話し合いの結果の判断は
「若様!真田家一行が参ります」
「うむ。先ずは色々と話をしてからじゃな。ただ、母上も居るのですね」
「何を言いますか六三郎。あなたに召し抱えてもらいたいと、一家総出で来たのですから、私も見てみたいに決まっているじゃありませんか」
うん。お袋は絶対、面白がっているだけだな。虎夜叉丸くんの側に居たい気持ちもあると思うけども、今は親父の嫁である事を優先してくれている事に感謝だよ
それよりも今は、チート武将一家と話し合いに集中しようじゃないか
「真田殿!全員で入ってくだされ」
「ははっ!失礼します!」
父親の昌幸さんを先頭に、嫁さんと子供達の総勢9名が大広間に来ました。昌幸さんのお袋さんは疲れて寝ている様なので、寝かせてあげましょう
それじゃあ、改めて
「真田家の方々、先ずは自己紹介をしてくれぬか?」
「ははっ!では、拙者から。拙者は真田喜兵衛昌幸と申します。横の女子は嫁の奈々(なな)です。そして、後ろに居るのは拙者の子供達です。産まれた順に自己紹介させます。ほれ、お主から」
「長女の幸です」
「長男の源三郎信幸です」
「次男の源二郎信繁です」
「次女の清です」
「三男の弾十郎信勝です」
「三女の春です」
「四女の陽です」
「五女の州です」
「六女の光です」
「七女の楽です」
「以上の十一名と、奈々の腹の中にもう一人おります」
「真田殿の子種はとてつもなく強い様じゃな!ここまでの子沢山は殿以外で初めて見ましたぞ」
「子を成して、家を残す事を頑張っていたらこれ程の大家族になりました」
「良き事じゃ。拙者の父の言葉じゃが、子は宝物であるからこそ、子宝と呼ぶのだと言っておった。そこから繋げたら真田殿は、宝物を多く手にしたと言っても過言ではないのう」
「勿体なきお言葉にございます。柴田様、これより先のお話は」
「奈々殿と源二郎殿から下の子供達には重い話か。分かった、誰ぞ!清殿から下の子供達を部屋に連れて行ってくれ!」
「はい!」
下の子供達を連れて行かせて、大広間には昌幸さんと長女の幸さん、長男の信幸、次男の信繁が残った
俺の周りは利兵衛とお袋と、源太郎と源次郎、そして山県兄弟が居る。万が一の事があっても、この面子なら大丈夫だろう
「それでは喜兵衛殿。武田家の家臣である喜兵衛殿が、領地である信濃国から越前国まで来た理由を教えてくださらぬか?」
「やはり拙者が武田家に仕えていた事を見抜いていたのですな。確かに拙者はほんの数ヶ月前まで武田家に仕えておりました。
ですが、武田家を取り巻く外野の状況の悪化と、それに気づかないのか見て見ぬ振りをしているのか分かりませぬが、武田家中で派閥争いをしている者達を見ていて、
このままでは領地どころか命まで危ういと思い、出奔したのです」
「ふむ。確かに出奔するには充分過ぎる理由じゃな。だが喜兵衛殿、その理由以外の理由は無いのか?例えば、
そこに居る山県兄弟の出奔を決意した事の様な事、源四郎、話せる範囲で良いから話してくれぬか?」
「はい。喜兵衛殿。我々山県兄弟の父の事を知っているからこそ話しますが、我々の父は九年前に三河国で織田家と徳川家の連合軍に無茶な戦を仕掛けた結果、
討死しました。拙者はその時、父が城代を務めていた駿河国の江尻城に詰めていたので、父の討死を知ったのは、文が届けられてからでした
その中に「四郎勝頼が佞臣を重用したら、滅亡への道を歩んでいると見て間違いない。その時は出奔しても構わない」と有りました、
その文が届けられてから出奔するまで、四郎勝頼は事あるごとに「前月より銭を二割増しで出せ」と催促してきました。何度も断って来たのですが、最早、精神的に限界が来て、武田家を出奔したのです
ですが、甲斐国に居た弟達は更に強い憎しみを持って出奔して来ました。佐兵衛、三郎。喜兵衛殿に話してくれ」
「はい。喜兵衛殿。我々は甲斐国に居た時、四郎勝頼の派閥と穴山の派閥からこう言われておりました「お主達の父は古い時代の武士で、織田家と徳川家との戦では役に立たなかったな」と馬鹿にされて、
これまで武田家に尽くしてきた事すら無かった事にされたのです!だからこそ、我々は妹達を連れて出奔したのです」
山県兄弟がそこまで言って、しばらく静かになったと思ったら
「喜兵衛殿?」
何故か昌幸さんが泣いています。理由を聞くしかないでしょうね
「喜兵衛殿?何か思う所が?」
「申し訳ありませぬ。拙者も、二人の兄が九年前の戦で討死しているのです。そして、四郎勝頼達は、山県様と同じ様に二人に対して労いの言葉も無かったのです
その事も出奔を決意させた理由なのです。だからこそ、その様な個人的感情で出奔しても良いのかと悩んでおりましたが、山県様の子供達も同じ様な状況だった事で」
「辛い事を思い出させて済まぬな。それでも、儂に仕えたいと申すか?」
「戦の勝敗は時の運もあります。兄達もそれは分かっているでしょうし、柴田様がその様な訳ありな方々を召し抱えているのは、ひとえに器の大きさなのでしょう。だからこそ、拙者を家族ごと召し抱えていただきたく!」
(昌幸さんも、身内の討死を馬鹿にされた感じだから出奔したのか。まあ、それと武田の周囲がきな臭いから!が合わさった結果の出奔なのは間違いないんだろうな。
でも「召し抱えて」、「良いよ」は流石に出来ないから、源四郎の時と同じパターンでやるか)
「喜兵衛殿。真田家の処遇についてじゃが」
「戦へ出陣ならば、先陣を切りまする!」
「いや、それよりも先ずは、源四郎を召し抱えた時と同じく客将の形を取る。その間に内政で働ける事を示すか、儂や源太郎達赤備えがやる土木作業か、
戦で働ける事を示してもらいたい。その時の働きで召し抱えるかを決めたいと思う」
「はい。それで召し抱えてもらえるならば、精一杯働きます!」
「うむ。喜兵衛殿の息子達は落ち着きのある様じゃから、色々覚えていくのも早そうじゃな。儂と歳も近い様じゃから、楽しみにしておるぞ」
六三郎のこの言葉に昌幸は
「あ、あの柴田様?失礼ですが、長男の源三郎で今年二十一歳なのですが、何歳なのですか?」
「儂は今年で二十歳じゃ」
「えええ!源三郎より一歳下と思わなかったです。誠ですか?」
「ああ。何故か儂の二つ名の「柴田の鬼若子」のせいで、儂は他人から身の丈がとても高く筋骨隆々な鬼の様な顔を持っている人間だと思われておる。
だがな、この様に何処にでもいる人並みな身の丈と体躯の平凡な人間じゃ。それでも、儂を主君として慕ってくれる者達の為に、柴田の鬼若子という二つ名を利用して、戦を出来るかぎり無い様にしたいから、好きな様に言わせておる」
「な、成程」
「まあ、少しずつ慣れていけば良い!それでは喜兵衛殿。後の事は内政についてはそこに居る利兵衛か源四郎に、軍事の事は源太郎と源次郎の飯富兄弟に聞いてくれ」
「ははっ!」
それでは、利兵衛、源四郎、源太郎と源次郎。後の事は任せた。
そう言って六三郎は部屋に戻って行った