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名将の選択

天正十一年(1583年)十一月三十日

美濃国 某所


「信濃国を抜けて美濃国に入ったが、皆、身体は大丈夫か?特に母上」


「まだまだ大丈夫ですよ!喜兵衛、私の事よりも早く先を急ぎましょう」


「分かりました」


武田家を出奔して信濃国から脱出する為に、霜月の1日に屋敷を出た真田家一行だったが、師走になる前には既に美濃国に入っていた。特に何もなく信濃国を出られた事に、嫡男の源三郎は


「父上、やはり武田家は我々に追手を差し向ける余裕も無いのでしょうか?」


「それもあるだろうが、お館様、いや、四郎勝頼が信玄公が作り上げた情報収集の為の面々を使いきれてないから、儂達が出奔した事も知らないかもしれぬな」


「まあまあ、父上も兄上も。早く柴田様のお屋敷へ行きましょう!早く「柴田の鬼若子」と呼ばれるお方にお会いしたいです」


「源二郎。出立の頃から柴田の鬼若子殿の事を随分と気にかけておる様じゃが、それ程気になる理由は何じゃ?」


昌幸に質問された源二郎こと、史実の真田信繁、幸村の名の方が有名な若武者は、真田家が出奔する半年前まで甲斐国で人質として過ごしていたが、


武田家中の派閥争いにかこつけた昌幸の策略で、真田家に戻って来た。そんな源二郎が六三郎の事を気にかけている理由は


「やはり元服前に初陣を経験して、敵の武田勢を見事に撃退した戦の話を聞きたい事、そして、その時に捕虜だった武田勢をどの様に臣従させたのか!


その事を特に聞きたいのです!他にも色々聞きたい事はありますから、早くお会いしたいのです!」


「源二郎。父上はその様な軽い気持ちで武田家を出奔したのではないのだぞ?信玄公の時代から、祖父様と」


「源三郎、言いたい事は分かるが、今は言い争いをしている場合ではない。柴田家の屋敷を早く見つけてしまおう。源二郎も」


「「ははっ!」」


昌幸が話をまとめた事で本来の目的である柴田家を目指す事になった


天正十一年(1583年)十二月五日

美濃国 某所


「父上!あの大きな屋敷は柴田家の屋敷ではありませぬか?」


「うむ。ここ迄の道中で見た建物の中で、一番大きいから間違いないであろう。儂が行ってくる。源三郎と源二郎は、万が一に備えて皆の側に居るのだぞ!」


「「ははっ!」」


2人に命令した昌幸は、単身目的の屋敷に向かい、門番に質問する


「御免!いきなりで申し訳ないのだが、此方は織田家家臣の柴田殿のお屋敷で間違いないか教えていただきたい!」


しかし門番から


「いや、ここは織田家家臣の明智日向守様のお屋敷じゃ!」


「そ、それは誠ですか?ある方からの文で、「美濃国の東端に目指す柴田家の屋敷がある。召し抱えてもらいたいなら行ってみろ」と教えていただいたので、仕官希望の旨を伝えに来たのですが、


柴田家は何処に行ったのか、教えていただきたいのですが、知っておりますか?」


「しばし待っていただきたい。おーい!誰か、この土地の前の領主だった柴田家の新たな領地を知っているか?柴田家に仕官希望の者が来ているのだが」


門番が屋敷の誰かに呼びかけると、


「若様!危のうございます」


「儂が危なくならない為に、皆が居るではないか。だから、儂がその者に説明した方が早い」


屋敷の中から、十兵衛と護衛の家臣が言い合いながら出て来た。門番に止められて昌幸の前まで来ると


「貴殿が柴田家へ仕官希望のお方ですかな?」


「はい。真田喜兵衛と申します。信濃国の小県ちいさがたという土地の地侍でしたが、信濃国の武田家の勢力が右往左往している様子を見たおりましたら


信濃国が戦場になると思い、それならば躍進著しい織田家の中でも、訳ありな者を召し抱えているらしい


柴田様の嫡男の「柴田の鬼若子」殿に召し抱えてもらいたいと思い、命からがら信濃国を脱出して来たのです」


昌幸は半分は本当の事を、半分は嘘を織り交ぜた会話で光慶に話かけると


「それはそれは大変でしたな。ですが、柴田家の新たな領地は越前国なのです」


「え、越前国ですか」


「ええ。今から進めば、件の「柴田の鬼若子」こと、柴田六三郎殿が一時的に戻られている時にかち合う可能性が高いですぞ」


「ま、誠ですか!それならば」


「もしくは、その柴田六三郎殿のお父上が総大将を務める軍勢が北陸道を越前国から越後国へ向けて進軍しておりますので、其処に行っても良いかと思いますが。その軍勢の中に拙者の父も居ますし」


「そ、それも良いですな。ですが、拙者だけではなく家族も連れて来たので、越前国を目指したいと思います」


「そうですか。まあ、真田殿が決めた事ですので拙者はとやかく言いませぬが、これからの時期は冷えますので早めに進んだ方が良いですぞ」


「はい。教えていただきありがとうございます。では、先を急ぎますので失礼します」


そう言って昌幸は全員を連れ先を進んだ。昌幸一行が去った後、光慶達は


「若様。あの真田という者、もしや」


「恐らく、いや、間違いなく武田の家臣じゃな」


「柴田様の元へ行かせて宜しかったのですか?」


「六三郎殿に召し抱えてもらいたいは本音じゃろう。それに、もしも六三郎殿の命を狙う刺客だったとしても、赤備えの方々を超えて六三郎殿に辿り着けるとは思えぬ。


それに、何故だか説明出来ぬが六三郎殿ならば、ただ召し抱えるだけでなく、上手く働かせて家中に必要な人材にしていると思う」


「若様はそれ程、柴田六三郎様に期待しておるのですね」


「もしかしたら、花江姉上の夫になるかもしれぬからな。少なからずの期待はあるが、まあ、其処は六三郎殿が上手くやるじゃろう。


それよりも、儂の初陣も決まったから、準備を怠るでないぞ?状況次第では父上も居る北陸方面軍も武田征伐に参加するかもしれぬとの事じゃ


情けない姿を見せられないし、初陣で討死などしたくないからな」


「若様のお命は我々が命をかけて守りますので、若様は武功を挙げる機会を狙ってくだされ」


「ああ。だが、お主達も無理をするな」


光慶は「六三郎なら何とかするでしょ?それより自分の初陣の事を考えなきゃ」みたいな感じで、屋敷の中に戻って行った

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