改善案で更に進軍したら
天正十二年(1584年)三月十日
甲斐国 某所
「六三郎殿!武田の本拠地だというのに、大した抵抗も無かったですな。やはり、軍勢が少ないのでしょうか?」
皆さんこんばんは。織田源三郎様から「武田の本拠地の甲斐国に入ったけど、抵抗少ないのは何故?」と質問されております柴田六三郎です。いや、俺も戦経験少ないので大した事を言えないのですが?
でも、武田軍の総数は分からないけど、信濃国にそこそこ戦力を割いていた気がするからなあ。だとすると、武田軍の総勢は2万以下の可能性もあるか
甲斐国と信濃国と駿河国の一部とその他諸々の領地を持っているから、そこを守る為に戦力を割いた可能性もあるから、源三郎様にはこう言っておくか
「源三郎様。もしかしたら「あえて」人を少なく見せている可能性もあります。なので、油断は禁物です」
「ふむ。六三郎殿は武田が罠を仕掛けていると考えているか。紀之介殿はどうじゃ?
此度の戦で、初めてまともな戦になったが、武田の軍勢の少なさについて、何か考えはありますかな?」
「拙者としては、やはり六三郎殿と同じく武田は「あえて」少なく見せているのかと。もしかしたら、くらいの考えですが、同盟相手の家と共に重要な地点に居る可能性もあるかと」
「成程。だから、ここら辺では大した抵抗も無かったと。そして、調子にのって重要な地点に進軍して来た我々を叩きのめす算段の可能性があると。ならば、
少しずつ進軍して、完全征圧していく方針で行きましょうぞ!」
「「ははっ!」」
とりあえず源三郎様が無理な進軍を決断しなくて助かりました。でも、殿が高遠城を少しだけ壊すアイディアに手を加えて
「甲斐国も少しばかり攻撃して来い!」なんて言った時は、「俺や赤備えの皆に負担倍増確定じゃないか!」と思っていたのですが、
この人が居てくれたおかげで、少し気が楽です。その人とは
「六三郎!十二年前と比べて見違える程に逞しくなり、そして、恐ろしい策を考えておるのう!」
鬼武蔵こと、脳筋、じゃない、森勝蔵長可です。鬼武蔵さんは俺と源三郎様と紀之介殿の側に居る兄貴分的な立場で、俺達の後ろに金森様と滝川様が軍勢を率いて控えているんですが、
時々、俺の側に来るんです。その理由が、
「それでじゃが六三郎!儂の妹を正室に迎えぬか?兄の欲目を差し引いても、見目麗しく器量良しだと思うぞ!今年で十五歳じゃから月の物も来ておる!」
「勝蔵!六三郎殿の正室に身内を推挙したいのはお主だけではないぞ!六三郎殿、儂の娘は今年で十六歳じゃが、これから女っぷりが上がっていくぞ!正室にどうじゃ?」
と、鬼武蔵さんの次に金森五郎八長近さんが、俺に娘さんを推薦したら、
「勝蔵も五郎八殿も!儂も六三郎殿の正室に娘を推挙させていただきたい!六三郎殿、儂の娘は六三郎殿と同じ二十歳じゃが、
六三郎殿が領地でやっておる内政の助けも出来る様に、理財も教えておる!是非とも正室に!」
今度は滝川左近将監一益さんが娘さんを推薦して来ました。この状況を親父は北陸地方で受けていたんだろうな。でも、道乃が正室になる事が決まっている
でも、それは殿が皆さんが集まった場所で大々的に発表するだろうから、俺からは言えない!ここは、親父を前に出そう
「お三方共。お気持ちは大変ありがたいのですが、正室を決める話は、父上が北陸地方を征圧した後に話し合うので、今は何ともいえませぬ」
「ならば、甲斐国を平定した後に柴田様の軍勢に参加させていただいて、早く征圧出来る様にしてもらおう!」
「確かに!それならば、権六殿へも推挙出来る!」
「これは、武田との戦を早く終わらせないといかぬ理由が出来たな!」
親父の名前を出したら、むしろ逆効果でした。3人共、「武田を倒したら北陸行って話し合いだ!」という空気になりました。本当にそうなったら、親父すまん!
六三郎達がそんな感じで進軍している一方、武田の本拠地である躑躅ヶ崎館では
天正十二年(1584年)三月二十日
甲斐国 躑躅ヶ崎館
「彦六郎様!信濃国を抜けた織田の軍勢がこちらへ進軍しているとの事です!」
「しかも、織田の軍勢は主力ではないのに我々の軍勢は歯が立たないとの事です!」
「如何なさいますか?」
「彦六郎様!」
穴山の家臣達が六三郎達の軍勢への対応で穴山を問いただしていた。それに対して穴山は
「皆!これこそ、儂の求めていた状況じゃ!」
「どういう事でしょうか?」
「この状況の責任を全て、諏訪四郎に被せるのじゃ!儂が偽造した奴の文もある。文の内容も、
「全ての責任を取って切腹する!拙者の首で家臣達をお許しいただきたい!後の事は、父信玄公の甥である穴山殿に任せてあります」と。奴の首とこの文を持って、
織田の前に現れた、殊勝な態度の儂を攻撃する事は無い!そして、その場で「奴の遺志を継いで!」とでも言えば、織田も儂を殺すどころか、甲斐国の統治を任せる可能性が出てくるはずじゃ!」
と、かなりのお花畑な偽装降伏計画の全容を話していた。その全容に家臣達は
「さすが彦六郎様!」
「他者の心の内を読むとは!」
「何たる深慮遠謀!お見それしました!」
と、絶賛していた。そんな穴山達へ
「彦六郎様!こちらへ来ました!降伏勧告の使者との事です!」
「来たか!丁重にお通しせよ!諏訪四郎は病身という事にする!」
六三郎達が到着した。織田家及び徳川家に全てバレているとも知らない穴山は、この時、とびきりの笑顔だった




