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父は土佐国へ

天正十二年(1584年)九月一日

近江国 安土城


「勘九郎!皆、戻ったぞ!」


「父上!お帰りなさいませ!」


「「「「お帰りなさいませ!」」」」


安土城に信長が到着すると、信忠は大広間の上座を開けて、下座に移動した。上座に座ると信長は


「皆!儂が居ない間、勘九郎を中心に役目に励んでくれた事、誠に感謝する!」


「父上!越前国で何か面白い事が起きたのですか?随分とお顔が嬉しそうと言うか楽しそうなのですが?」


「確かに嬉しい事は起きたな!長宗我部土佐守!お主に関する事じゃ!前に来い!」


「は、ははっ!」


信長に呼ばれた元親は、信長の真正面に座る。その元親を見ながら信長は


「土佐守!お主の嫡男の弥三郎じゃが」


「せ、倅が何かやらかしたのですか?」


「その様に固くなるな。簡潔に話すが、弥三郎の嫁になると宣言して来た女子が居て、弥三郎もその女子を嫁にする決意表明を儂と、その女子の母にして来た」


「ええっ!?な、な、内府様?ちなみに、その女子は何処かの家の姫君なのですか?」


「その女子は儂の妹の娘、つまり儂の姪じゃ!」


「ええっ!倅が申し訳ありませぬ!」


「何を謝っておる?弥三郎は何も良からぬ事はしておらぬぞ?」


「し、しかし。内府様の姪と言う事は、許婚が居たのではないのですか?倅はそれを壊してしまったのでは?」


「それなら安心せい!姪達は、母も「何処の家に嫁がせたら良いか」と考えて答えが出ない状態じゃ!


つまりは嫁ぎ先が未定だったから、此度、儂は土佐守に問題が無い事を伝えようとしたのじゃ!」


「そ、それならば、拙者も少しばかり安心しました」


元親がそう言うと信長は、


「土佐守よ。その安心は、直ぐに無くなるぞ?」


「どう言う事でしょうか?」


「実はな、その女子の母が、「武功も挙げない男子に娘を嫁がせたら、娘が肩身の狭い思いをするかもしれぬ。だからこそ娘を嫁にしたいなら、武功を挙げて来い!」と言っておってな


弥三郎も、その事を了承した結果として弥三郎は、その娘の兄である六三郎と出陣する事を決めたぞ」


「内府様。今、六三郎殿の名が出ましたが、その姫君の兄が六三郎殿なのですか?」


「ああそうじゃ。儂の妹の市と、六三郎の父の権六が子連れ同士で再婚した結果、六三郎の妹になった


そして、早くて今月末、遅くとも来月の中頃までには越前国を出立して、一度甲斐国に寄ってから、権六が総大将を務める北陸方面軍に合流する。方面軍の総勢は三万五千じゃが、多少増えても構わぬ!


その軍勢に弥三郎も参加するのじゃが、土佐守。ここまで話して気づいた事はあるか?」


「はい。弥三郎は家臣達が居ない中で参加するのは無謀でございます!」


「流石、つい最近まで四国を統一しようとしていた男じゃ。話を聞くだけで、弥三郎の現状を見抜きおった


そこでじゃ土佐守!此処に弥三郎が書いた文があるが、内容は恐らく、出陣するから越前国へ家臣を寄越してくれとの事じゃろう!


土佐守!この文を持って、一度土佐国へ戻り、弥三郎の元へ行かせる家臣を見繕って来い!」


「ははっ!」


「準備が整い次第、出立して構わぬ!強行軍な移動になるが、しっかりと頼むぞ?」


「ははっ!倅の嫁取り、成功させてみせまする!」


「うむ。では、戻って良いぞ!」


信長に促された元親は、急いで大広間を後にした。元親が居なくなった大広間では


「父上。弥三郎に惚れたのは茶々ですか?」


「いや、初じゃ。弥三郎の顔と鍛えられた体躯、更には、臣従の挨拶に来た時に話していた、


土佐国と阿波国を発展させる為、六三郎に教えを乞う心意気に惚れた様じゃ」


「行動力のある男子に惚れるとは、叔母上の娘らしいですな」


「全くじゃ。九年前に六三郎が権六の嫁に「男だったら一廉の武将になれたであろう女子」と言っていたが、初は市に負けず劣らずな程、活発じゃからなあ」


「確かに。しかし父上。弥三郎は六三郎と共に、北陸方面軍に参加するのであれば権六に会うわけですが、権六は、この事を知らないのですよね?」


「それは勿論じゃ。まあ、権六は、六三郎が弥三郎の事を「初の婿殿」と紹介したとしても、いきなり切りつける事は無いじゃろう!」


「権六の性格なら、弥三郎ではなく六三郎に、「初の婿殿を何故、戦場に連れて来た!」と叱責しているでしょうな」


「それは間違いないな。それで、市の言葉を言えば、権六も納得するじゃろう。権六の事じゃ、六三郎に弥三郎の事を丸投げしつつも、絶対に死なせるな!


と命令するのが想像出来るわ。まあ、弥三郎の元へ行かせる家臣の数も期待出来ぬから、そうなるのも仕方あるまい」


「それに、徳川家から義弟が徳川様の名代として出陣するのですから、弥三郎達の軍勢は微々たる数でも大丈夫でしょう」


「まあ、油断するな!くらいは伝えておかねばなるまい。しかし、この様な状態だと儂も北陸方面軍に参加したいのう」


「父上。お気持ちは分かりますが」


「ならば勘九郎よ。ひとつ賭けをしよう!」


「どの様な賭けですか?」


「なに、土佐守が弥三郎の元へ行かせる家臣達の数じゃ。四国の戦況が微妙だから、多くない数を弥三郎の元へ行かせる事になるじゃろう。その数で賭けて、


儂が勝ったら、北陸方面軍に参加する。勘九郎が勝ったら、大人しく城で待つ。そう言う内容じゃ」


「成程、現状、長宗我部家は土佐国、阿波国、讃岐国を領有しておりますから、三国合わせた軍勢で二万五千は居ると予想すると、拙者は土佐守が弥三郎の身を案じて、八千は弥三郎の元へ行かせると賭けます」


「勘九郎の予想は八千か。ならば儂は五千じゃ!五千を一人でも超えたら、賭けは勘九郎の勝ちで良い!じゃが、五千以下なら儂の勝ちとする!」


「父上。「それは言ってない」は聞きませぬぞ?大広間に居る家臣の皆か証人ですからな!」


「分かっておる!それはお主もじゃ!しかし、結果次第では上杉との戦に参戦する事を分かっているから、皆も目が輝いておるな!さて、土佐守!どれだけの家臣を寄越すか楽しみじゃ!」


信長は、織田家有利な状況だからか、少しばかり浮かれていたが、戦場に立つ気持ちはまだまだ顕在だった。

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