帰り道にてある意味で攻撃される
天正十二年(1584年)四月十一日
甲斐国 躑躅ヶ崎館
「それでは典厩!留守居役を頼むぞ!五郎と虎次郎は、六三郎の祝言が終わったら、共に甲斐国に戻す!」
「ははっ!お待ちしております!」
「うむ。それでは出立する。先ず、明智十兵衛の領地に行き、武功を挙げた事を母や祖母に報告してやろう!」
「「「ははっ!」」」
皆さんおはようございます。甲斐国から近江国を目指して出立する面々の中に居ます柴田六三郎です
近江国へ行く予定ですが、殿は十兵衛殿の屋敷に一旦立ち寄って、十兵衛殿の家族に「あなた達の息子はこれだけ頑張りましたよ!」と伝えたいらしい
遠かったら文を書いて送るけど、近いから口で伝えたい!とか、前世で学んだ「寡黙で短気で残酷」な織田信長像は嘘だったんだと納得しております
そんな事を考えながら進んでいると、
「六三郎。六三郎」と小声で呼ばれたので、振り向くと、
「六三郎!いきなり済まぬな」
鬼武蔵さんでした。正室を諦めてないとかやめてくださいね
「森様。何かありましたか?」
「いやな、六三郎の嫁の事じゃが。殿が決めたのじゃから、妹を正室に推挙する事は諦める!だが、側室の一人にしてくれぬか?」
「あの、森様?拙者の側室に推挙するよりも、付き合いの長い玄蕃の兄上の正室に推挙したらどうでしょうか?」
「一度、妹にその話をしたが拒否された」
「それは何故ですか?」
「玄蕃が儂と同じく、先陣を切る武士だからじゃ。妹のうめ曰く、「いくら武功を挙げる事が目的とはいえ、亡き父上、そして兄上の様に、先陣で戦う事を是としている武士の正室は、
若くして未亡人になる可能性が高いから嫌です!私は戦で武功は少なくとも、夫となるお方には、生きて帰って来て欲しいのです!」
と言っているのじゃ。武田征伐を成し遂げた今、毛利家の治める中国地方は、山陽を佐久間様、山陰を羽柴様が攻めておるから、臣従も時間の問題じゃろう
関東の北条は、此度の武田征伐を見て、戦って臣従か、戦わずして臣従か?を話し合っているじゃろうから後回しでも良いはず。と、殿が仰っていた
四国と九州は、これから色々と決めるはずじゃから、分からん!話かそれたが六三郎よ、殿はおそらく岐阜城に一度寄るはずじゃ!そこで妹のうめと一度会ってくれ」
「分かりました。とりあえず、一度は会いましょう」
「済まぬ!」
鬼武蔵さんは俺の返事を聞くと、自分の軍勢に戻って行った。森長可の妹さんか、会うくらいなら良いけど、プライドの高いお姫様だったら嫌だなあ
まあ、会ったとしても、俺の顔を見て、「やっぱり嫌です!」と言うかもしれないし、その時はその時だな
天正十二年(1584年)五月五日
美濃国 明智家屋敷
「十兵衛の祖母殿、母殿。此度の十兵衛の働き、見事であった事、伝えに参った!感状も渡しておく!父である日向守が帰って来たら、儂からと伝えてくれ」
信長は十兵衛の働きを母の凞子と祖母の深芳に伝えている
「「内府様!ありがとうございます!」」
二人が信長に平伏して、礼を述べていると、
「うむ。頭を上げよ。それと、日向守が娘を柴田六三郎の正室に推挙している件についてじゃが、儂の正室、帰蝶の血縁者である斎藤家の姫を正室にすると決めた
色々と頑張っていたところ、済まぬ。もしも、何処かしらの家の嫡男や二男あたりの正室を望むなら、儂からも」
信長がそこまで言うと、
「内府様。よろしいでしょうか?」
凞子が信長に質問する
「良いぞ。言ってみよ」
信長が許可すると、凞子は
「六三郎殿の正室は諦めますが、側室の座が空いているのであれば、花江を側室にしていただきたいのですが」
「それは日向守は分かっているのか?」
「いえ!私の一存です!ですが、六三郎殿から長浜城で「働かない女子を嫁にするつもりはない!」と言われる前から、屋敷の掃除をしたり、夫や家臣の手解きを受けて、理財を学んだりしておりましたが、
年齢も今年で二十二歳になります。その様な若くなく、教養を深めるよりも、内政が得意な女子は、
嫁の貰い手を今から見つける事は不可能です!なので、六三郎殿の側室にしていただきたく!内府様から推挙していただけませぬか?」
花江を側室でも良いから、六三郎に嫁がせてくれ。今更、他の男の嫁には無理だから!と頼み込んで来た。
凞子の頼みに信長は、
「分かった。六三郎に話は通すが、儂としては、当人同士が納得しない婚姻はやらせたくない!拒否された場合は、諦めてくれ!」
そう答えるに留めた
「はい!これで花江が嫁ぐ事が出来たら、娘達全員嫁げた事になりますので、どうか!」
「私からもお願いします」
信長の答えに母の凞子だけでなく、祖母の深芳まで頭を下げて、懇願した。そんな状況になっている事を知らない六三郎だったが、
訓練用の坂道で十兵衛から
「六三郎殿!嫁取りおめでとうございます」
「ありがとうございます。しかし、花江殿には」
「その事ですが、六三郎殿!花江姉上を側室でも良いのでもらっていただきたい!」
「え?いやいや、明智日向守様の姫君を側室は失礼にあたると思うのですが?」
「きっと大丈夫です!父上は、六三郎殿の正室の座が空いているから姉上を推挙しただけのはずです!それに、今年で二十二歳の姉上の婿になって下さる相手が、
今から見つかると思いますか?はっきり言いまして、かなり!難しいので、ならば六三郎殿の側室でも良いから幸せな暮らしを送れる様になって欲しいのです!」
(もう何で次は側室への推挙が連続で来るんだよ!しかも、花江さんに関しては年齢を盾に「もう相手が見つからないから貰ってくれ」と言うし!仕方ない、花江さん次第と言っておこう!)
「十兵衛殿。側室でも拙者は構いませぬが、花江殿が「正室でないのであれは拒否する」と言ったら諦めてくだされ。良いですな?」
「そんな事は無いですから!では、今日の夜にでも姉上と話し合いましょう!」
こうして、六三郎は明智家の家族総出の作戦にハマっていった




