おてんば姫と裏目な行動
普通の歴史物作品なら有り得ない展開がありますが、フィクションという事でご了承ください。
天正十一年(1583年)七月二十日
近江国 長浜城
「丹羽様。こちらが作り方をまとめた書物です。おおよその材料と作り方を書きましたが、改良も可能ですので、作らせる場合は試してみていただきたく」
「いやはや六三郎殿。これを城の壁に使える様になりましたら、種子島で攻撃されても傷の少ない頑強な城になりますな。殿と話し合いながら作りたいと思います」
皆さんおはようございます。長浜城に殿の代理で来た丹羽様に戦国時代版コンクリートの作り方を書いた仕様書を渡しております柴田六三郎です
10日前に試作品を源三郎様に見せて、そこから殿も見に来て、「多く作れる様にしろ!」と言われて、出来るかぎり簡単にまとめた仕様書を、今日渡しましたら、
丹羽様は急いで帰って行きました。ちなみに殿は、家臣の皆さんの官位をもらう為に京へ行っているから、丹羽様が代理で長浜城に来ている理由です
丹羽様が帰った後、開発現場に向かう途中、
「待ちなさい!与弥!」
「嫌です!私は長刀を振りたいのです!母上に捕まるわけにはいきませぬ!」
廊下の反対側から母親と娘が追いかけっこをしておりました。ぶつかったらいけないと思ったので、歩くのを止めると、
「そこのお方!助けてください!鬼婆に追われております!」
俺に気づいて助けを求めて来た。俺の返事を聞かずに後ろに隠れました。茶々や初と同じ事をやっているので、母親らしき人が来るまでは後ろに隠してやるが
「与弥!何処に居る?出て来なさい!」
母親らしき女性が俺の前に来て、
「あ!柴田様!この辺に四歳くらいの女子を見ませんでしたか?」
「ええと、あなたはどなたの奥方様でしょうか?」
「挨拶が遅くなりまして申し訳ありません!私、山内伊右衛門の嫁の千代と申します」
ああ!某歴史ドラマ「内助の功」の主人公、山内一豊の嫁さんか!雷花と同じ目力強めの美人さんだな
こんな美人な嫁さんが、夫の馬を買う為に親族から渡された結婚プレゼントの大金を出すんだから、とてつもなく惚れられていたんだな一豊さんは
それよりもだ。追いかけている事情くらい聞くか
「あの、千代殿?四歳くらいの女子と申しましたが、もしや山内殿の姫君が何かやらかしたのですか?」
「はい。実は藤吉郎様や寧々様の様に、私も伊右衛門様も身体を鍛えて、子作りも同じくらいの頻度で行ないましたら、前年の出陣前にやや子を授かったのです
そして、神無月の頃に見事男児を産む事が出来ました!柴田様のおかげです!誠にありがとうございます!」
なんか大泣きしてるんですが?本来の目的を忘れてますよ?
「あの千代殿?お子が産まれた事、おめでとうございます。先程言っておりました四歳くらいの姫君を探しているのは、お子が産まれた事に関係あるのですか?」
「そうでした!私の娘の与弥が、弟の子守りを放ったらかして、寧々様達が使っている鍛錬場へ行くと言って走っていったのです!
お恥ずかしい話ですが、少し前まで一人っ子だったので、伊右衛門様も私も甘やかしてしまって」
う〜ん。これは前田利家の摩阿姫と同じくらいおてんばな姫君だな。弟くんの子守りを放ったらかして長刀を振りたいなら、振らせてやろうじゃないか。俺が子守りをしている目の前でな!それで怒られて反省したら良い!
「千代殿。お話は分かりました。与弥姫なら、こちらに!」
俺が横に焼けると
「あ!ちよっと!」
与弥姫と千代さんの目が合う。そして、千代さんが
「与〜弥〜!あなたは、弟の伊千丸の子守りをしないどころか、柴田様の後ろに隠れるなど!」
「ひいっ!柴田様!助けてくだされ!母上が怖いです!」
まったく反省してないな。やっぱりプレッシャーをかけた方が良いな
「千代殿。少しお待ちを。与弥姫。それ程、長刀を振りたいのか?」
「はい!長刀を振って、強くなり、ゆくゆくは源平の時代の巴御前の様になりたいです!」
「これ!与弥!」
「そうか。じゃあ、儂が与弥姫の代わりに弟の伊千丸殿の子守りをやるから、目一杯長刀を振って来なさい」
「そんな!柴田様。恐れ多いです」
「本当ですか?お願いします」
おい。この姫君マジか?普通なら、「そんな事やらせるわけにはいきません!」と言うと思うのだが?
俺の4番目の妹の文より歳下とはいえ、これ程ぶっ飛んだ行動出来るなんて、山内夫婦、本当に甘やかしまくったのか?
まあいい。言った手前だ、史実では存在してない山内一豊の嫡男の世話をしに行くか
「千代殿。与弥姫にも頼まれたので、伊千丸殿の元へ案内してくだされ」
「ほ、本当に良いのですか?」
「ええ。何かありましたら、寧々様や小一郎殿が与弥姫を嗜めると思いますので」
「申し訳ありません。申し訳ありません。私のお役目が終わりましたら、直ぐに戻りますので。此方です」
案内されましたら
「キャッキャッキャッ」
と可愛い声で手を叩いている赤ちゃんが居ました。赤ちゃんと言っても生後7ヶ月くらいなので、乳幼児と言った方が正しいかもしれませんが
そんな伊千丸くんを抱っこしたら、「キャッキャッキャッキャッ」と俺の顔を笑いながらバシバシ叩いて来ます
「伊千丸。そんな事をしては」
それを見た千代さんの顔は真っ青になっておりますが、乳幼児に叩かれても痛くないので、
「まあまあ千代殿。赤子の手で叩かれても大した事はありませぬので。それよりもお役目を早く終わらせてくださった方が有り難いので、お願い出来ますか?」
「は、はい。急いで終わらせて来ます!誠に申し訳ありませぬ。しばらくの間、お願いします」
千代さんは俺に頭を下げた後、走ってお役目に戻った。まあ、寧々様や南三さんみたいな立場の人なら、侍女が居ると思うけど、家臣の正室は持ってる領地が人並だと侍女をつけられないと思うから、
未来みたいにワンオペになるのも仕方ないかな?いつの時代も母親は大変という事で、少しくらい仕事量を減らしてあげましょう
それじゃあ、伊千丸くんを連れて城内散策と行きますか。2年世話になってるけど、あまり知らないし、たまにはこんな日も良いでしょう!