岡崎城で家康の怒りが爆発する
六三郎はうめとも見合いが終わったので、信長や長可と共に岐阜城に戻ると、身体を休めた。一方で信長はこの事を越前国の市へ伝える文を書いて、家臣に渡して、走らせた
長可はまだまだ日も高いうちのに、家臣達と共にうめの嫁ぎ先が決まった事で祝杯をあげていた
岐阜城内がそんな状況の中、孫達がちゃんと躾られているかを気にしていた家康は、抜き打ちで岡崎城へ向かっていた
天正十二年(1584年)六月二日
三河国 某所
「さて、そろそろ岡崎城じゃが、戦から遠かった事もあるが、驚く程に平和じゃな。昔と違い作物も安定して収穫出来てあるから、領民達も辛そうな顔をしておらぬ。誠に六三郎には感謝じゃな」
そう言いながら家康は、岡崎城近くにある農村を通り過ぎていた。そんな家康に忠勝が
「殿。三郎様は、六三郎殿と於古都様の事を知っているのですか?」
破談になった事を質問する
「一応、文を出しておる。三郎からも「惜しいとは思うが、それで織田家と縁が切れる訳ではないのですから、過剰に気にしない様にしましょう」
と言っておった。まったく、六三郎と共に過ごした経験が良い方向に三郎を大名として成長させておるな
これは、そろそろ家督を譲る事を考えても良いかもしれぬな。平八郎と小平太。お主達はどう思う?」
「拙者の考えとしては、三郎様への家督相続はよろしいと思いますが、三郎様の家臣達は」
「拙者も平八郎と同じく。家督相続なされるならば、我々と同じくらい出陣して、戦経験を積んでいけば、いざという時の対処も可能だと思いますので」
「孫達の事だけでなく、三郎の家臣達の事も気にかけぬとならぬか。次の戦では、儂の名代として三郎を出陣させて、家臣達に経験を積ませる事もありかもしれぬのう」
「それも良き事かと」
「殿。そろそろ岡崎城です」
話しながら進んでいるうちに、岡崎城の大手門に家康一行は到着した。家康に気づいた門番は
「お、大殿!」
「いきなり来て済まぬな。武田との戦が終わり、戦の中で起きた事を直接伝えておきたいから寄ったのじゃが」
家康がそこまで言うと、
「竹二郎!待たぬか!」
「嫌です!兄上は拙者に武芸ではなく、内政や理財を学べと言うのでしょう!拙者は武芸を学びたいのです!」
「父上も内政や理財を学べと言っておるのじゃ!逃げるでない!」
声が聞こえたので、覗き込んで見ると、大手門から見える距離を竹千代と竹二郎の兄弟が走っていた。
それを見た家康は、
「中に入るぞ」
と、言いながら大手門をくぐる。そして、
「これ!!何をしておる!!」
大声で兄弟を叱りつける。声に気づいた2人は、
「じ、祖父様!」
「え?祖父様?」
その場で固まった。その2人に家康は、
「竹千代と竹二郎!父上と母上の元に案内せよ!」
「「は、はい!」」
自分を案内する様に命令する。そして、2人に案内されて大広間に到着した家康は
「三郎!徳!お主達、竹千代と竹二郎が走り回っているというのに、何をしておる!」
イチャついている2人を一括した。2人は、
「父上?何故こちらに?」
「先触れを出していただきましたら、歓待の準備も出来ましたのに」
家康に思わず聞き返した。しかし家康は、
「たわけ!戦から遠いとはいえ、この様にだらけておるなど、万が一にも一揆が起きたらどうするつもりじゃ!」
「返す言葉もありませぬ」
「まったく!武田との戦において、徳川家でも起きうる事態を見て来たから、気になって岡崎まで来てみたら別の意味で心配な状況ではないか!
石川!お主は三郎の傅役ではないか!何故、三郎がだらけているのに諌めぬ!」
家康は側に居た石川数正にも話を向ける
「申し訳ありませぬ」
石川はただただ頭を下げるのみだった。それを見た信康は
「父上。石川は悪くありませぬ。苦言は拙者が受けますので」
家康に面と向かって、そう言うと家康は
「ええい。とりあえず石川!瀬名を連れて参れ!伝えておきたい、いや、絶対に伝えないといけない事がある!早うせい!」
「は、ははっ!」
家康から命令された石川は急いで瀬名の元に行き、直ぐに連れて来た。
「殿。先触れを出していただきましたら、身綺麗にしましたのに。此度はどの様な事で岡崎に?」
「瀬名。此度、岡崎に来た事は先頃終わった武田との戦で経験した事を伝える為じゃ。三郎と徳!お主達は特に注意して聞くのじゃ!良いな?」
「「は、はい」」
「うむ。それでは話すぞ」
家康は穴山達が取った行動の全てを話す。すると、
「その様な事があったのですか」
「当主と血縁関係があるからと言えど、その様な行動を取るとは」
「しかし殿?その穴山とやらの行動は、竹千代や竹二郎が取ると思えないのですが?」
「瀬名。今は取らないじゃろう。だが、儂が死んだ後にその様な事が起きる可能性があるから言っておるのじゃ!それに、此度の穴山討伐において、
最も働いたのは、間違いなく三郎殿の四男の源三郎殿じゃ。その源三郎殿が、武田家の勝姫を正室に迎えて、来月に安土城で祝言を挙げる。それ自体はめでたい事じゃが、
その事を縁組の目線で考えてみよ。徳川家よりも、武田家との縁組が多いのじゃ。勘九郎殿の正室は信玄坊主の娘、源三郎殿の正室は四郎勝頼の娘、
三郎殿が当主のうちか、勘九郎殿に家督を譲った後か、微々たる違いはあれども、織田家が日の本から戦を無くす日は近い。その時に徳川家としては、
発言力を持っておきたい!此度の戦で信濃国を手に入れたが、これから武田家の当主となる虎次郎は今年で七歳じゃが、とても聡明じゃ。
間違いなく三郎殿は虎次郎に娘を嫁入りさせるじゃろう。更に言うならば、その虎次郎の傅役の者達は、
六三郎に自身の嫁取りを頼む程に信頼しておる。これは徳川家として由々しき事態じゃ!なのにも関わらず、
竹千代と竹二郎があの様に走り回っていては、徳川家の行く末が不安でしかない!三郎と徳!分かっておるのか?」
「その様な事を考えていたと分からず、申し訳ありませぬ」
「申し訳ありませぬ」
「これからはその様な事まで考えて竹千代と竹二郎の躾をせよ。それとじゃ三郎!お主にもそろそろ儂の名代としての経験を積ませたい!三郎殿との話し合い次第じゃが、
お主を総大将とした軍勢を織田家の戦に参加させるぞ!準備を怠るな!」
「ははっ!」
「とりあえず、儂はしばらく岡崎城にて過ごす!世話になるぞ」
家康の心配していた事とは少しばかり違ったが、それでも家康は信康達のだらけた空気を締める事が出来で満足そうだった