母にも伝えたら
天正十二年(1584年)六月三十日
越前国 柴田家屋敷
「利兵衛殿!織田様からの文です」
「若様も大殿も居ない現状で、織田様からとなると、奥方様宛てじゃな。分かった。奥方様をお連れする」
勝家達から遅れる事、2週間、越前国の柴田家屋敷へ信長からの文が届けられた。利兵衛は勝手に読む事が出来ないので、市へ大広間に来てもらう様、呼びかける
そして、利兵衛が先に大広間へ戻って間もなく、市も到着する
「利兵衛。兄上からの文とは誠ですか?」
「はい。勝手に読む事は出来ませぬので、奥方様、お願いします」
「分かりました。文をください」
市はそう言って、利兵衛から文を受け取る。じっくりと読んで、読み終えると
「利兵衛。茶々達全員に、光と花と、源四郎と、喜太郎親子と、三之丞とかえで、勘十郎と雪乃、そして紫乃と道乃を連れて来なさい。これは全員に知らせないといけない事です」
「ははっ!」
利兵衛は市に言われた面々を大広間に集めた。そして、全員集まった事を確認すると
「さて、全員揃いましたね。兄上からの文の内容を話しますが、特に道乃!貴女はしっかり聞きなさい!」
「は、はい」
「では読みます。「市へ。権六が北陸へ、六三郎が武田征伐へ出陣している中で、柴田家を利兵衛達と共にまとめている事、誠に感謝する。この文は五月の末頃に、美濃国の岐阜城で書いた物なので、
問題なく届いているならば、水無月の末くらいには届いているはずと思っておるぞ。それでは本題に入るが、武田征伐に関してじゃが、実は卯月の初頭には終えていたのじゃ、
簡潔に話すが、睦月に儂達が出陣した時点で、武田家中は崩壊しておった。近江国を出立して一月後に、
信濃国に入った時点で、当主の四郎勝頼が穴山という家臣に殺されていた程の崩壊じゃ。だが、四郎勝頼は殺される前に自らの嫁や娘を信頼できる家臣に託して、逃していたが、
穴山の手の者に見つかり、万事休すなところを六三郎と儂の四男の源三郎に助けられた。その後、嫁や娘から、四郎勝頼の弟と従兄弟が信頼出来る味方である事から、
それぞれ降伏勧告を行ない、降伏してもらった後は、共に穴山を討ち取った事により、甲斐国を平定し、武田を臣従させた事になった。六三郎の補佐があったとは言え、儂の四男の源三郎が最も働いた!そして、ここからが本題じゃ!
四郎勝頼の娘、名を勝姫と言うのじゃが、その勝姫と源三郎が文月に安土城で祝言を挙げる!それに六三郎も出席させるが、その後、葉月に越前国で六三郎と正室に決まった道乃の祝言を挙げる事が決まった!
そして、六三郎は祝言を挙げた後に、甲斐国へ移動して、そこから現在、越後国に居る権六と合流する!
甲斐国へ行くのは、三河国でやった事をやる為だと思ってもらえたら良い。そして、正室が道乃に決まったと同時に、明智家と森家から側室を迎える事も決まった
森家からは、当主の勝蔵たっての希望で、末の弟を利兵衛に鍛えてもらいたいとの事で、側室になる娘と共に越前国へ向かう
あと、当然ながら、六三郎の祝言には儂も出るし、新三郎も連れて行く!当日に慌てない為に事前連絡として文を送っておくから、準備していてくれ!」と、
書いてあります。先ずは道乃、貴女が六三郎の正室に決まりました。おめでとう」
市から声をかけられた道乃は、大泣きで喜んでいた
「とても、とても、嬉しいです。私は、六三郎様の側室にして、いただける、だけ、でもありが、たいのに、正室だなんて」
「ふふっ。道乃。貴女なら、六三郎を支えてくれると同時に茶々達と仲良くしているのですから、私としては嬉しいかぎりです」
「そうですよ道乃。道乃なら、兄上の正室に相応しいです!」
「変な女子が来るよりも、為人を知ってる道乃なら安心です」
「道乃なら、兄上も安心して出陣出来るでしょう」
「道乃が姉になるなんて最高です!」
「道乃なら兄上を支えてくれます」
茶々達姉弟に祝われた道乃は、言葉も出ない状態で喜んでいた。それは利兵衛と紫乃も同じだった。
だが、利兵衛は、
「奥方様。此度、道乃が若様の正室に決まった事を姫様達に伝えるだけではないのですよね?」
「利兵衛は気づいていましたか。そうです。葉月に兄上が此方に来るのですから、私は虎夜叉丸の事を兄上に伝えたいのです。
虎夜叉丸本人には、その事を伝えずに、顔を見せるだけで良いのです。例え気づかなかったとしても、兄上に長政様の遺言状を見せたら、間違いなく分かるでしょう
それに、武田を臣従させ、源三郎殿の祝言を挙げて、そこから更に六三郎の祝言です。慶事が続くこの機を逃せば、虎夜叉丸の事を兄上が知った時、柴田家も虎夜叉丸も窮地に陥ってしまうでしょう
だからこそ、兄上か来た時、虎夜叉丸の顔を見せておきたいのです。勘十郎と雪乃!私が、いえ、私達が、あなた達を守りますから、心の準備をしておいてください!」
「「はい!」」
「皆も、虎夜叉丸の事、六三郎が帰ってくるまでの間、しっかり見てあげてください」
「「「「はい」」」」
信長から六三郎が祝言を挙げる事、信長が越前国へ来る事を知った市は、このタイミングしか無いと、虎夜叉丸の事を信長に明かす事に決めた。




