兄は全てを受け入れて
琴音さんが暴れる事も無くなった様なので、
「新之助殿!入りますぞ!」と声をかけて、家の中に入る。全員は無理だから俺と一部の者だけが入って、
新左衛門の元へ行くと、運ばれてから15分くらい経過したからなのか、目覚めた様だけど、
「痛たたた、皆、儂はどうなった?若様は?妹の琴音が儂を打ち据えた事までは覚えているが、もしや!琴音は若様に無礼な行ないをしておらぬか?
琴音がその様な事をしていたら、儂は、腹を切るだけでは」
軽い錯乱状態になっていた。なので、
「新左衛門!儂は此処に居るぞ!」
と、大声でアピールする。俺に気づいた新左衛門は、
「若様!情けない姿を見せて、申し訳ありませぬ!妹は、琴音は、若様に無礼を働いておりませぬか?」
慌てて、俺の所に来て、早口で色々と聞いてくる。落ち着かせる為、
「新左衛門。儂は大丈夫じゃ。他の者達も怪我はない。だから今は、横になって身体を休めよ」
「申し訳ありませぬ。お言葉に甘えます」
そう言い聞かせて、新左衛門を寝ていた場所に戻す。そこで改めて、
「新左衛門。お主の実家が、とても歴史ある家にも関わらず、儂に仕えてくれた事、誠に嬉しいが、そのせいで琴音殿があの様に暴れた事は、儂の責じゃ、済まぬ」
「そ、そんな事はありませぬ!若様が責を負う事など、何もありませぬ!」
「新左衛門、興奮したら傷にさわる。先程、源太郎が琴音殿に伝えていたが、十二年前の戦は、本来ならやらずともよい戦だぅたのに、秋山が武功欲しさに、
父上の領地に攻め込んで、その結果、赤備えの皆を捨てて逃走した事がきっかけであったと
それを聞いた琴音殿は、一応、理解してくれた。納得しているかどうかは分からぬがな」
「改めて、琴音が申し訳ありませぬ」
「良い。ただ、新左衛門よ。此度、お主は気を失う程、頭を打ち据えられた。いつもの新左衛門ならば、容易く避ける事が出来たはずなのに、何故、避けなかった?」
俺が質問すると、新左衛門は真剣な顔で答える
「それは、、琴音の怒りが、琴音だけでなく、父上と母上と祖父母、更には先祖からの怒りだと思ったのです。
これまで、原家の男は必ず、武田家に仕えていたのに、その慣例を破ってしまった事への怒りだと思ったので、避けなかったのです」
「新左衛門」
「勿論、その様な怒りを受けても、拙者は若様に仕え続けます。それだけは変わりませぬ!」
「その言葉、とても嬉しく思うぞ」
「勿体なきお言葉です。ところで、琴音は何処に?新之助、分かるか?」
「兄上にあの様な事をしたので、家に入り辛いのでしょう。外で立ったままです」
「そうか。新之助、済まぬが琴音を連れて来てくれ」
「えっ?は、はい」
新之助さんは、新左衛門に言われると、琴音さんを新左衛門の前に連れて来た。バツの悪そうな顔の琴音さんを見た新左衛門は
「琴音。近くに来なさい」
琴音さんを近くに呼ぶと、頭を撫でながら、
「琴音。儂が居なくなっても、剣術の稽古を欠かさなかったのじゃな。先程の一撃はとても効いたぞ?」
「申し訳ありませぬ兄上」
「怒ってなどおらぬ。儂が長兄として、嫡男として、原家を顧みなかった結果じゃ。だからこそ琴音、
儂は、琴音の怒り受け入れる。だから、二度とこの様な事はやらないでくれ。良いな?」
新左衛門がそこまで言うと、
「うわああああ!申し訳ありませぬ兄上!!」
と、大泣きした。まあ、これで解決したと判断していいかな?それじゃあ、
「新左衛門、新之助殿、琴音殿。それでは、ご両親に手を合わせたいのじゃが、よろしいかな?」
「「「はい」」」
3人の両親の位牌に手を合わせて、しばらく経ってから、
「さて、新左衛門よ。此度、お主は気を失う程の大怪我をして、更に出血までしておる。その様な体調では、雪深い越後国へ連れて行けぬ」
「そ、そんな若様!これくらいの怪我、大した事ありませぬ!なので、拙者も上杉との戦へ!」
「ならぬ!」
「そんな、若様」
「よいか新左衛門。身体の外側の怪我ならば、殆どの人間は寝ていたら治ると儂は思っておる。だがな、内側に関しては、簡単に治るとは思えぬ。だからこそ、
此度は大事を取って、身体を休めてくれ!それにな新左衛門、戦は上杉との戦だけではない。状況次第では、毛利は勿論、関東の北条、
更には九州へも出陣する。だからこそ、来たるべき時の為に、此度は身体を休めてくれ」
「分かりました」
「済まない。だが、万全の体調で戦場で暴れて欲しいからこそじゃ」
「ははっ!」
「それでは新之助殿、琴音殿。新左衛門の事を宜しく頼みますぞ」
「「はい」」
これで、新左衛門の事は大丈夫だな。それじゃあ、源太郎と源次郎の両親の墓参りに行きますか。