主君の到着と武田の未来
4月で300話に到達させて、書き続けたら400話に到達しました
天正十二年(1584年)四月十日
甲斐国 恵林寺
「快川紹喜殿!武田家の者ではない儂の無理難題を聞いていただき、忝い!」
「いえいえ。六三郎殿の主君である織田様が、穴山達を討ち取りながらも、遺体を信濃国に捨ておかずに、恵林寺に運んでくださるのですから、これを拒否する事は、仏の道に反してしまいます」
「そう言ってくれて助かる!そうじゃ、紹介しておこう、四郎殿の嫡男の虎次郎じゃ。虎次郎、挨拶を」
「はい!武田虎次郎と申します!」
「子供らしい、元気溌剌とした挨拶ですな。虎次郎様、これからの武田家と甲斐国をお願いしますぞ」
「はい!」
「うむ。良い返事じゃ!話は変わるが、快川紹喜殿。竜芳殿に挨拶をしたい。五郎と典厩と虎次郎を連れて行きたいのじゃが、案内してくれぬか?」
「ええ。拙僧が案内しましょう」
皆さんおはようございます。甲斐国に殿一行が来た事で、穴山討伐が達成された事を実感しております柴田六三郎です。殿一行が恵林寺に来た時は、俺達を回収してから、
躑躅ヶ崎館へ向かうと思っていたのですが、まさかの穴山達を供養してくれとの依頼でした。その依頼を終えて、今度は竜芳さんの元に行くそうです
今日か明日には躑躅ヶ崎館に行けるよね?
六三郎が早く躑躅ヶ崎館へ行きたいと思っている中、信長は盛信と信豊と虎次郎を連れて、快川紹喜の案内で入明寺へ入った。そして本堂に向かうと
「紹喜様。甲冑の音が聞こえましたが、柴田殿一行を連れて来たのですか?」
本堂の中央に居た竜芳が質問して来たが、
「竜芳殿!柴田六三郎の主君の織田内府じゃ!此度は、竜芳殿の元へ朗報と身内を連れて来たぞ!」
快川紹喜の代わりに信長が答える。そして、
「二郎兄上!お久しぶりです!五郎です!」
「二郎殿、典厩じゃ。久しぶりじゃな」
盛信と信豊は涙を流しながら、竜芳の側に行き、再会を喜んだ。その様子を見ていた虎次郎に信長は
「虎次郎よ。五郎と典厩が涙を流して再会を喜んでいる、あの僧侶の者はな、典厩の従兄弟であり、五郎の兄にあたる。
つまり、虎次郎の父の四郎殿の兄でもあるのじゃ。だから虎次郎よ。伯父上に挨拶してまいれ」
「はい!」
返事をした虎次郎は竜芳の前に行き、
「初めまして伯父上、武田虎次郎と申します!」
元気に挨拶した。すると竜芳は
「典厩殿、五郎。今の幼子の声。もしや」
「ええ。お館様の嫡男です」
「四郎兄上が、命懸けで守り抜いた、武田家の後継者です」
2人に質問した。そして、
「虎次郎殿。今年で何歳になったのじゃ?」
「七歳になりました!」
「そうか。今までは織田様の元で養育されていたそうじゃが、これからは、五郎と典厩殿の言う事をしっかり聞いて、ちゃんと食べて、立派な当主になるのじゃぞ?」
「はい!二郎伯父上!」
「うむ。良い返事じゃ。話は変わりますが、織田様。少しばかり、お頼みしたい事があります。先ずは内容を聞いていただきたく」
「竜芳殿。それは虎次郎に聞かせて良いのか?」
「ええ。むしろ、虎次郎殿のこれから。ですから」
「分かった。竜芳殿の前に行こう」
そう言うと信長は竜芳の真正面に座る
「竜芳殿。どの様な事じゃ?」
「織田様。五郎や典厩殿から、話を聞いていると思いますが、拙僧は半俗の身で、男児を一人、女児を一人もうけております。男児は今年で十一歳になり、名を竜二郎と言います
まだ元服前なので、師である紹喜様から色々と教えてもらっています。親の欲目もありますが、織田様が天下を統一して、戦無き世を作ってから、武田家の為に必要な武士にしていただく為に、
柴田殿の元で学ばせていただきたいのですが、お頼み出来ますでしょうか?」
「ほう。竜芳殿、お主は出家したのに、倅には武士として生きて欲しいのか?」
「拙僧も、目が見えていたなら武士として生きたかったのですが、それは無理な話です。なので、その夢を子に託すと同時に、
此度の穴山の謀反は、四郎の周りに腹を割って話せる身内が居ないから、起きたのだと思っております。なので、竜二郎が虎次郎殿にとって、そうなってくれたらと」
「ふっふっふ。竜芳殿。流石、信玄公の子じゃな。勘九郎の嫁の松もそうじゃが、親譲りの見事な謀略の才と、内政の才、いずれかを持っておるな」
「有り難いお言葉ですが、拙僧は盲目の僧ですので。改めてですが、竜二郎の件、お願いします」
「うむ!任せよ!好都合な事に六三郎は、数年は甲斐国に居る予定じゃ!その期間に色々と学ばせたら良い!」
「武田家を見張る役目ですか?」
「いや!泥かぶれという奇病を含めた、土地改善の役目じゃ!」
「「内府様!今のお話、誠ですか?」」
「何じゃ、五郎と典厩には話してなかったか?まあ良い。六三郎の家臣の赤備えの者達から、甲斐国では泥かぶれと呼ばれる奇病があると聞いておるからな、
対処方法が分からない以上、田畑を埋め立てる事も含めて、色々やらせる!一年や二年では、どうにもならないと思うからこそ、六三郎達を甲斐国に残すのじゃ!
皆も、虎次郎の元服の年に、甲斐国の民が多く居て、税収も多い方が良かろう。六三郎の事じゃ、気づいたら、想定以上の成果を出しておるかもしれぬ
なあに、死なない程度に働かせて休ませてを繰り返したら良い。六三郎の事じゃ、いつの間にか領民も共に働いているかもしれぬぞ」
「「「過分なご配慮、誠にありがとうございます」」」
信長の説明に、信豊、盛信、竜芳の3人は平伏して、感謝の言葉を述べていた。そして、信長の説明を知らない六三郎は、甲斐国でこれまで以上の仕事が待っている事を当然知らない
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