親族だらけのお見合いと鬼武蔵の無茶振り
うめちゃんに引っ張られて屋敷の中に入ると、親族の皆様が
「此度はうめを嫁にもらっていただき、ありがとうございます」
「生きているうちに、孫娘が嫁ぐ事になるとは」
「うめ姉様、おめでとうございます」
「柴田家に嫁ぐのであれば、三左衛門様も納得してくださるはずです」
等々、完全に俺にうめちゃんを嫁がせる気満々です。側室である事をうめちゃんが嫌がったら、どうするんだろ?
で、そんな事を考えてる俺や親族の皆様に、殿が
「皆!先ずは三左の位牌に手を合わせてからじゃ。勝蔵、案内せよ」
「ははっ!」
殿の一声で、全員で親父さんの位牌を置いている場所まで行き、手を合わせる。合わせながら殿が、
「三左、お主が死んだ年に産まれた、末の娘のうめの縁談じゃ。しかも相手は権六の倅じゃ!元服前は神童と呼ばれて、
元服後は鬼若子と呼ばれておる程の傑物じゃ!勝蔵もこの者ならばと進めておる!だから安心してくれ!」
位牌に話しかける。改めて、殿にとって三左さんは替えのきかない存在だったんだなと実感します
そんな少し、しんみりした時間も終わり、
「さて、六三郎よ!これからうめと見合いじゃが、うめは親族一同が揃っているが、お主は不在じゃから、
儂が代理の親父として、権六の代わりに見合いに参加しようではないか!」
殿が見合いの場に参加すると言って来た。いや、まあ、別にイヤではないんだけど、無茶振りされまくる展開が見えるんですが
これも仕方ないと諦めましょう。それでは、見合い会場の大広間へ移動しまして、殿の仕切りでスタートです
「さて、それでは儂から紹介しよう。この者は柴田六三郎長勝。儂の家臣の柴田越前守権六勝家の嫡男であり、儂の妹の市が権六と再婚した事により、義理の甥となった
勝蔵から聞いていると思うが、十二年前の戦で元服前にも関わらず、総大将として初陣を経験し、見事な軍略の才を示し、勝蔵達を使いこなし、
自らも危険な役割を受け持った結果、攻め込んで来た武田軍を撃退して以降、「柴田の神童」と呼ばれ、元服後は「柴田の鬼若子」と呼ばれる若武者になった、六三郎、この様な紹介で良いか?」
「はい。ありがとうございます」
「それでは殿。うめの紹介は拙者から」
うめちゃんの紹介は鬼武蔵さんがやる様だ。まあ、家長だし、父代りだからね
「妹のうめは、亡き父上の側室が母君であるが、その様な事は関係なく、儂にとっては大事な家族じゃ。しかし、見ての通り、周りの一般的な女子と比べて身の丈が高く、
力も強くて、歳頃ながら嫁の貰い手が見つからないものでな。しかし六三郎の周りは家臣の赤備えの者達は身の丈も高い。そして、柴田家では女子は立場の上下に関わらず武芸の腕を磨いておると聞いている
その様な環境ならば、うめが悪目立ちしないと思って六三郎に貰ってもらう様に頼んでいたのじゃ。見た目も悪くないと思っておる
六三郎!うめは、一通りの教養は嗜んでおる。それに、まだまだ若い!子供も多く産めるはずじゃ!だから、側室でも良いから貰ってくれ!」
鬼武蔵さんが紹介し終えたと思ったら、平伏して頼み込んできました。そこまでしないと嫁の貰い手が見つからないって、未来だと地雷女扱いじゃないか
しかも、この時代で15歳って事は、実際は14歳だろ?20歳前で人生終わりかけみたいな扱いされるとか、
改めて、この時代は色々な事が厳しいな。ただ、俺は側室で良いなら歓迎するけど、うめちゃんの気持ちはどうなのか?が問題だから確認しないと
「森様。お気持ちは分かりました。ですが、うめ殿が正室でないなら断ると仰るのであれば」
俺がそこまで言うと、
「柴田様!」
うめちゃんが間に入って来た
「私は、女子にしては身の丈も高く、力も強いです!一部の者からは「森家の鬼姫」や「美濃の巴御前」と呼ばれております!
その様な女子が正室など、高望みである事は分かった上で、側室にしていただきたいのです!お願いします」
うめちゃんも平伏して頼み込んで来ました。これは断れないなあ。茶々と初より年下で、見た目は美少女だけど、我の強さも控えめみたいだし、本人が側室でも良いと言ってるし
「分かりました。うめ殿。拙者の側室になってくだされ」
「ありがとうございます」
「良かった!うめが無事嫁ぐ事が出来た。これで父上にも顔向け出来る」
「うむ!良きかな良きかな!うめ!六三郎は少しばかり、いや、かなり常識外れな行動を取る事が多いから驚く事も多いと思うが、慣れていくはずじゃ!六三郎にしっかりとついていけ!」
「はい」
「うむ!市に送る文に書いておく事が増えたが、慶事なのじゃから増えても構わぬ!勝蔵!うめの荷物をまとめておけ!いつでも越前国に行ける様にな!」
「ははっ!うめの荷物の準備をしておきます。そして、六三郎!うめをもらってくれた事、誠に感謝する!その上で、ひとつ頼みたい事がある」
「何でしょうか?」
「儂の一番下の弟の仙六郎を六三郎の屋敷で鍛えてくれぬか?」
「兄上!何故ですか!?」
当人の仙六郎が騒ぎ出す。おいおい、ここで兄弟喧嘩は辞めてほしいのだが?
「良いか仙六郎!お主は、元服して間もないから分からぬかもしれぬが、父上も儂も、戦では常に先陣を心掛けておる!だからこそ、討死する可能性が高い!
万が一、お主以外の、儂を含めた兄弟達が討死した場合、血筋を繋げられる男がお主だけになるのじゃから、お主だけは戦場から遠い場所で将来の為に、
理財を学べ!六三郎の周りは、理財を教える事の出来る者が多くいると同時に、忍耐力をつけさせてくれる者も居る!六三郎、利兵衛殿はまだ生きておるか?」
ああ、そう言う事か
「ええ、まだまだ隠居などする可能性は皆無な程、元気ですし、元服前の子供に理財を教えたりしております」
「ありがたい!仙六郎!お主もうめと共に越前国へ行き、色々と鍛えられて来い!これは、当主としての命令じゃ!六三郎、良いか?」
「ええ。利兵衛が更にやる気を出しそうな血気にはやる若武者の様ですな」
「ええ!柴田様?拙者は拒否出来ないのですか?」
「はっはっは!仙六郎殿、諦めよ!兄君は、万が一の事を思って、仙六郎殿に当主に必要な事を学んで来いと言っておる!覚悟を決めよ!」
「分かり、ました」
こうして、うめちゃんが俺の側室になると同時に、史実の名君であり暴君でもある森忠政になる前の仙六郎が、越前国に来る事が決まりました。大野兄弟みたいなやんちゃ坊主な感じなんだろうな




