武家の女は強い
信長は六三郎達に穴山討伐を命じ、即座に出陣する様に通達したが、そこに勝頼の正室の桜が
「織田様!お待ちください!」
待ったをかけた。信長は
「奥方殿?何かあるのですか?」
「はい!信濃国の現在地から甲斐国へ進軍する場合、土屋殿と原殿が私達を守りながら進んだ道は、穴山の手の者達が厳しい監視をしているはずです!」
「ならば、他の道を通るだけじゃ!気にしていただく事はありがたいが」
「その他の道で、いち早く甲斐国へ入る道には、私の義弟、つまり四郎様の弟で仁科家に養子に入った五郎殿の守る高遠城があります!」
「いくばくかの被害は仕方ない!奥方殿、申し訳ないが、その高遠城は」
「五郎殿は、四郎様の数少ない味方なのです!無理を承知で、生かしていただけませぬか!?穴山達のせいで、死なずとも良い人が死ぬのは」
「気持ちは分かるが、しかし」
信長は桜の言葉に押されて、言葉に詰まる。そこから更に勝姫も追撃する
「織田様!私からもお願いします!五郎叔父上が討死したら、残る叔父上達は、十七歳の私より歳下の方々のみになってしまいます!それでは、武田家が」
桜と勝姫の懇願に、信長はとうとう
「奥方殿、そして勝姫。そこまで懇願するのであれば、自らも働く覚悟はありますかな?」
「「勿論です!」」
2人の覚悟を問いただし、答えを聞くと、
「分かりもうした。源三郎と六三郎!奥方殿と勝姫の懇願を聞いたであろう!そこで、お主達は進軍の途上にある高遠城を守る大将の仁科五郎殿を、
どうにか説得して降伏させるか、最低でも攻撃しない事を取り付けよ!やり方はお主達に任せる!」
六三郎に無茶振りして来た。六三郎は
(何故に俺も含まれているのですか!?立場上、源三郎様が軍勢の総大将なんだから、源三郎様だけを指名したらいいじゃないですか!)
と思っていたが、信長は
「六三郎!分かっていると思うが、源三郎は初陣じゃ。通常の戦の経験も無い。そして、武将と交渉した経験も無い!だが、お主は少なからず有る。
まだ歳若いお主に、そごまでさせるのは申し訳ないと思うが、武田四郎殿はお主を、柴田の鬼若子を指名しておる!なればこそ、お主がやるしかない!そうであろう?」
絶対に断れない言葉で説得して来た。その言葉に六三郎は
(殿!それはズルいですよ!武田勝頼が俺を指名しているからって、その言葉は断れないじゃないか!)
と、思いながらも、
「分かりました!ですが、交渉方法を考える為に、明日の朝まで、時間をいただきたく」
「仕方ない。奥方殿も勝姫も、それで納得してくだされ!」
「「無理を聞いていただき、ありがとうございます」」
こうして、六三郎は少しだけとはいえ、考える時間を手にした。そこから、寝ないで考えて、あっという間に翌朝になり
翌日
「六三郎!交渉方法は決まったか?」
「はい」
「ならば、直ぐに出立を」
「殿。その交渉の為に必要な人達と物があります」
「それは誰で、どの様な物じゃ?」
「奥方殿と勝姫様、そして武田四郎殿が拙者を指名した文です」
「六三郎!戦場に女子を、しかも、お主に助けを求めた奥方殿と勝姫を戦場に連れて行くなど!」
「殿!拙者や源三郎様だけで高遠城に行っても、矢弾で狙われるだけです。万が一、狙われなくとも、仁科五郎殿と交渉が出来ても信じてもらえるわけがありませぬ!
だからこそ、お二人と文を持っていき、目の前で見せてこそ、信じてもらえると判断したのです!」
六三郎がそこまで言うと、源三郎も
「父上!拙者も六三郎殿の提案を受け入れていただきたく!拙者と六三郎殿は二十歳の若造です!若造の言葉を緊張感溢れる戦場を取り仕切ります総大将が聞くとは思えませぬ
だからこそ、お二人を連れて交渉に臨みたいのです!何卒、お許しください!」
六三郎を援護した。信長は
「戦場に女子を連れていくだけでも前代未聞の常識外れなのに、更に交渉の席に連れて行くとは。奥方殿、勝姫!そう言う事じゃが、覚悟していただきたい」
桜と勝姫に呼びかけたが、2人は
「私達が動く事で、五郎叔父上達が助かるならば!覚悟は出来ております!」
「織田様、私の父は「相模の獅子」と呼ばれていた北条新九郎氏康です。幼い頃から関東の戦場が側にありました。それに比べたら、身内との交渉は大した事ではありませぬ
源三郎殿と六三郎殿、そして勝と共に交渉の大役に臨ませていただきます!」
覚悟の顔を信長に見せた。その顔を見た信長は
「武家の女子の強さじゃな!いざと言う時は、男よりも強い!分かり申した!源三郎と六三郎!二人をしっかりと護衛し、交渉を早くまとめて穴山討伐を成し遂げよ!良いな?」
「「ははっ!」」
「それでは出陣して来い!」
こうして、六三郎は源三郎だけでなく、桜と勝姫も巻き込んで仁科五郎盛信と交渉する大役を受けて、高遠城へ出立した




