元服の名付けは一苦労
天正十二年(1584年)一月二十二日
近江国 長浜城
「母上!父上!お久しぶりでございます!」
「治兵衛!ちゃんと食べさせてもらっているんだねえ!顔の艶も良いじゃないか!」
「治兵衛、先ずは安心したそ」
「兄上。今日は拙者の元服の儀に来ていただき、ありがとうございます」
皆さんおはようございます。長浜城で智さんと弥助の長男の治兵衛くん、史実の豊臣秀次と初対面しました柴田六三郎です。
初対面が遅れた理由ですが、秀次の養父の宮部さんが秀吉の山陰方面軍に従軍していて、最初に征圧した丹波国と近くの丹後国を見る役目を担っていたから、
簡単には動けない。と言う理由でした。その役目も落ち着いたので、弟の小吉の元服の儀に立ち合っても良いと許可をもらったから、長浜城へ来て、今に至ります
「あなた様が、柴田六三郎様ですね?」
そんな秀次さんか、俺に声をかけて来ました
「はい。小吉の兄君ですな」
「はい。宮部治兵衛尉秀次と申します。弟だけでなく、父と母も召し抱えていただき、誠にありがとうございます。弟も父も母も柴田家の役に立っておりますか?」
「それは勿論。小吉と弥助殿は理財を学び、内政において必要な人材になりましたし、智殿は台所の面々にあっという間に馴染みましたから」
「市兵衛殿や虎之助殿から、美濃国に居た時のお話を聞かせていただいた時、母上が大変な状態だったと伺っておりましたので心配しておりました」
「まあ、それは親心故。と思っていただけたら」
「はい。そう思っております」
うん。やっぱり史実の豊臣秀次像のまんま、穏やかな人だよ。変なイメージを持たせたい為につけられた「殺生関白」なんて渾名は大嘘だな。
秀吉が自分の行動の正当性を示したいからつけたのか、それとも家康が自分の行動の正当性を示したいからつけたのかは分からないけど、まあ、この世界線では
宮部さんの嫡男として、秀吉の子供を支える筆頭家老的ポジションになるんだろうな。それが平和だよ。ただ、秀吉の嫡男の長望丸くんが成長して、我儘な暴君になったら大変そうだけど
それは俺が触れる事じゃないから、羽柴家の皆さんに頑張ってもらいましょう。それよりも
「小一郎殿。改めて確認なのですが、小吉を元服させる時は羽柴姓を使う事と、諱に秀の字を上に付けると言う事でよろしいのですな?」
「はい。本来なら、我々から六三郎殿へお頼みする立場なのに、六三郎殿から言っていただき助かります。兄上が出陣中で居ないので拙者が烏帽子親という大役を担わせていただく事、誠にありがとうございます」
「いえいえ。拙者では若すぎますし、筑前殿が居ないのでは小一郎殿しか適任者が居りませぬ。なので、よろしくお願いします」
「かしこまりました。六三郎殿、元服後の仮名と諱は六三郎殿が考えてくださる。と言う事でよろしいのですよね?」
「はい。主君らしい事をほとんどやれていないので、これくらいは。ただ、決めきれていないので、半刻ほど時をいただきたく」
「小吉は、誠に良い主君に仕えておりますな。分かりました。半刻過ぎたら、呼びに行きますので、部屋で考えてくだされ。紀之介、六三郎殿を部屋へ案内してくれ」
「ははっ」
部屋へ案内されまして、ここから色々考えるのですが、諱は決まっているんです!ですが、仮名が決まっておりません!
前世の記憶だと、小吉は秀勝になった後は丹波中納言とか、岐阜中納言と呼ばれていた様ですし、
仮名の記録も無かったっぽいので、俺が決める事になるのです。これはかなり責任重大です
小吉の性格を思い出してみよう。自分から武士にしてくれ、召し抱えてくれと言う程の芯のある人間で、
理財からじっくり学んで、今や利兵衛と源四郎が仕事を任せる程の内政の腕を持っている。それに、人当たりも良い。妹達は勿論、お袋からも可愛がられている
それを考えると、呼びにくい仮名よりも呼びやすい仮名の方が良いな!よし、仮名も決まった!
筆を取って、紙に書いてみると、うん。字面は良いな!これに決めた!
俺が決意すると、部屋の襖が開いて
「六三郎殿。半刻過ぎました。決まった様ですな。皆様がお待ちですので、お願いします」
大広間に行きまして、元服の儀が行なわれている中、小吉の立派な姿を見て智さんと弥助さんと秀次が泣いているのは勿論ですが、利兵衛が内政を、水野様が内政と武芸を教えていた事もあって
少しばかり泣いています。そして、全ての手順が終わって、最期の新たな名前発表の時間になりました
「六三郎様!拙者の新た名をお願いします」
と催促されましたので、紙に書いた物を披露します
「うむ。新たなな名はこれじゃ」
「羽柴立之助秀道、これが拙者の新たな名ですか。どの様な意味が有るか、教えていただけますか?」
「うむ。先ず仮名じゃが、自らの意思で武士になる為に立ち上がった事を忘れない為、そして諱は羽柴家の通字の秀と、己の信じた道を歩み続けて欲しい!と、願いを込めて秀道とした!」
「若様、素晴らしい名をありがとうございます!これより羽柴立之助秀道として、今まで以上に若様にお仕えする事を誓います!」
「うむ。これからも頼むぞ立之助」
「ははっ!」
きっと未来では「立之助」が「辰之助」の間違いだ!みたいに思われるかもしれないけど、それは未来の人次第だから別にいいか。改めて、これからよろしくな立之助。