鬼武蔵の妹は兄以上の鬼らしい
天正十二年(1584年)五月二十三日
美濃国 岐阜城
場面は信包の元に文が届く数日前の美濃国、岐阜城。人数も多い為、ゆっくりとした移動の信長達が到着してから
「よし!岐阜城では休息と物資の確認の為、三日は留まる予定を取る!しっかりと休息を取りつつ、役目に励む様に!」
「「「「ははっ!」」」」
皆さんおはようございます。中間地点の岐阜城に到着して、しばらく休める事に安堵しております、柴田六三郎です。
いやあ、戦も無ければ内政の仕事も無いなんて、何年ぶりだろうか?と思うくらい、久しぶりです。
俺がそんな事を思っていると、殿と家康で話し合っていました。その内容は
「二郎三郎!甲斐国の平定後の土地改善は、まだまだ先と、勝手に決めて済まぬ」
「いやいや、三郎殿。信濃国を手にして、しばらくは戦も、労役も無いのですから、そんな謝らずとも」
「そう言ってくれて、気が楽じゃ。儂としては二郎三郎にも源三郎と勝姫の祝言に参加して欲しい。それでじゃが、これからどうする?共に安土城に向かうか?」
「いえ、一度、岡崎城に向かいます。倅と徳と瀬名が孫達を甘やかしてないかを見ておきたいので」
「そうか。やはり、穴山を見た後だと不安になるか?」
「ええ。今のところ、後を継ぐのは三郎で、三郎の次は竹千代と決まっておりますので家督争いの心配は無いのですが、穴山を見た後だと、我儘な愚か者に育っておらぬか心配で」
「まあ、そこは儂も一緒じゃ。勘九郎か三法師を甘やかさない様に釘を刺す。穴山の事を聞いて、実際に見た後だと、たとえ主君に近い身内といえど、
育て方を間違えたら、家を滅ぼす愚か者になってしまう。此度の穴山の件は、信玄坊主も草葉の陰で泣いているに違いない。儂達はそうならない様に、共に気をつけていこう」
「そうですな。孫は可愛くとも、躾を甘くしたら、穴山になってしまうと胸に刻んでおきましょう。それでは三郎殿。文月になる前には安土城に到着しますので、そろそろ」
「うむ。此度の働き、誠に感謝する!」
こうして家康一行は岡崎城へ向かった。
話していたのは「穴山を見たから、孫があんな風にならない様に、お互い気をつけよう」と言う内容でした。俺も子供が産まれたら、親父の事だ。間違いなく厳しく躾けるんだろうな
でも、親族だけの時は、デレデレの甘々になりそうでもあるな。あの厳つい顔を見て泣かれるのも想像出来る。それを言ったら、親父そっくりになって来た俺もなんだけどね
まあ、未来の話は置いておこう。それじゃあ、俺もそろそろ立之助と一緒に物資の確認といきますか
と、思っていたら
「六三郎!」
鬼武蔵さんに呼ばれました!殿も含めて皆さんが注目しているので、大声はやめてほしいのですが?
「森様?如何なさいましたか?」
「六三郎よ、儂の妹のうめの件を忘れておらぬな?」
「ええ。覚えておりますが」
「物資の確認を終えたら、直ぐにうめと見合いを行なうぞ!だから手伝いに来た!」
おい脳筋!3日は岐阜城に居るんだから、1日くらい何も無い日を送らせてくれよ!言っても聞かない人だと分かっているし、仕方ない
「分かりました。それでは、始めましょう」
「任せよ!」
で、俺と立之助と赤備えの中で理財も出来る面々と鬼武蔵さん、正確には鬼武蔵さんの家臣の一部が手伝ってくれまして、午前中に終わりました
疲れたので、飯でも食おうと思ったら、
「終わったな?それでは六三郎よ!うめの元に行くぞ!そして、先に言っておくが、妹のうめは一部の者から鬼娘扱いされている可哀想な妹でな。
そんな妹でも六三郎ならば、側室として貰ってくれると期待しておるぞ?」
雑な説明と共に、有無を言わさず連れて行かれました。後ろから赤備えの皆も追ってくるのが見える。そして着いた場所は、岐阜城の近くにある森家の屋敷なんですが、越前国の俺の実家が小さく感じる程デカい!
これは、親父さんが頑張った証なんだろうな。まあ、他所と比べても仕方ない。親父は今現在頑張っている!けど、流石に還暦超えてるし、そろそろ隠居させる事も考えないといけないよなあ
「六三郎!そろそろ入ろう!うめや皆が待っておる!お主が呆けている間に、殿達も到着したぞ!」
鬼武蔵さんがそう言うので、振り返ると、
「勝蔵と六三郎!この様な面白、ではなく重要な事を行なうのであれば、儂も呼ばぬか!」
殿?今、面白い事と言いかけましたよね?鬼武蔵さんの親父さんが、殿の右腕の様な立場だったとはいえ、
そこまで気にかけているなんて、森家は織田家に仕えて長い家なんですね
俺がそんな事を考えていると、
ドンッ!
と、正面出入口から重い音がした。そこには綺麗な着物を着た女性が立っていたが、開口一番
「兄上!!私を嫁に貰ってくださる殿方を、岐阜城に着いた日に連れて来ると言っていたのに、何を外で突っ立っているのですか?まさか殿方に逃げられたのですか?」
「う、うめ。ちゃんと連れて来たから、先ずは、そんな荒々しい口調はやめよう。な?」
「兄上が約束を守ってくださるのであれば」
そこまで言うと、
「殿!騒がしくして申し訳ありませぬ。もしや、此度の私の見合い相手は、殿のご紹介なのですか?」
「はっはっは!うめよ!誠に、お主は勝蔵以上に父の三左の様じゃな!お主が男であったなら、勝蔵との家督争いで森家が割れていたじゃろうな!」
「殿!私の様な女子を捕まえて、「父の様な」は私が女らしさの欠片も無いみたいではありませぬか!」
「ああ、済まぬ。それでじゃが、うめよ!お主の見合い相手は、勝蔵の横に居る男じゃ」
殿が俺を指差すと、うめさんは
「あら。こちらの殿方のお顔、何処かで見た様な」
俺の顔を見て、見た気がすると言って来た。多分、親父を見た事あるんだろうな
「うめ。見た事があって当然じゃ。この者の父君は、柴田様じゃ」
「あの柴田様の?では、あなた様は「柴田の鬼若子」と呼ばれております柴田六三郎様ですか?」
「ええ。何故か周りからそう呼ばれております」
「やはり!兄上、素晴らしい見合いをありがとうございます!皆に早く六三郎様を見せたいですし、縁談をまとめたいので、殿も屋敷の中へお入りください!」
「そうじゃな!勝蔵、見合いはあっさりと決まりそうじゃな」
「そうなってくれたら、拙者も気が楽です」
ちょっと2人共、なんで薄ら笑いなんですか?しかも、甲斐国で妹さんは15歳と聞いていたのに、既に身長がお袋くらいあるんだが?もしや、年齢サバ読んでる?
鬼武蔵の妹は、口調の強さとかが鬼と言う事だったのか?それとも高身長だから鬼女扱いされているとか?いや、重そうな正面出入口を開けたことも含めてそう呼ばれているんだろうな
そんな事を考えながら、俺の2回目のお見合いがスタートした。