蕎麦でも食べながら
家康が殿からの文を携えて高遠城へ来たと言うので、入城してもらって、大広間の上座へ移動してもらいましたら
「いや、六三郎殿。驚かせて済まぬな!三郎殿からの文の内容的に早く行かぬといけなかったから、急いで来たのじゃ」
「いえ。拙者も何が何だか分からないので、あの、こちら、蕎麦の実から作りました新しい料理です。よろしければ」
「おお!新しい料理の挑戦中だったか!もしや、六三郎殿、これは日の本で儂が最初に食べる事になるのか?」
「そうですな。不安でしたら、毒味役の方に」
「いや!六三郎殿が良からぬ事をするわけがないから、そのまま儂が食べる!どの様に食べたらよいのじゃ?」
「有り難きお言葉にございます。食べ方ですが、適量を箸で掬い上げまして、鴨出汁の温かい漬け汁と冷たい漬け汁、
それか鴨出汁に胡桃を混ぜました温かい漬け汁と冷たい漬け汁がありますので、興味ある物から、お好きに選んでください」
「では、先ずは温かい漬け汁から食べてみるか」
家康は蕎麦を温かい漬け汁に入れて
ズズッ!ズズッ!ズズズッ!と啜ると、
「これは美味い!冬の寒い時期には最高じゃな!どれ、冷たい漬け汁でも食べてみよう」
と、食べてみたら
「冷たい漬け汁は味が濃厚に感じる美味さじゃ!」
と、気に入った様でした。次に胡桃を使った蕎麦をそれぞれ食べると、
「胡桃を使った物の香りの良き事。漬け汁に使われた胡桃の香りも素晴らしい!六三郎殿、誠に美味かった!」
「有り難きお言葉にございます。これを甲斐国平定後の土地改善の対策のひとつとして考えておりますので、徳川様の様子を見て、少し自信がつきました」
「はっはっは!儂の様な珍しい美味い物が好きな者の様子で良ければ、いつでも見せるぞ!さて、腹も満ちた事じゃから、
此度儂がこの城に来た理由を伝えておこう。と言っても、三郎殿からの文を見たら早いじゃろう!」
家康はそう言って、俺に殿からの文を見せた。文の内容は、俺が考えている穴山討伐を更に確実に、そして、五郎さん達に穴山達を直接殺させる作戦だった
いや、殿!こんなエゲツない作戦思いつくなんて、あなたはどれだけ恐ろしいんですか?でも、これなら、俺が楽出来るからありがたい!
俺がそんな事を考えていると家康から、
「六三郎殿、済まぬが四郎勝頼の奥方と姫に挨拶したい。連れて来てくれぬか?それと、奥方と姫を守りながら甲斐国を脱出した若武者二人も連れて来てくれ」
「は、はい」
家康のリクエストを聞いて、4人を連れて来たら
「初めて会うのだから、自己紹介しておく。織田内府殿と同盟しておる徳川家当主の徳川従四位下右近衛権少将じゃ。内府殿から話は聞いておる。
大変な苦労と覚悟で甲斐国を脱出したのう。徳川家も武田四郎殿の願いを叶える手助けを微力ながら行なおう!安心なされよ!」
「「「「有り難きお言葉にございます!」」」」
4人は家康の言葉に泣きながら平伏していた。そんな中、家康は
「さて、土屋殿と原殿に話をしたい。奥方殿と姫は、席を外してくれぬか?六三郎殿は残ってくれ!例の文の件を二人に話しておくだけじゃから」
そう言って桜殿と勝姫様を別の部屋に移動させた。残った惣右衛門さんと新之助さんに、例の文を見せると
「徳川様!これは、誠なのですか?」
「五郎様と共に、我々が穴山に直接手を下せる好機!」
「うむ。細かい部分は内府殿と話し合って決めるが、二人も参加したいであろう。やはり、主君の敵討となれば、のう」
「「ご配慮に感謝します」」
何だか家康が粋な事をしております。とりあえず、話が終わりなら、俺に飯を食わせてください
俺の願いが届いたのか、話は終わって、蕎麦を回収した俺は台所で蕎麦をガッツリ食べました。料理人の皆さんに「よっぽど腹が減っていたんだな」と、軽く生温かい目で見られながら
六三郎が家康達とそんなやり取りをしている頃、甲斐国では
「はっはっは!遂に諏訪四郎が死んだか!御旗と楯無の居場所を話せば、命だけは助けてやると言っても強情に話さないとは!やはり、偽物の武田当主じゃな
御旗と楯無を他所に行かせたから、運にも見放されたのじゃ!本物が無い事は儂や勝之助にとって少し痛手じゃが、皆が黙っておれば問題ない!そうであろう?」
「そうですぞ!殿が武田家当主になる事が重要なのです!御旗と楯無の有無は関係ありませぬ!」
「それに、織田と徳川に諏訪四郎の首を出して降伏するのですから甲冑など必要ないでしょう!」
「しかし殿、典厩殿の処遇は如何なさいますか?」
穴山の家臣の言った典厩殿とは、信玄の弟であり右腕的存在だった武田信繁の嫡男の信豊の事で、勝頼と年齢的に近い事で対抗心を出していたが、
この世界線では、勝頼自身が、穴山達から襲撃される事を伝えていた為、勝頼とも穴山達とも距離を取っていた
現在地は信濃国内で飛騨国よりの小諸に居る。なので、信廉と勝頼の死を知らない
「典厩は儂に従うならば、生かしてやる!従わないならば、織田と徳川に始末させたら良い。儂達が直接手を下す必要もない小者じゃ!はっはっは!」
「流石、甲斐源氏武田家当主ですな!お言葉がとても大きい!」
「おいおい!まだ仮じゃ!まあ近い内に当主になるがな!」
「「「「はっはっは!」」」」
穴山達が脳内お花畑全開で明るい未来を妄想しながら酒宴を楽しんでいた