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大殿の涙と戦う六三郎

「兄上!勘十郎夫婦は、六三郎を見込んで仕えさせてくれと頼んで来たのです!私も、二人の事は知っていましたが、雪乃が長政様の子を授かっていた事は、六三郎が越前国に連れて来るまで、知らなかったのです!ですが!」


「市。今は六三郎と勘十郎達に聞くから、黙っておれ!勘十郎と雪乃!お主達、あの戦の時、何故落ち延びる事が出来た?そして、その後、何処に居たのじゃ?」


「織田様。我々は備前守様と奥方様のご配慮により、小谷城より落ち延びて、丹波国にて暮らしておりました。ですが、


羽柴筑前様が山陰地方へ出陣するとの情報を聞いたので、入れ替わる形で、近江国へ戻ったのです」


「ほう。近江国へ戻って、筑前の居ない北近江で、虎夜叉丸を神輿に混乱させるつもりだったのか?」


「その様な事は考えておりませぬ!拙者は、当時元服直後と言う事で、備前守様と奥方様に落ち延びる様に言われ、生き永らえたからこそ、恩義に報いる為に


備前守様と雪乃との間の子である虎夜叉丸に生きて欲しいからこそ、羽柴筑前様の軍勢に見つからない為に動いただけでございます!」


勘十郎の言葉に大殿が静かになる。そこに帰蝶様が


「殿。二人に聞くよりも、二人を召し抱えた六三郎に真意を聞いた方が早いと思います。それこそ、これまで利兵衛を皮切りに、


色々な訳ありの者達を召し抱えた六三郎ですから、六三郎!勘十郎家族を召し抱えた理由、ちゃんと説明出来ますね?」


俺に無茶振りしてきた。まあ、覚悟していたし、遅かれ早かれだからな。さて、大殿との戦だ!


「ははっ!勘十郎家族を召し抱えた理由ですが、召し抱えても問題無いと判断したと同時に、近江国に居たままでは羽柴様に見つかり、満福丸殿の二の舞になる可能性があるから、召し抱えたのです!」


「六三郎よ、虎夜叉丸が浅井備前守の子だと分かっていたのにも関わらず、何故、儂に報告しなかった?」


「大殿。虎夜叉丸は、茶々と初と江にとって腹違いの弟であり、母上が父上の前に愛しておりました備前殿の忘れ形見です。甘いと言われようとも、


家族が悲しむ姿を見たくありませぬ!だからこそ、大殿に報告しなかったのです!」


「六三郎!!貴様、武士として後顧の憂いを、禍根を無くす為の根切りを知らぬわけでは無かろう!」


「それは知っております!ですが大殿!虎夜叉丸の実の父は浅井備前守殿ですが、勘十郎の子として育っております!


そして、小谷城が落城した時、織田家が浅井家を滅ぼした時、まだ産まれてもいなかった虎夜叉丸に備前殿の罪を被せて処断するのですか!?」


「貴様!!何も知らぬくせに!」


「何も知らぬからこそ備前守殿の遺言状を見た上で、召し抱えて保護したのです!勘十郎!備前守殿の遺言状を持って来ておるか?大殿にお見せしたい!」


「は、はい!こちらに!」


勘十郎が遺言状を懐から出すと、大殿は勘十郎の元に来てから奪い取って、上座で読み出す。入念に何度も何度も読み返す。時間にして10分くらい経過した頃、


「たわけ!たわけ!大たわけ者!!」


大殿が叫ぶ。目には涙が流れていた。そして、


「義弟よ!この様な文を残すくらいならば、何故あの時降伏しなかった!!降伏したならば、儂や二郎三郎と共に、戦無き世を作り、我が子と共に暮らせたと言うのに!


何故、我が子の成長を見る事も諦め、生きる事も諦めてまで、古い盟約なんぞにこだわったのじゃ!!そんな物にこだわった結果が!これでは!!」


思いの丈をぶちまけながら、突っ伏した。お袋にとっては当然だけど、大殿にとっても大事な存在だったと言うわけか


それから、殿が落ち着くまで無言で待っておりました。やっと、殿が話せる状態になると


「六三郎!情けない姿を見せたな。念の為に聞くが、権六はこの事を知っておるのか?」


「いえ。知りませぬ」


「やはりか。だが、それで良い。上杉との戦が終わってからでも良い。ちゃんと伝えておけ!」


「ははっ!」


「それとじゃ!市、そして勘十郎と雪乃!虎夜叉丸が元服する時、そして、嫁取りをする時は儂に必ず伝えよ!義弟に対して、少しくらい、いや、微々たる程度かもしれぬが、罪滅ぼしをしたい!」


「兄上。まさかと思いますが、虎夜叉丸に長政様の事を伝えるのですか?だとしたら、おやめ下さい!」


「何故じゃ?勘十郎の子として育っていても、実の父の事を知るくらいは」


「先程、兄上が仰っていた「虎夜叉丸を神輿にする者」が出てくるかもしれませぬ!だからこそ、日の本の全土から戦が無くなるその日までは、虎夜叉丸に伝えて欲しくないのです!


出来れば、虎夜叉丸にはその様な事情を知らないまま、健やかに育って欲しいのです!なので、どうか!」


「「織田様!我々からもお願いします!」」


「殿!私からもお願いします!」


「大殿!拙者からもお願いします!」


お袋が平伏すると、勘十郎夫婦も、帰蝶様も、俺も、利兵衛も、全員平伏して頼み込んだ。それを見た大殿は


「ええい!分かった分かった!義弟の事は伝えない事にする。だが、元服と嫁取りはやらせてもらうぞ!」


「「「「ははっ!」」」」


「六三郎!」


「はっ!」


「利兵衛がお主を見込んで、紫乃と道乃と新三郎の保護を頼んだ様に、勘十郎と雪乃もお主を見込んだのじゃ!虎夜叉丸が元服する時は勿論、虎夜叉丸の子が元服する時まで、死ぬ事は許さぬ!


それだけの役目を請け負ったのじゃ!命懸けで全員わ守れ!良いな!」


「ははっ!」


「うむ!帰蝶、済まぬ!帰るのは明日に延期じゃ!」


「はい。分かりました」


「勘十郎と雪乃!お主達が覚えておる義弟の事、色々と聞きながら、酒を飲むとしよう!六三郎、お主も付き合え!」


「「「ははっ!」」」


何とか、大殿の怒りも消えた様だな。しかし、虎夜叉丸の子の時まで生きるって、何年後になるかなあ?まあ、今は大殿の飲み会に付き合いますか。

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