慶事の予定と俺の予約と朗報
天正十二年(1584年)三月二十六日
信濃国 高遠城
「皆も既に知っていると思うが、昨日儂の四男の源三郎と武田家の勝姫の婚姻が決まった!本来ならば、今すぐにでも祝言を挙げさせてやりたい所だが、
武田家当主名代の五郎、そして武田家の長老の典厩と話し合った結果、穴山討伐を終えた後に祝言を挙げる事になった!祝う気持ちや、酒を飲みたい気持ちは、一旦忘れて、穴山討伐を最優先にせよ!」
「「「「ははっ!」」」」
皆さんおはようございます。前日に、かなりの力技で源三郎様と勝姫様をくっつけたので、疲れております柴田六三郎です。
現在、目の前で殿が「息子夫婦の結婚式は穴山討伐をやった後だ!それまで浮かれるなよ!」と皆さんに伝えております。
穴山達と降伏勧告交渉をしたのが6日前だったので、そろそろ移動しているはず。と予想しているのですが、事前連絡の文すら送って来ないのは、
自分達を高く売りたいからタイミングを計っているのか?と疑っています。現状、特に急いでやる事も無いので、城の敷地内を見て回ろうと思っていたら、
「「六三郎殿」」
後ろから2人分の声が聞こえて来たので、振り向くと
「少しばかりよろしいかな?」
「六三郎殿のお父上の事も含めて、聞きたい事があるのじゃが」
現在の武田家中のまとめ役の五郎さんと典厩さんが俺と話をしたいとの事です
「拙者は構いませぬが、殿へ」
「内府様には事前に許可を得ておる。だから儂の部屋で色々教えていただきたい」
殿からの許可無しではダメだと断ろうとしたら、既に許可を得ていたそうです。やっぱり重要な城を任される人は、仕事が早い。まあ、「親父の事を含めて」と
言っていたので、何となく話す内容は想像出来るので、行ってみましょう
「それならば」
と、五郎さんの部屋へ行くと、
「「先ずは六三郎殿。勝姫と源三郎様の婚姻を成立させた事、武田家を代表して感謝いたす」」
2人が俺に頭を下げて来ました。やめてもらわないと
「お2人共、頭をお上げくださいませ」
で、上げてもらってからが本番です
「忝い。それでは本題に入るのじゃが、六三郎殿。六三郎殿のお父上は、「鬼柴田」と呼ばれておる、柴田殿で間違いないのじゃな?」
「ええ。そうですが」
「その柴田殿は還暦を過ぎておるというのは誠なのか?」
「はい」
「六三郎殿。内府様から聞いたのじゃが、お父上の現在の奥方殿は内府様の妹君で、子連れ同士の再婚だったそうじゃな?」
「はい。拙者が殿にお頼みした、父上の嫁にしていただきたい女子の条件に母上が合致したから再婚が決まりました」
「そのお二人が、再婚後に二人も子をもうけたと内府様より聞いた。しかも一番下の子は奥方殿が三十歳を超えてから産んだ子だとも。
それだけではない、内府様の家臣で夫婦になって二十年以上、子を持つ事が叶わなかった者にも子を抱かせる事を成し得た六三郎殿に何とかしてもらいたい事がある!」
「どの様な事でしょうか?」
「五郎の正室に相応しい女子を見つけて欲しい!それこそ、嫡男を五郎に抱かせてやりたい!男児を間違いなく産める女子が居るならば、是非とも五郎に会わせてくれぬか?」
「六三郎殿!拙者は現在、四人の子が居ますが、娘しか居ませぬ!そして、側室は居ない。正室は数年前に病に倒れて逝ってしまった。あの頃は、武田家がこの様な状況になると思っていなかったから、後回しにしていたが、
これからの武田家の事を考えると、儂も子を持ち、育てて行かないと虎次郎様を支える者達、それこそ虎次郎様と歳の近い者達が居なくなってしまう!なので、どうか六三郎殿!」
「儂からもお頼み申す!」
盛信と信豊は揃って六三郎に頭を下げて懇願した
そんな状況に六三郎は
(いやいやいや!そんなん殿に頼んでくれよ!武田家が臣従したのなら、殿の裁量でどうとでも出来るでしょ!いや、待て!確か2人共、殿に許可を得てから来たと言っていたな。2人に確認しよう)
「仁科様、典厩様。確認したいのですが、拙者に現在話している内容を殿は知っているのですか?」
「はい。事前に全て話しております」
「内府様曰く、「六三郎を働かせたら、想定以上の結果を出すはずだから、頼んでみろ!」と」
(やっぱり殿の悪ノリじゃねーか!俺は家臣の倅で何の立場も無い人間なのに!何でこんな事まで俺にやらせるなー!)俺は妊活お助けマンでも見合い斡旋ジジイでもないんだぞ!)
内心で叫んだおかげで、少し、少しだけ冷静になれました。改めて考えますと、確かに虎次郎くんと歳の近い子供が居ないと、「幼馴染でもある家臣」という腹を割って話せる人が居ない事になるか、
それは良くないな。そんな事になったら家中で孤立してしまう。これは、五郎さんも典厩さんも大家族を作ってもらおう!
「仁科様、典厩様。確実に出来るとは言えませぬが、出来るかぎりの事はやりましょう!ただし、穴山達を討伐してからになります!よろしいですか?」
「「勿論!」」
「忝い。では、穴山達が来るのを」
俺がそこまで言うと、
「五郎殿!典厩殿!」
源三郎様が走って来ました。かなり急いでいる様ですが、何事でしょうか?
「「源三郎様、こちらに居ます。六三郎殿も一緒です」」
と声かけをしまして、源三郎様が来ました。源三郎様は
「お二人共!父上から教えていただいたのですが、穴山から近いうちに到着するとの文が届いたそうです!」
「「誠でござるか?」」
「典厩殿!遂に!」
「五郎殿!間もなく!間もなくじゃ!」
五郎さんと典厩さんには待ち望んだ朗報を、俺には仕事が早まるお知らせを伝えてくれました。五郎さんの正室候補、どうしようか?