主君の決断と交渉の開始
盛信に命じられた家臣の山田某は、馬に乗って六三郎達の本陣近くまで来ていた。少し見える距離まで来て確認してみると
「確かに、赤備えの方々が着ていた様な赤に染められた甲冑の軍勢と、黄色の旗印があるな、しかし、何故本陣の中に女子を?普通ならば戦に出陣する前ですら、
女子を近づけさせないのに、戦の最中に、しかも本陣の上座に近い場所に座っておるとは何とも不思議な
矢文にはこちらが攻撃して来なければ、攻撃しないと書いてあったが、信じてよいのか?もう少し近づいてみよう、名前が聞こえるかもしれぬ」
山田は他の情報を得る為に、更に近づいてみると、六三郎達の声がところどころであはあるが、聞き取れた内容は
「桜殿、誠に、勝姫、北条、にも」
だった。それだけの情報では山田個人では判断出来ないので、一旦高遠城に帰る事にした。城に戻った山田は盛信に知り得た情報を全て話した
すると盛信は、
「大広間で交渉するか否かを話す。山田も知り得た情報を皆の前で話してくれ」
「ははっ!」
盛信は山田と共に、残っていた主だった家臣達の前に来たが、盛信の表情は固かった
「殿!山田殿はどの様な情報を得て来たのですか?」
「山田が持って来た情報じゃが、武田家でも一部の者しか知らぬ情報であった」
「誠ですか?一体、どの様な情報なのですか?我々が知ってはいけない内容ならば」
「いや、武田家の不和の原因が穴山である事を知られ、更には一部の者しか知らない情報まで露見しておるならば、お主達にも話しておこう。良く聞いてくれ
武田家の現在の当主は儂の兄の武田四郎である事は、皆も知っておるが、四郎兄上の嫡男の名は知っておるか?」
「確か、幼名を勝太郎様と聞いておりますが」
「では、現在の名は?」
「元服を行なったとは聞いておりませんので、まだ幼名のままなのでは?殿、いったい何を仰りたいのですか?」
「先程、山田が持って来た情報は「桜殿、誠に、勝姫、北条、にも」と、矢文を送って来た柴田六三郎とやらが周囲の者と話している内容で聞き取れた物じゃ
これを順に説明していく。先ず、桜殿とは、兄上の継室、つまり儂の義姉じゃ。そして北条とは、小田原の北条家で、桜殿の実家じゃ。そして、勝姫とは、兄上と桜殿の間に産まれた子の事じゃ」
「お待ち下さい、殿。確かお館様には勝太郎様が、もしや」
「そのもしや。じゃ。兄上に嫡男が居なかったから、勝姫を勝太郎と偽って、嫡男の振りをさせた。だからこそ、兄上が軍議を行なう際、勝太郎、いや、勝姫は
体調不良と偽って、正体が露見しない様にしていたのじゃ。山田が持ち帰って来た情報から察するに、
柴田六三郎とやらは、義姉上と勝姫と共に行動している様じゃな、ならば、兄上の事にとても詳しい方々とは、義姉上と勝姫と見て間違いないか。しかし、命懸けの願いとは」
「殿!これは、もう本人達に来て、全てを話してもらった方が早いと思いますが」
「やはり、それが早いか!山田、布陣している場所に行き、話をして来い!そして、高遠城の中に入って交渉する面々を連れてまいれ!」
「ははっ!」
盛信は、再び山田を六三郎達の元へ行かせて、高遠城へ来てもらう決断をくだした。盛信の命令を受けて、六三郎達の元へ早馬で出立した。そして、
「柴田六三郎殿、そして、奥方様、勝姫様。主君、仁科五郎様より高遠城へお越しいただきたいとの事ですので、ご同行をお願いします」
六三郎達元へ到着し、高遠城へ来る様に要請した。六三郎は
「分かりました。高遠城へ行く面々を選びますので、しばらくお待ちくだされ」
と、山田に待ってもらって、誰を連れていくかの選別を考えた
皆さんこんにちは。高遠城の仁科五郎さんの家臣の山田さんから、「私の主君の仁科五郎が高遠城へ来て欲しいとの事なので、来てください」と言われたので、
交渉のスタートと同時に、誰を連れて行くかを考えている柴田六三郎です。まあ、連れて行く面々の殆どは決まっているんですよ、俺、桜殿、勝姫様、惣右衛門さん、新之助さん。この5人は確定なんですが、
問題は源三郎様なんだよね。連れて行って、万が一殺されたりしたら、俺が切腹しないといけないから安易に連れて行けないけど、本人が凄いやる気で
「拙者が行った方が、より真実味が増すと思うので、連れて行ってくだされ!」と言ってくるんです
ここまで言われたら、ねえ。仕方ない、源三郎様と源太郎と山県兄弟を含めた9人で高遠城に行きますか
「山田殿!高遠城へ行く面々が決まりましたので、案内をお願いします」
「かしこまりました。では、拙者の後ろからついて来てくだされ」
山田さんの案内で、ゆっくり進みながら高遠城に到着して、直ぐに大広間に通されましたら、上座に体格がゴツめの大将らしき人が座ってました。まあ、十中八九、この人がそうだよね
「よくぞ来てくださった!拙者が、高遠城の城代を務めております仁科五郎盛信でござる」
やっぱり、この人が仁科五郎さんでした。遂に交渉したい人物に会えたわけですから、ワクワクと緊張も増えて来ます。さて、それじゃあ交渉開始といきますか。




