだから納得じゃ。
それで、高代殿。何故、儂達を家に呼んだのじゃ?父の左衛門督殿の仇として、儂達を殺すつもりか?」
そう俺が質問すると、
「いえ!その様な復讐心は一切ありませぬ!」
「高代殿はそうかもしれぬが、宗太郎殿と宗次郎殿はどうなのじゃ?親の仇と思っておらぬのか?」
「柴田様、実は、拙者と宗次郎は父親の記憶が全く無いのです」
「兄上の言う通りです。父親が越前国を治めていた事、織田家に戦で敗れ、殺された事も全て、我々から遠い国で起きた話としか思えないのです」
「ふむ。喜兵衛、儂は宗太郎殿と宗次郎殿が嘘偽りを言っているとは思えないが、喜兵衛から見てどうじゃ?」
「拙者から見ても、宗太郎殿と宗次郎殿は真実を話してくれているのだと思います」
「ふむ。ならば、高代殿だけか、父親である左衛門督殿の記憶があるのは。父親を殺した織田家に憎しみが湧いておらぬのか?」
「柴田様。私は、父の左衛門督に関しては、堕落した姿の記憶しかありません。その理由として先ず、
嫡男だった阿君丸兄上が、私の産まれる前に亡くなった事により、父は内政にも軍事にも以前程の気概が感じられなくなった。と、母より聞いております
実際、幼い頃の私の目には、父は一日中同じ場所に居るだけの人にしか見えない程、無気力でした
兄が亡くなって、唯一の子であった私への関心も、殆ど無かった程に」
うわあ、重いなあ。話を聞くに唯一の男児で嫡男だった子を亡くしたから無気力になったと言う事らしいけど、でも、だとしたら、何故に3人は朝倉家を追放されたんだ?
「高代殿。兄君が亡くなって、高代殿と宗太郎殿と宗次郎殿しか子供が居ない筈の朝倉家から、何故この信濃国へ来たのですか?」
「柴田様。実は、私と宗太郎と宗次郎の間には、愛王丸が居ました。ですが、その愛王丸、正確には愛王丸を産んだ沙夜と言う女が、父の側室になった事で、私も二人だけでなく、
私の母と二人の母は、朝倉家から追放されたのです。僅かな気持ちばかりの路銀を渡されて、当時四歳だった私と、産まれて間もない二人は母と共に信濃国へ流れ着いたのです」
「それは、左衛門督殿が腑抜けになられた。そう言う事ですか?」
「端的に言えばそう言う事です。私が三歳の時、愛王丸が産まれて、私は勿論、家中の誰もが可愛がっておりました、
父は元より沙夜に入れ込んでおりましたが、愛王丸が産まれて以降、内政も軍事も全て家臣任せになり、沙夜と愛王丸の側に居続けるだけになりました
私は、その様な父を見たくなかったから、父に働く様に口うるさく言い続けておりました。家臣の方々も、私に賛同してくれて、家中が割れ始めた、丁度その頃でした。
宗太郎と宗次郎が産まれたのは。私に賛同していた家臣の方々は、沙夜が居るから父が腑抜けになったと判断して、沙夜を殺す計画を立てていたのですが、
何処からか計画が漏れて、私に賛同していた家臣の殆どが沙夜の手の者に殺されてしまいました。計画を沙夜から聞かされた父は、それでも沙夜の味方でした
ですが、父の中に僅かながらの親心があったのでしょう。私達や母達を殺す事はせずに、越前国から追放する事で、事を納めたのです」
高代さんの話は、柴田家でも起きる可能性が少しあったから、軽口は叩けないな。だって、登場人物を当てはめると、朝倉義景は親父、沙夜はお袋、愛王丸は京六郎になる。
そして高代さんは俺。うん、どう考えても家中が割れる未来しかない。ダメだ、どんな言葉をかけていいか分からないから、話を変えよう
「それは大変でしたな。それで、改めて確認しますが、宗太郎殿、宗次郎殿。そして高代殿は拙者に仕えたい。と言う事て良いのですな?」
「はい。私達は、母親が違いますが姉弟です。朝倉家を追放されて以降、母達は私達の為に働いていましたが、無理が積み重なった結果、二年前に亡くなりました
そして、もう私には弟達しか家族が居ません!なので、柴田様に三人まとめて召し抱えていただきたく!」
高代さんがそう言いながら平伏すると、弟達も
「「我々からもお願いします!」」
と平伏して来た。弟達は追放された事に恨みは無さそうだけど、高代さんは
「高代殿。確認するが、越前国を取り戻したい。と言う訳ではないのだな?」
「はい。今更、弟達に大領を持って欲しいと言う気持ちはありません。ですが、食べる事に困らない様にはなって欲しいのです」
「源太郎、源次郎、喜兵衛!3人に働いてもらうとしたら、上杉との戦が終わった後で良いか?」
「若様がそう御決断なされたのなら」
「我々は何も言いませぬ」
「その様に進めましょう」
「うむ。それでは年齢を確認したい。高代殿は何歳じゃ?」
「十八歳です」
「宗太郎殿と宗次郎殿は?」
「「十五歳です」」
「高代殿は、女中として働いてもらうとして、宗太郎殿と宗次郎殿は理財の心得は有るか?」
「「有りませぬ!」」
堂々と言っちゃったよ。じゃあ、利兵衛か源四郎のどちらかに甲斐国に来て、2人を鍛えてもらうか
「よし!それでは、3人共!儂達はこれから上杉との戦に出陣してくる。それが終わったら、3人を回収しに来るから、待っていられるな?」
「「「はい!」」」
「うむ。では、儂達は出立する!源太郎!源次郎!喜兵衛!行くぞ!」
「「「ははっ!」」」
俺達が立ち上がって帰ろうとしたら
「お待ち下さい!」
高代さんに止められました。何かあるのか?
「柴田様とだけお話したい事がありますので、二人きりにしていただけませんか?」
そんな事を言って来ました。まあ、周りを赤備えの皆に囲ませたら大丈夫か
「良いでしょう。ただし、源太郎、源次郎、喜兵衛。家の周りを赤備えで囲んでいてくれ。高代殿、それで良いなら二人きりでの話し合いをしよう」
「はい。それで構いません」
話はまとまったけど、二人きりで何を話すんだ?
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