最前線へ来た理由と危険な役目
「うむ!雉とは違う濃厚な味じゃ!焼いた鴨肉もまた良い!胡桃を使った物も美味い!六三郎、この蕎麦を甲斐国の土地改善に使う予定なのじゃな?」
台所から来たら、殿が五郎さんや源三郎様だけでなく、松姫様や虎次郎くんを驚きました柴田六三郎です
それなりの人数分を作っていたとはいえ、殿や家康を始めとした面々が、蕎麦をズルズルと啜っている姿は、ある意味で平和の象徴です
「はい。蕎麦は麦と同じ様に、水の少ない土地でも作れますので、最悪、米を諦めても食べられる物、銭に変えられる物になると思いまして、試しております」
「うむ!先々の事を考えながら挑戦する事は良い事じゃ!さて、腹も満ちた事じゃから、到着が遅くなった理由を話すとしよう!まあ、皆も薄々分かっているであろうが、
岐阜城まで松と虎次郎を迎えに行っておった。これから、事を成した後、一日でも早く甲斐国を平定する為にな。
二郎三郎から話は伝わっておるだろうから、策についての事は、おいおい話し合うが、一人初めて見る顔の者が居るが、自己紹介してくれ!」
「ははっ!拙者、武田典厩信豊と申します。父は信玄公の弟の武田典厩信繁で、信濃国の小諸城の城代を務めておりましたが、
勘九郎殿と三七殿から、此度の事を教えてもらい、その上で降伏勧告を受け、事実であるかの確認の為に、高遠城へ来た次第にございます」
「ほお、あの信玄公の右腕の様な存在だった典厩殿の嫡男か」
「父を知っているのですか?」
「軽くではあるがな。それこそ、典厩殿の父君が生きていたならば、武田家は織田家と一進一退だったかもしれぬ程、戦上手で人をまとめられる武将だったと思っておる」
「父の事をそれ程まで」
「うむ。改めてじゃが、典厩。お主も穴山達を討取りたいと思っておるのじゃな?」
「はい!武田家中において、拙者が最年長になりますので、家中を乱す穴山達を許せませぬ!なので」
「その言葉だけでも充分じゃが、その気概は信頼出来そうじゃな!この流れでの紹介になるが、虎次郎!挨拶をせよ」
「はい!武田虎次郎です!岐阜城で五郎叔父上に初めてお会いしました。典厩叔父上も初めまして!」
虎次郎くんの挨拶に、信豊さんと桜殿と勝姫様は大泣きです。立派に育っている事がとても嬉しいのでしょう
「うむ!子供らしい元気溌剌とした挨拶じゃ!さて、虎次郎、儂達はこれから大事な話し合いを行なう。なので、虎次郎は松と、こちらの桜殿と勝姫と共に、別の部屋へ行ってくれ」
「はい!」
虎次郎くんは返事をすると。松姫様と勝姫様と桜殿と一緒に別の部屋へ移動していった。で、そこから軍議開始なのですが、
「穴山達を討取る策の第一歩として、この高遠城を落城した様に見せる!そうじゃな、旗印を全て織田家の旗印に変えるとして、次にすべき事は何じゃ?
六三郎!お主なら、どの様な事をして城を落とした様に見せる?」
(ええ、俺?殿と家康の戦経験豊富な人達で考えてくださいよ!採用されるかどうかは別として、言うだけ言ってみるか)
「殿。拙者としては、落城した城が無傷という事はありえないと思いますので、城壁を含めた一部を壊しておいた方が、より、現実味が出ると思います」
「ほう。一部を「あえて」壊すと申すか。だが、言っている意味は理解出来る。無傷の城に穴山達を誘き出しても、疑ってしまい、引き返すかもしれぬからな、他には無いか?」
「三郎殿。あとは、仁科殿達が隠れる事の出来る場所を作っておく等では?」
「そうじゃな。策が多すぎても、露見してしまうかもしれぬ。六三郎の策を原案として、少し手を加えた策とする!」
「「「「ははっ!」」」」
そんな感じで、軍議は終了しました。穴山達を誘き出す為とはいえ、高遠城を一部壊す事になりましたが、どんな感じに壊すのでしょうか?
翌日
「五郎!全員、城から退却したか!?」
「はい!武士達も、料理人達も、姫達も。それから高遠城から半里の距離に居る百姓達も、城内で飼っている牛馬達も一時的に避難させております!」
「うむ!良き判断じゃ!それでは、攻撃に取り掛かる!掛かれー!!」
「「「「おおお!」」」」
皆さんおはようございます。朝から自作自演の攻城戦を見ております、柴田六三郎です。鬼武蔵さん達が、城壁に火縄銃で攻撃したり、壊しても良いと事前に言われていた物を壊したりと、暴れております
良き頃合になった様で、
「よーし!そこまでじゃあ!」
殿の声で、全員戻って来て、旗印も全部織田家の物に変えましたら、殿は
「さて、準備は整った!事前に書いておいた文も準備しておる、あとは文をどの様に穴山達へ届けるかじゃが」
そんな事を考えていると、
「父上!拙者がその大役をお受けします!」
(源三郎様が立候補して来た。ちょっと待ってくれ!この感じ、以前も感じた様な気がするんだが?)
※六三郎が感じているものはフラグです
そんな源三郎様に殿は
「たわけ!お主が穴山達の懐に入っても、殺されるだけじゃ!」
一喝するけど、源三郎様は
「確かに拙者ひとりでは何も出来ないでしょう!ですが、拙者にはこれまで苦楽を共にしてきた六三郎殿が居ます!六三郎殿が一緒ならば、父上も安心出来るでしょうし、
五郎殿も典厩殿も、拙者が行く事で、織田家が本気で穴山達を討取るつもりだと納得出来ると思いませぬか?」
(やっぱり俺が巻き込まれたじゃねーか!いやいや、源三郎様も殿も、此処は冷静になりましょう?武田家の本拠地じゃない支城がひとつ落ちただけなのに、
降伏勧告をするなんておかしいですよね?五郎さんの家臣の誰かが援軍要請した方が自然だと思うのですが?)
六三郎の願いも虚しく、
「そこまで言うのであればやって来い!六三郎、源三郎の補佐を頼むぞ!」
「ははっ!」
(ちくしょー!いざとなったら、簡易ダイナマイトを穴山達に投げつけてやる!それくらいのやつ当たりをしても許されるだろ!)
こうして、六三郎は信房に巻き込まれる形で甲斐国、それも穴山達の元へ行く事が決まった。