過大評価な内ヶ島家の緊急会議
六三郎達の元を離れた氏行は、六三郎に言われた事を父親の氏理に伝える為、帰雲城へ戻っていた。氏理は息子達が六三郎達を連れてくる事を期待していたが、六三郎達が居ない事を知った氏理は、
「兵太郎!織田家の方々を何故、連れて来られなかった?何か失礼な対応でもしたのか?」
六三郎達が居ない理由を問いただす。すると、家臣の1人が、
「殿。若様は失礼の無い対応をしておりました。ですが、一行を統率しておる総大将の者が」
「何を言ったのじゃ?」
「城と山が崩れそうだから、話を聞いて欲しいのであれば、本陣に来いと」
そう話すと、周りの家臣達が
「何と無礼な!」
「百五十年もの長きに渡り、一度も落城した事の無い帰雲城が崩れそうとは!」
「しかも、山も崩れそうとは!」
「相手の城や領地を侮辱するなど、何と常識知らずの武士じゃ!
「殿!その様な者達は攻撃して、我々は上杉家の味方になりましょう!」
「織田家と戦じゃあ!」
怒り狂い、六三郎達と戦う空気になっていた。そんな家臣達を抑える為に氏埋は
「静まれ!!」
大声で一喝した。家臣達が静かになったので、氏行に再び質問する
「兵太郎よ。その一行の総大将の名を覚えておるか?」
「はい。柴田六三郎と名乗っておりました」
氏行の答えに氏埋は
「柴田六三郎じゃと!?」
家臣達を一喝した時以上の声で驚く。氏埋ほどではないが、戦の空気になっていた家臣達も驚いていた
その様子に、氏行が氏理に質問すると
「父上?何をそれ程、驚かれているのですか?」
氏理は説明を始める
「兵太郎。今年で十五歳のお主は聞いた事は無いかもしれぬ。だがな、今お主が口にした柴田六三郎とやらは、日の本の二十歳、
いや、二十代の武士の全てを含めて、戦の才が一番と評される程の若武者じゃ」
「ええ?父上、それは過大評価では?柴田六三郎とやらは、身の丈が少々高くて逞しい身体である事以外は、何処にでもいる普通の武士にしか見えなかったのですが?」
「見た目で人を判断するでない!良いか!柴田六三郎とやらは、その戦歴が常人と比べて、ありえぬのじゃ!兵太郎よ、お主の初陣は今年、姉小路との小競り合いだったな?」
「はい。どちらも五十人くらいの人数で、家臣の皆も、初陣として丁度良い規模の戦と言っておりました。それが柴田六三郎とやらと何か関係あるのですか?」
「柴田六三郎とやらは、初陣を経験したのは元服前の八歳で、しかも初陣で三千程の軍勢の総大将を務めたそうじゃ!しかも、敵は三千を超えた武田家だったそうじゃ!」
「ち、父上?それは誠の話ですか?」
「誠も誠じゃ!しかも、自身が率いる軍勢は武士と百姓で編成された軍勢だったそうじゃ。一方の武田家は、全員武士の軍勢で、軍勢の質でも数でも勝っていた
だが、柴田六三郎とやらは、鬼神の如き軍略の才で、武田家を翻弄し、最終的に敗走させたそうじゃ!今の話を聞いて、兵太郎よ。柴田六三郎とやらの凄さが分かったであろう?」
「凄さは分かりましたが、あくまで元服前の話ですよね?元服後は凡人になっているのでは?」
「やはり分かっておらぬな。その柴田六三郎とやらは、元服したのが十一歳の時で、元服して二ヶ月後には再び武田家との戦に参戦した。お主も知っている、
九年前の織田家と徳川家が武田家と三河国で戦った戦じゃ。あの時、柴田六三郎とやらは、武田家の砦を壊す別働隊として働いていたそうじゃが、
そこでも逸話を残しておる。その逸話とは、自らの手勢二百だけで、武田家の足軽と侍大将合わせて五百が籠る砦を陥落させただけでなく、砦そのものを修復出来ぬ程、壊したそうじゃ」
「な、何と」
「元服前と元服後、どちらの戦も数で負けていたのにも関わらず、勝利しておる。それ程の軍略の才を持った若武者が大軍を率いておるのだぞ?
我々どころか、姉小路の者達と共闘して攻撃しても、返り討ちになるだけじゃ!それこそ、柴田六三郎とやらが言っていた、「城と山が崩れそう」とは、
我々と戦になったら、山崩れを起こして、城ごと潰すと遠回しに言っているに違いない!」
「父上、それは考え過ぎでは?」
「兵太郎よ。お主は柴田六三郎が率いる軍勢を目の前で見て来たのじゃろう。おおよそで良いから、どれだけの人数が居たか覚えておるか?」
「おおよそならば、四千は超えていたかと」
「四千!内ヶ島家と姉小路家の全ての軍勢を合わせても、四千には届かぬ!」
「父上。如何なさるおつもりで?」
「柴田六三郎殿に会う!そして、本領安堵を織田家当主にしてもらう様、頼みこむ!姉小路家より先に会って、話をしておく。運が良ければ微々たる領地の加増も期待出来るかもしれぬ!」
「父上、分かりました。それでは明日にでも」
「うむ。柴田六三郎殿に会いに、本陣へ行くぞ!皆の中から数人連れて行くが、失礼の無い様に!」
「「「「ははっ!」」」」
「もしも、姉小路が上杉に味方したならば、織田家の力を借りて、攻め滅ぼせる!だが、先ずは織田家に臣従と本領安堵を認めてもらうぞ!」
こうして、六三郎を過大評価しまくりの当主、氏埋の決断によって、内ヶ島家は六三郎を通じて、本領安堵を信長に願い出る事が決まった。
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