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じゃじゃ馬姫は帰りたくとも

天正十二年(1584年)十月二十五日

越前国 某所


遠江国で家康が孫の竹千代を鍛えている頃、場面は変わり、越前国では前田利家の娘の摩阿姫と、お目付役であり、保護者でもある叔父の安勝が柴田家の屋敷へ向かっていた


「叔父上!六三郎様の正室の話が無くなったのに、何故、六三郎様のご実家に行くのですか?」


「摩阿よ。これはお主の父上から、柴田様へお頼みした事なのじゃ」


「父上は何をお頼みしたのですか?」


「このままでは摩阿が歳頃になっても、嫁の貰い手が居ないかもしれないから、織田家中の中でも躾に厳しいと評判の柴田家で嫁入りの為の修行をさせて欲しいと頼んだのじゃ」


「それならば、能登国の実家でも出来るではありませぬか!」


「実家では摩阿に対して、強く言えぬであろう?だから、殿は柴田様に摩阿を柴田家で鍛えていただく様に頼んだのじゃ」


「私はそんな我儘な姫だと思われているのですか?」


「摩阿よ、羽柴様の領地で、佐々様の御正室様に対して言った言葉は、一歩間違えたら無礼であると、斬られても仕方ない言葉だったのじゃぞ?そう言った部分も含めて心配だからと、


殿どころか、おまつ様も摩阿を柴田家で鍛えて欲しいと頼み込む為に、同行してくださっておるのじゃぞ?ですな、おまつ様?」


「ほっほっほ。義兄上。聞いた話ですが、柴田家では立場の上下に関わらず、皆が何かしら働いているそうですし、女子も武芸の腕を磨いているそうですから、


摩阿にも良い影響が出る事は当然ですけど、二男の又若丸も将来的に何処かの家に仕官する可能性もあるから、内政も含めて鍛えてもらおうと思い、連れて来たのですから」


「おまつ様。その又若丸様は、随分と乗り気な様ですが」


「ほっほっほ。義兄上。又若丸は、六三郎殿の逸話を聞いているからこそ、自らも同じ様になれるかもしれないと思い、此度同行したのです。ねえ、又若丸?」


「はい!柴田六三郎様の戦に関する逸話は勿論ですが、内政に関する逸話も聞いて、是非とも教えていただきたいのです!」


「義兄上。きっと、又若丸は大丈夫です。摩阿に関しては、少しずつでも鍛えてもらって、何処ぞの家に嫁入り出来る様にしてもらいましょう」


「母上。私はそれ程、嫁入り出来ない女子に見えるのですか?」


「ええ。ですが、あなたを我儘な娘に育ててしまった、私達の責任でもあります。なので、あなたと又若丸を鍛えてもらう為に、お市様へ頭を下げるのです」


「分かりました」


「分かったのならよろしい。義兄上。あの大きな屋敷が、柴田家の屋敷ではありませぬか?」


「その通りでしょうな。それでは、説明に行って来ます」


安勝が門番に話をして、中に入ると、大広間へ案内された。しばらく待っていると、


「遅くなって申し訳ありませんね。権六様も六三郎も居ないので、私が対応します。正室の市です。まあ、知っていると思いますが、織田家当主である


織田内府の妹です。よろしくお願いしますね。それでは、前田殿の正室のまつ」


「はい」


「皆を紹介してくれますか?」


「は、はい。先ず、私の義兄で、此度柴田家にお預けする子供達のお目付役の前田五郎兵衛です」


「前田五郎兵衛安勝と申します」


「それから、此方が娘の摩阿でございます。お話を聞いているとは思いますが、私達夫婦が甘やかし過ぎたのか、じゃじゃ馬に育ってしまいました。何卒、柴田家で鍛えてくださいませ。摩阿!ご挨拶なさい!」


「前田摩阿でございます」


「そして、摩阿の弟で、又左衛門様と私の二男の又若丸です。前田家に居たままよりも、柴田家で鍛えられた方が将来的に何処かの家に仕える事になっても、


大丈夫な様に鍛えていただきたいと思い、連れて来た次第にございます」


まつの挨拶と紹介を聞いた市は、


「紹介、ありがとうございます。ですが、まつ」


「は、はい。何でございますか?」


「我が子が心配なのは分かりますが、お目付役とやらを付けるなんて、甘やかし過ぎではありませんか?」


「し、しかし。摩阿は今年で十三歳ですし、又若丸は十歳です。身の回りの世話を考えたら」


「まつの言い分も分かります。ですが、いえ、言葉よりも形で示した方が良いでしょう。利兵衛、千熊丸を連れて来なさい。今は源四郎に理財を教えてもらっているでしょう?」


「ははっ」


市に言われた利兵衛は、源四郎の元に行き、千熊丸を連れて来る。そして、千熊丸を前田家の面々に紹介する


「まつ。この千熊丸は、最近織田家に臣従した長宗我部土佐守殿の四男で、兄で長宗我部家嫡男の弥三郎が次女の初を嫁に迎える為、私が武功を挙げる様に


言ったら、父である土佐守殿が三千の軍勢を届ける際に、共に土佐国から来たのですが、共の者など居ない中で来たのですよ?」


「そ、それは」


「更に言うなら、土佐守殿の本拠地である四国は情勢が不安定だからこそ、兵を四国に残す為に、千熊丸を一人で寄越したのです。


まつ、五郎兵衛。摩阿と又若丸は、一人では何も出来ない上に、人に話しかける事も出来ない程、甘やかされているのですか?」


市が遠回しに、「我が子の将来が不安なら、お目付役なんか付けずに、子供だけ置いていけ」とまつと安勝に言う。それを感じ取ったまつと安勝は


「分かりました。摩阿、又若丸。私は勿論ですが、義兄上も帰りますから」


「摩阿姫様、又若丸様。ご武運を」


2人の言葉に又若丸は


「はい!しっかりと学び、鍛えていただきます!」


と、返事をするが、摩阿姫は


「そんな!母上、叔父上!」


と、ショックを受けていた。そんな摩阿姫達に市は


「まつと五郎兵衛、今日はもう遅いですから、泊まっていきなさい。ですが、明日からは、子供達だけになります。良いですね?」


「「はい。二人をよろしくお願いします」」


まつと安勝は、揃って市に頭を下げた。こうして、ウキウキな弟と絶望している姉が、柴田家で鍛えられる事が決定した

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豪姫と長宗我部盛親ですか。剛腕同士というか脳筋っぽいというか
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