人の恋愛事すら仕事の主人公
天正十二年(1584年)三月二十五日
信濃国 高遠城
「父上!勘九郎兄上!三七兄上!無事、戻ってまいりましたぞ!」
皆さんこんにちは。穴山達への降伏勧告の交渉で甲斐国へ行っておりましたが、無事に信濃国へ戻る事が出来ました柴田六三郎です
殿が俺以外の主だった面々に役目を与えた結果、俺だけがドッキリに引っかかった様な仕事量になったのですが、無事に生きて戻れたので良しとしましょう
で、そんな交渉団の代表の源三郎様ですが、無事に大役を成し遂げた顔をしております。そんな源三郎様に兄貴の2人はと言うと、
「源三郎!よくぞ大役を成し遂げた!兄として嬉しいかぎりじゃ!」
「源三郎!儂も勘九郎兄上と同じく、兄として嬉しいかぎりじゃ!一回り大きくなれる経験をした様じゃな!」
とても、喜んでおります。そんな中でも殿は、
「五郎八!左近!勝蔵!そして六三郎!源三郎は穴山達に一歩も怯まずに対応しておったか?」
厳しい顔と口調で当時の様子を聞いてきます。まあ、穴山達は何か隠していたのか、下手に出ていたから源三郎様は堂々としていたか。俺が答えようとしたら、先に3人が、
「はい!穴山達に一歩も怯まずに対応しておりました!」
「源三郎様は、勝蔵殿と六三郎殿を信頼して落ち着いた様子で対応しておりました」
「殿。源三郎様は穴山達に「早いうちに決断しろ!」と、立派なお姿でした」
答えていたので、俺が大ラスになってしまいました
「はい。殿が書いた文の効果も相まって、穴山達は恐れておりました」
「そうか。それで源三郎よ!交渉の場に武田四郎殿は居たか?」
「いえ!穴山達は武田四郎殿を「病身で寝込んでいる」と誤魔化しておりました」
「やはりか。桜殿、勝姫。済まぬが四郎殿は既に」
殿が暗い顔で2人に話を振る。2人は、
「織田様。前月の時点で四郎様は殺されていると、この場に居る武田の人間全員が分かっておりました。
だからこそ、穴山達が四郎様の首を持って来ると、織田様が仰っていた事が現実になる事を祈るのみです」
「織田様!私も母上と同じく!父上の首を見るまでは、一日でも早く穴山達が来る事を祈るのみです!」
うん。お袋の秀吉嫌いと似た様な、怨念に近い強さを感じる。やっぱり武家の女は強いな。俺はそう思っていたら、殿は納得したのか
「うむ!あとは、穴山達が四郎殿の首を持って来る事を待つのみ!来月の中頃まで、それこそ今月の終わりには来ると思うが、
その時まで、武田家の者達は耐えるしかないが、本懐を果たすまで耐えてくれ!」
「「「「ははっ!」」」」
「うむ!交渉に行っていた者達は戻って良いぞ!ただし六三郎!お主は残れ!」
「ははっ!(え〜?俺、何かやったか?料理人の皆さんに料理を教えたけど、作り方を書いた手順書は渡したし、何だろ?)」
信長が六三郎以外を解散させて、大広間は六三郎以外、立場が上の人達だらけになった。そして、信長から残された理由を発表される
「さて、六三郎よ!お主だけを残した理由じゃが、お主と源三郎は約三年ほど共に役目にあたってきたが、その間、源三郎から女子の話は出たか?」
「いえ。全くです。(殿?女子の話とは?あれか?若者らしく「女は巨乳じゃなきゃ」とか、「女は尻が上がっている方が好き」みたいな与太話をしていたかどうかという事ですか?)」
六三郎の答えを聞いた信長は
「だ、そうじゃ勝姫と桜殿」
2人の方を向いた。2人の顔は安心した様だった。それを見た六三郎は
(あっれ〜?この展開、三七様と菫の時と同じ様な感じなんですが?)
既視感を感じていた。その六三郎に信長は、
「六三郎!ここまでの流れ、賢いお主なら分かるであろう!勝姫は源三郎に惚れておる!しかし、現在の状況では、家名を残す為に儂の子に媚を売っている様になってしまう!
そして、儂としても、お互いを想っておらぬ男女に夫婦になれとは出来るかぎり言いたくない!だからこそ六三郎よ!お主、それとなく源三郎に聞いて来い!
「嫁にしたい女子は居るのか?」等、やり方は任せる!二郎三郎の嫡男の婿殿や徳の家臣と侍女の嫁取りと婿取りを成功させたお主なら出来ると期待しておるぞ!」
と、命令し、現在の武田家当主名代の盛信も、
「六三郎殿!妹の松が勘九郎様の正室として幸せな日々を過ごしていると聞いて、勝姫にも幸せな日々を過ごして欲しいのじゃ!四郎兄上の名代として頼みたい!聞いてくれぬか?」
(ええ〜?そんなん、本人達にやらせたらいいと思うのですが!?せっかく、休めると想ったのに!また仕事がよ!仕方ないけど、やるしかないか!)
「ははっ!」
こうして、六三郎は表向きは勝姫と源三郎をくっつける事、裏向きの目的は織田家と武田家の婚姻縁組による関係強化である事を知らないまま、
信房が勝姫に対してどの様な感情を抱いているか等の恋愛事の仕事に取り掛かる事になった。




