十二年ぶりの帰宅と兄弟の涙
新左衛門を原家に残して、俺達は最期の源太郎と源次郎の両親の墓参りに出発した。その道中で源太郎が話し出す
「若様。実は、拙者も源次郎も十二年前の戦に出陣する際、父と母の墓に挨拶をしていたのです。その時点での父は、武田家にとって罪人であったので、
墓の周囲には、「謀反人の墓」と立札を立てられておりました。その立札を取る事は許されなかったので、
拙者も源次郎も、その立札を壊す事は叶いませなんだ。更には母の墓も」
そこまで言うと、源太郎は言葉に詰まる。源次郎は既に泣いていたから、話す事も出来ない。これは、俺が止めないとダメだな
「源太郎と源次郎!」
「「ははっ!」」
「もしも、これから行くお主達の両親の墓が、昔と変わらない状況だったなら、その立札を取り外そう!」
「えっ?し、しかし、武田家の許可を得ずに、その様な事をしては」
「若様!お気持ちはありがたいですが」
「お主達の両親が死後もその様な目にあっている事、儂は許せぬ!それで武田家が物言いをして来たら、
百回だろうが千回だろうが、頭を下げよう!武田家中をまとめる為に腹を切ったのにも関わらず、いつまでも罪人扱いでは、父君と母君が不憫でならぬ!
何かあれば、儂が責を取る!だから源太郎と源次郎!お主達は、両親の墓を綺麗にして、しっかりと墓参りする事を考えよ!良いな?」
「「ははっ」」
俺の言葉に2人は、泣いていた。
「2人以外の皆も、墓の状況が酷い場合は、共に掃除するぞ!」
「「「「ははっ!」」」」
「皆、済まぬ」
「源太郎!お主達は何も気にせず、墓へ案内してくれ」
「ははっ!」
源太郎も源次郎も、顔を上げて前を向いたから、これで大丈夫だろう。そして、原家を出発して1時間くらいの場所で、源太郎と源次郎が馬を降りる
「若様。これから先に両親の墓があるはずのですが、申し訳ありませぬ!少し、探して来ますので、お待ちいただきたく!」
「分かった。2人共、無理をするでないぞ」
「「ははっ」」
返事をした2人は、歩いて墓を探しに向かった。それからおよそ20分くらい過ぎた時、
「「あああっ!!」」
2人の大声が聞こえたので、全員で声の方向へ向かう。到着して2人を呼ぶ
「源太郎!源次郎!何か起きたか!?」
「わ、若様」
「墓ぎ、父上と母上の墓が!」
「墓が荒らされていたのか?」
「いえ!墓が掃除されているのです!」
「誠か?」
「はい!しかも、先程話しておりました立札も無くなっているのです!」
「何と!ま、まあ良い!源太郎、源次郎!両親に手を合わせて、これまでの事を伝えてやれ」
「「ははっ」」
「父上、母上。十二年ぶりに帰って来ました。この十二年の間、色々な事がありました。拙者も源次郎も、
嫁をもらい、子も産まれました。そして、何より、仕える主家が武田家から柴田家に代わりました
死して尚、父上の事を愚弄する者達と共に、戦場に立つなど、拙者には無理です。父上は拙者の事を大馬鹿者と叱責するかもしれませぬが、それでも拙者は、
拙者は、柴田六三郎様の為に、命尽きるまで仕え続けるつもりです!お許しくだされ」
「兄上。次は拙者が、「父上、母上。先程、兄上が伝えてくださいましたが、この十二年の間に、嫁をもらい、子も産まれました。
そして、主君も変わりました。ですが、兄上と同じく後悔はありませぬ!父上の事で、母上を苦しめた者達の為に戦う事は、拙者は出来ませぬ。申し訳ありませぬ!」
2人は墓前で頭を下げて泣いていた。俺も、後ろで手を合わせていたけど、前に出て、言葉をかける
「源太郎と源次郎のご両親。2人はとても立派な武将として、拙者と共に暴れております!そして、父君!
貴殿の作った赤備えを我々が使わせてもらっております。真似事と思うかもしれませぬが、今や、周囲の国からは恐れられ、家督を継げない二男以降の若者達から、憧れを持たれている軍勢です
その軍勢の大将は源太郎です!赤備えの皆が納得する程の大将となり、源次郎も見事な武功を挙げております!改めて、源太郎と源次郎は勿論、赤備えの皆をお守りいただきます様、お願いいたす!」
俺の言葉を聞いた2人はいつの間にか、涙も止まった様で、
「「若様ありがとうございます」」
と、頭を下げていた。
「良い。改めてじゃが、源太郎、源次郎!両親へ話したい事は、全て話せたか?」
「「はい!」」
「そうか。ならば、躑躅ヶ崎館へ戻って、明日からの出陣に備えておこう!皆、戻るぞ!」
「「「「「ははっ!」」」」」
少しばかり、無茶なスケジュールだったけど、何とか全員の里帰りと墓参りを達成出来たな。
それじゃあ、明日には信濃国へ出陣して徳川軍を回収してから、越後国へ出立というハードスケジュールが始まるんだから、さっさと帰って休もう!